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「00Muse」 2-2






 騒動の元が南地区にあるのはもはや恒例と化しているのか、現場の人だかりを見てもマチスにとって何の物珍しさもなかった。そのほとんどが同盟軍の兵士となれば尚更だった。

 彼の立場からいくと今回は管轄外のような気もしたが、「犯人」が逃走している以上、無関係を決め込むわけにはいかない。探索中に不意を突かれて斬られるのも馬鹿馬鹿しかったし、魔道が絡んでいないことを自分の目で確かめなくてはならなかった。

 マチスが現場に現れると、そこにいた兵士達は怪訝そうな顔をした。今回は部外者だろうとでも言いたげである。

 これに対して、急の報せだけではいまいち事態が把握できなかったから来たのだと言ってみせると、それで納得したのか事件のあらましを話してくれた。ただし、事件の時に居合わせた生き残りの兵士は自分の上官に説明しているということで、ここにはいない。伝聞の又聞きとなる。

 ――この近辺を見廻っていたアカネイア兵士が、断末魔のような男の悲鳴を聞いて現場に駆けつけたところ、返り血を全身に浴びた男がいきなり彼らに斬りかかってきて、あっという間に三人の兵士を倒して逃げていってしまった。無論、残りの兵士が後を追ったのだが、すぐに夕闇の中に紛れてしまったという。

 斬られた兵士は、全員が間もなく事切れた。犠牲者はこれだけではなく、裏稼業風のふたりの男が現場のすぐ奥で死んでいるのが見つかっている。断末魔の主はこのどちらかだと思われた。

 兵士の遺体はもう運び出されていたが、男達のそれが布を被せてそのままで置かれている。念のため検分させてもらうと、傷は明らかに剣筋によるものだった。こうした傷を魔道で作るとすれば風が思い当たるが、もっとズタズタに切り裂きそうなものだし、何よりも使い手は最前線に行っている味方である。最もありえない容疑者だった。

 ともあれ、これで新たな妨害者の存在が確実なものになった。

 ならず者、正体不明の魔道士、殺人鬼――この三者に繋がりがあるかどうかはわからない。殺人鬼に関してはならず者のひとりが事を起こしたようにも思える。それにしても、よくもこう次々と湧いて出てくるものだと感心したくなるほどだ。

 そして、肝要となる犯人の外見の特徴を聞く段になったが、これが実に要領を得ない。返り血か何かで真っ赤に染まっていたせいで、性別と曖昧な背格好しかわからないという。

「見た奴は、赤い影のように見えたと言っていた。それで瞬く間に三人を斬り倒したとな。認めたくないが、凄腕のうちに入るだろうよ」

「赤い影か……けど、体洗って、服を替えたらわからないだろうな」

「井戸にももう人が張りついているだろう。おそらくはな」

 そんな風に話している一同の元に、マチスの部下がやってきた。昼間は一緒だったが今は別行動をしている兵士だ。

「大隊長、今日行った寺院なんですが……」

「寺院? ああ、タリスの王女が行ってた所か」

「えぇ。こう言うのも何ですけど……何かあったみたいですよ」

 今度は何なんだと心の中だけで呟いて、マチスは部下と一緒に件の寺院に向かった。

 中央地区といっても、文字通りに町の中央近辺に位置しているというだけで実質的な意味での町の中心ではない、らしい。南ほどではないが建物が肩を寄せ合うように並び、こぢんまりとした寺院もその中に溶け込んでいる。夜ということもあって、灯りがなければなけなしの威容も感じられなかっただろう。

 寺院の入口が厳重に封鎖されていたため、裏口に回ってみるとここにも人が集まっていた。若干町の住民が多く混ざっているだろうか。

 そんな中、集団で佇む自分の部下の姿を見つけた。

「何があったんだ?」

「多分、人死にだと思うんですけど管轄外ということで入れさせてもらえないんですよ。同じ同盟軍の兵士なのに」

「こうなったらもう、管轄も何もないと思うけどな……」

 魔道の方に専念してほしくて言っているのだろうが、元々町の自警団のお株を奪ってノルダ中をうろつき回っているのだし、事態が悪化しているのだからもっと融通をきかせてもらいたいものだ。

 マチスは裏口に立っている兵士に掛け合うことにした。

「ここで何かあったみたいだけど、どうしたんだ?」

「マケドニア人の大隊長か。悪いけど、あんたの出番じゃないよ」

「この寺院に今日の昼間タリスの王女が行っていたんだ。同盟軍に関係ある場所なんじゃないのか?」

「……それは初めて聞いたな。ならば、隠しておいても仕方ないか。ここを開けるから、あとは中にいるやつに聞いてくれ」

 兵士が開けた扉から寺院の中に入ると、彼らを出迎えるかのように血の跡が床に点々とついていた。薄暗い灯りの中でも赤いのがわかる。何があったのかと訊くのが億劫になるほどわかりやすい証拠だった。

 ほどなくアカネイア兵士に見咎められたが、裏口の時と同じ文句で納得させることができた。

「南地区でも人斬りが出たそうですけど、こっちのも同じかもしれませんね。やられたのは三人ですが……魔道ではなさそうです」

「じゃあ、斬ったような傷なんだな」

「はい、三人ともそうでした」

 安置されている死体のひとりには見覚えがあった。昼間に言葉を交わした僧侶だ。他のひとりもまた僧侶で、残りのひとりが平服を着けた、しかし戦慣れしていそうな体つきの男だった。

「強盗に入ったところをあっちの殺人鬼に斬られたんでしょうね。ならず者とはいえ気の毒ですよ」

「……」

 兵士はそう言ったが、マチスはこの男にも見覚えがあった。

 思い立って乱れたままの髪を整えてみると、その予感は的中した。 死んだ男の正体は、顔見知りのアリティアの兵士だったのだ。

「どういう事だよ、これ……」

 ここにいないはずの存在と言えなくもないが、伝令で訪れたのならありえない話ではない。平服なのも何かの理由があっての事だろう。

 そうなると、ここは同盟軍にとってこの寺院はどういう場所だったのだろうか。本隊が拠点にしていないこの町で、タリス王女が訪れ、アリティア兵士が居る必要があった理由とは何か。そして、そんな建物が殺戮者の襲撃を受けた事は単なる偶然なのか、否か。

「なんか、もっと大変な事に巻き込まれてるんじゃないか……?」

 心の中に渦巻く不安が、思わず口を突いて出てしまった。





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