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FIRE EMBLEM 暗黒竜と光の剣(9) 「A GRAY SWORD」
(2005年12月) |
(1) どうやら神も味方もいないらしい。 グラの首都が戦の炎に囲まれているのを見つけたが、今から駆けつけても間に合わないと気づいた騎士はただ立ち尽くすだけだった。 長い間グラを格下扱いしてきた隣国アリティアを叩き潰し、ドルーアでの立場を固めてグラの輝かしい歴史がこれから始まるはずだった。 なのに、首都は陥とされた。敵はわずか二年で息を吹き返したのだ。 この状況では、おそらく王は生きていまい。生き残っていたアリティアの王子はグラをひどく恨んでいたはずだ。 「どう、致しますか」 部下に指示を求められて、騎士は だが、これは見栄による条件反射の動きであり、確固たる意思が降りていたわけではない。今すぐに考える必要があった。 敗れたのが決定的であればこれからのグラは敗戦国である。となると、国の行く末を見守るためにここに残るか、思い切って――国王の復讐を誓うかどうかは別にして――グラから離れるか。それぐらいしか選択肢がない。 そんな思案をしているうちに、近づいてくる騎影があるという報告が上がってきた。自然と、部隊を率いる騎士に周囲の視線が集まる。部下のいずれもが救いを求める顔つきをしているのは、敵の可能性が強いからだろう。 助けてほしいのはこちらの方だと言いたいのを堪えて、報告を持ってきた伝令兵に怒鳴る。 「騎影と言うが、どこのものかもわからなかったのか!」 「いえ、こんな印の旗を掲げておりました」 と言うや否や、伝令兵は紋章が刷られた紙を騎士の顔に向けて広げてみせた。 騎士はまず紋章に目を奪われたが、広い紙面に書かれたわずか数行の文中に記されている人名に気づくと、文字通り息をするのも忘れてその紙に見入った。 伝令兵が口元をにやりと歪めて兜を上げてみせる。そこに現れたのは騎士の部下にはいない顔だった。 「残念ながら我々は間に合わなかったのですが、万策が尽きたわけではありません。どうぞ、我らが主の元にお越しください」 彼が持ってきた手紙の紋章はグラでも敵の同盟軍のものでもない。 その紋章だけだったら騎士はまず怒鳴り散らしただろうが、書簡の主の名前を見るとそんな気持ちは一瞬のうちに消え去ってしまった。 とにもかくにも騎士はその使者を信用し、一同を率いて首都から離れることにした。 |