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「A GRAY SWORD」 1-2







 解放軍による王城制圧の報が、噂の段階から現実のものとして人々の間で囁かれるようになり、郊外の地域にもグラの首都から来たアカネイア兵の早馬が触れを出すようになって、マチスはようやく人心地つくことができた。

「もう何日も保たねぇと思ったよ……」

 その科白を体現していたのが彼の部下達で、苦難の長旅をしてきたような風体の数百人もの男達が地べたに伸びきっている。明らかに、喜びよりも疲労感の方が強い。

 今回のグラ戦も例によってというか、もはや定位置となっている『非最前線』の任務を与えられたマチスの部隊だったが、その内容はいつもの輸送路の確保ではなく、もう少し厄介な役が割り振られていた。

 アカネイア解放同盟軍はグラに対して内部工作を仕掛け、有力諸侯に寝返りを打たせて首都への接近を容易な形にした。だが、この動きが中堅程度の豪族に勘付かれ、速攻をかける主力部隊の後背が狙われようとしていた。

 そこでマチスやタリスの面々が地方を抑えるべくグラの各地に向かったのだが、一番の問題になったのは地方勢力ではなかった。

 解放軍がグラ攻めを始めたのは二月の半ば。寒さが緩む直前に戦に入ることで、冬に戦を仕掛けるはずがないと思い込ませているグラの不意を突くのと雪解けの影響で川の水位が上がる時期を避ける狙いだった。が、後者に関してはこの計算が大きく狂った。

 この時節にふさわしくない強い陽気が、グラ一帯にひと足早い春の盛りをもたらし、冬の間に積もった雪を一気に解かして川を増水させ、所によっては氾濫まで起きてしまった。

 その『所によって』がマチスの向かった地域で、人間同士の戦いをするどころか、水害から逃げる地元民の後を追う形で一時の難を逃れる始末。

 これではとても戦にはならないと判断して退却しようとしたが、偵察に出した兵士の報告は芳しくないものだった。逃げてきた一帯が陸の孤島のような状態になっていて、メニディや首都に行ける状態ではないという。

 そこでまず不安になったのが食べ物の事で、持ってきた糧食はさほど多くない。何かを採るにしてもそれらしい場所がなく、妙な偶然でマチス達と同行している地元民の面倒を見る事も考えると(水害から逃れられたのは彼らのおかげである)、一日あたりの食事量はもっと削ることになる。陽気が去って厳しい冷え込みが戻ってくれば燃料も不安材料だ。

 けれど、四の五の言っていてもできる事は限られている。

 水が引いたところを見計らってグラの軍勢が攻めてこない事を祈りながら、マチスの部隊は行動範囲が広くなるのをじっと待つ野宿生活を始めた。

 こうなってみると、騎馬大隊時代から少なかった馬の数が幸いしたようで、軍馬として満足に使えるかどうかはともかく、生きていける程度の彼らの食べ物は下生えの草や木の皮で補うことができた。

 更なる幸いは近隣の水はけが早かったことだ。他の地域の状況はわからなかったが、早いうちに地元民が(被害に遭ったとはいえ)家に戻ることができたので、マチス達も行けるところまで行ってしまおうと早々に野営地を離れた。

 ところがそこへ、別れたはずの村人が彼らに追いついて助けを求めてきたのだった。曰く、自分達の領主が村に近い堤防を完全に壊そうとしている、と。

 敵国の軍隊に救いを求めるのもおかしな話だが、領主は村人がマチス達と一緒に数日を過ごした事を疑い、村を沈めてでもこちらを殲滅しようと息巻いていたらしい。

 請願する村人から他の情報も聞き出し、各部隊長と協議の末に導き出された結論は、堤防の破壊阻止に動くことだった。村人の身がどうというよりも、また水に追われてしまうと完全にお手上げになるからだ。

 堤防の死守にはどうにか成功し、その後は即席の増強やら領主軍との小競り合い、更なる上流地点で領主の意図的な堤防破壊、その被害を食い止めようとしたマチスの部隊と待ち受けていた領主軍の正面衝突――が実現する直前に、解放軍の早馬が村に駆けつけて領主軍にグラの制圧を宣言し、事なきを得た。逆に急襲されるのではないかと用心もしたのだが、それどころではないほどに敵方の衝撃は強かったらしく、その心配は杞憂に終わった。

 早馬で来たアカネイア兵は疲れで倒れこんでいる面々を見渡したが、特に反応を見せるでもなく、マチスに向かって本隊からの指示を一方的に告げて、報告を寄越すように付け加えるとさっさと自分の馬に乗って西の方へ行ってしまった。儀礼も答礼も必要ないとばかりにすっ飛ばして。

 面倒な事を省いてくれるのはありがたいが、おそらく、そういう意味での態度ではない。第五騎馬大隊の名前がなくなっても低く見られている事に変わりはなかった。

 マチスはぶっ倒れている大勢の部下に目を向ける。

「今回はどうなっちまうかねぇ……」

 戦果や収穫といったはっきりとした手柄はないが、今回は普通に戦うよりも苦労している。けれど、首都攻めをしていた連中の半分も報奨が期待できないのが目に見えていれば楽観はしづらい。過剰な褒賞はないに越したことはないが、働きが評価されないのは部下が気の毒である。

 しばらくの間はこの近辺に残って、首都から来る役人の補佐をしながら治水工事も手伝うようにと本隊から指示を受けたが、気を紛らわす役に立つかどうかははなはだ怪しいところだった。





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