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「00Muse」 1-4 |
* 翌日、マチスは小隊を三つに分けた分隊のひとつを引き連れて、南地区の探索に向かった。 昨日はあれからアカネイア騎士やシーザを相手に情報交換しているうちに夕刻に近づいてしまったため、今朝が探索の本始動になる。 名目としては魔道対策の相談役だが、実際にできる事は傭兵や騎士達とほとんど変わらない。伝令の言うように、ここに残った人達の気持ちにいい方向で作用できれば上出来である。 逆に言えば、マチスの付加価値は彼らにとって気休めでしかない。夢見の悪い思いをする前に、ここは早期解決を計りたいものだった。 魔道対策として聖水を持ち歩き三時ほどが経過したが、積極的な思いが空回りするのか、問題の魔道どころかならず者の姿すら見かけない。出くわすのは同盟軍の兵士や大きい通りを歩く町の住人くらいだ。 太陽が傾き始めたところで、一同は今までの道を引き返し始めた。早く引き上げようというのではなく、北側の町並を把握するためだ。どうせ短期戦だろうと踏んでいるものの、町の位置関係を覚えておけば動きが取りやすくなる。 大通りを北に歩いて街門がうっすらと見える所まで戻ってくると、左手の貯水池の近くに女性ばかりがたむろって楽しそうにお喋りしているのが聞こえてきた。南の方で剣呑な顔つきをして歩く同業の連中が気の毒になるくらいの平和ぶりである。 ここで立ち止まっていても仕方がないので、次は道を変えてそこから南の方へ行ってみようか――などと話し合っていると、見覚えのある兵士がこちらに向かって走ってきていた。他ならぬ彼らと同じ第五騎馬大隊の兵士である。この兵士はマチスとは別の分隊に割り当てられていた。 「大隊長、こちらに居らっしゃいましたか」 この規模だとせいぜい分隊長のような気がしたが、茶々を入れるのはやめておいた。 「どうかしたか?」 「これを」 短く言って手渡してきたのは、簡単に封をした手紙だった。差出人の名前も宛名もない。 「誰がこれを?」 「自分はシーダ王女から受け取りましたが、ミネルバ様からのご伝言だそうです。至急届けてほしいと言われました」 「……」 マチスにとって苦手な固有名詞がふたつも出てきたが、部下の手前、顔をしかめず平静を保たなければならなかった。特にミネルバに対しては、ようやく機嫌伺いの日々から解放されたと思っていただけに、落胆と嫌な予感が胸の内に広がってしまう。 羽を伸ばしていたのを気づかれたんだろうか――そんな事を思いながら手紙の封を切る。 中を開いてみると、よほど急いだのかあるいは不安定な物の上で書いたのか、紙を斜めにして読みたくなるような短い文が何行か綴られていた。 最初の文を目に映した時点でマチスの顔つきは完全に固まり、以下の文は目を動かしているだけの状態だった。顔をしかめるのを堪えるというよりは、頭の中が真っ白になったというのが正しい。 そんな反応を呼び起こしたこの手紙には、 マリアがそちらへ行く とだけ書かれている。 「ど〜して、そんな方向に行くかねぇ……」 何がどう間違ってこんな事態になったのかを訊きたい衝動もあったが、この手紙を見なかったことにして現実逃避したい気分の方が強かった。 それにしてもと思うのは、何を好き好んでこの厄介な町に送り出すのかだ。 マリアは戦場に絡む役割を与えられていない。ミネルバの希望と、十二歳という年齢を考慮してのことだ。もっとも、この若年にして法力の杖の心得があるので、身分さえ邪魔しなければ医療部隊で歓迎されていただろう。 ニーナの近くに居れば、まず前線の戦火に巻き込まれない――と、アカネイア王女自らの勧めもあって、行軍時にはマリアは彼女の側につくことが決まっていた。だが、今回のニーナは祖国の城を取り戻す戦いに立ち会うために、本隊の中陣に入っていた。それがわかった時点で後続の部隊に同行しても良さそうなものだったが、それでも彼女はニーナの側について、本隊と共にパレスの前までやってきた。 そんなマリアをノルダに行かせるのは避難のためだと思われたが、町の中に入れるなと書いてあるように、ここも決して安全ではない。 手紙の内容を部下に教えると、そのうちのひとりが問いかけてきた。 「では、ここでマリア様の到着を待つんですか?」 「どうするかな……そうする必要はあるだろうけど、いつ来るのかわからないのをみんなして待っているのも、時間がもったいないな」 |