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「00Muse」 1-6






 街門に着いて女性ふたりから解放され、マチスはここでマリアを待ち続けている部下の下へと向かった。

「まだ来てないか?」

「ええ。夕方頃にならないと動くに動けないのかもしれないですね」

「そうか……。だったら、また南地区に行った方がいいな」

 あのアンナという女性に関わって多少の時間をくってしまったが、まだ陽は落ちない。本来の任務を再開させるべきだった。

 とりあえず分隊をこのまま分けておくのも不都合なので、街門の兵士にマリアが到着したら便宜をはかってほしいと伝えて、今度は南へ行けるところまで行くことにした。

 そこからは適当に曲がって行こうと決めていたのだが、その南進中にどこかから騒ぎ立てる声が聞こえてきた。

 声の出所へ向かうと、脇道から何かを懸命に引きずり出すアカネイア兵士の姿があった。しっかりしろと声をかけている。駆けつけてみてようやく、それが兵装の焦げた彼の仲間だとわかった。

 仲間を救出した兵士はマチスを見るや、前方の細い路地を指さした。

「あっちだ! 多分、魔道の使い手がいる!」

 そう言われてしまえば、準備をしないわけにはいかない。部下に聖水の瓶を開けてもらうように頼む一方で、マチスはアカネイア兵士から詳しい状況を訊いた。

「他の仲間はどうしたんだ、一緒にいただろ」

「わからん。他の所から逃げきったのかもしれないが……」

 一歩踏み出して試しに路地の方に耳を澄ませても、何者の声も聞こえてこなかった。最悪の事態を自然と想像してしまい、顔をしかめる。

「とりあえず、そいつに手当てしとけよ!」

 本来は蒸発させて使う聖水だったが、その手間も惜しく瓶からそのまま被って路地に躍り出した。部下の制止の声が聞こえたが無視を決め込む。パレス奪回戦のために戦っている大隊の皆の事を思えば、ここで先頭に立つくらい何ともない。むしろ生温いくらいだった。

 陽の光が入らない路地をざっと見渡す限り人影は見当たらなかったが、あちこちにある曲がり角が実に曲者である。何が待ち伏せしていてもおかしくない。

 アカネイア兵士の言葉を信じるなら相手は魔道士で、あれほどの傷を負わせているのだから、複数人いるか強力な魔道を用いていると考えるべきだった。

 となると、広い所におびき出さないと分が悪い。

「……足はあんまり速くないんだけどな」



 それ、、の訪れは、何の前触れもなく唐突だった。




 薄暗い道が瞬時にして真夏の光で満たされ、目をかばった人間の腕や胴体に幾条もの線をつけて軽く焦がしていく。

 マチスは顔全体を腕でかばいながら、後ろから来ていた部下に向かって怒鳴った。

「早く後ろに退がれ! まだ来るぞ!」

 後で言った方の言葉は何の確証もない。勘ですらなかった。だが、この警戒はして当然のものだ。来なければそれに越したことはない、それだけだ。

 この光は雷でも電撃でもない。魔道構成の一、光そのものだった。修行時代に講義の端で耳にした光の魔道・オーラとは様相が違う気がしたが、基本的な魔道とはやはり異なる。

 目を開けば視界は光で全てを塗りつぶされ、目をつぶってもまぶたの裏に緑の光がつきまとってくる。

 体を傷つける熱線のようなものは去ったようだが目が全く役に立たないために、追いかけるどころか下がるための方向転換さえままならない。腰を引くような姿勢でじりじりと後退するしかなかった。

 前からまだ何かがやってくるのかどうか、そんな事は考えなかった。「来ない」と信じきらなくては、あまりの恐怖に足が止まってしまう。

 不意に、マチスの体が両腕の付け根から引っ張られた。両脇から他者の腕が差し込み、肩を締めつけている。そして、踵を地面に摺りながら後ろへ引きずられていく。

 通りに着いたのか腕を離され、地べたに座る彼の近くを何人もの人間が駆け抜けていく気配がした。

 視界を取り戻すために、手で覆った闇の中で慎重に目を開く。目が異常を訴えることはなく、次は露天の光を徐々に受け入れていった。

 時間をかけて目を完全に慣らした頃、彼の部下が路地から怪我をしたアカネイア兵士を何人か運び出していた。

 さっきの光にやられたのだとマチスは思っていたが、応急手当の様子を見ているとむしろ様々な魔道の痕跡があった。ある者は火か炎、ある者は雷と推測できた。

 光の攻撃を受けたことでマチスはある予測をしたのだが、この様子を見るとその予感はひとまず引っ込めておいた方が良さそうだと思い直した。

 部下から路地の中にはもう誰もいないという報告を受けて、ひとまず怪我人を宿舎に運び込むことなった。





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