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「00Muse」 1-3






 マチスがノルダの町をしばらく南に歩いていると、細い脇道から人の列が出てくるのに出くわした。道の出口に立っているのはワーレン傭兵部隊の長を務めるシーザだ。同盟軍には一兵士として志願したらしいが、以前の職を評価されて部隊長に命じられている。

 声をかけようとしたが、その前に向こうもこちらの存在に気づいた。この町にいるはずのない人間を見て怪訝そうな顔をしていたが、その表情を消してマチスに近づいてきた。

「これは第五騎馬大隊長。最前線に行っていると聞いていましたが、作戦が変わったのですか?」

「魔道がわかる人間に来てほしいって頼んだんだって?」

 間髪入れずに訊き返した。何とはなしに素直に話す気にはなれない。底意地が悪いのではなく、相応しくないと思うからだ。

 マチスの疑問に、シーザは諦念の影をまとって答えてくる。

「確かに救援を要請しました。どうやら、空振りに終わったようですが……もしや、その事を伝えるためだけに、ここに?」

「まさか」

 それだったら前線に引き返せるだけ三倍マシだと思ったが、言ったところで虚しいだけなのでこの一言だけでやめておいた。

 伝令が事の顛末をシーザに告げようとするのを軽く制しておいて、話を続ける。

「最初から断られると思って、本隊に報せを出したのか?」

「パレス奪還の大事に比べれば、こちらは小事です。来ていただければ儲け物くらいの気持ちでいましたよ」

「儲け物、ね……」

 今回の場合、兎狩りの罠に狸がかかったようなものである。儲けどころか、代用品に値するかどうかも怪しい。

 投げやりになりたい気分を無理矢理切り替えて、別の話題を振った。

「ところで、ここで何があったんだ?」

「あぁ、不審な動きをしていた者がいたので後を追っていました。逃げられてしまいましたが、魔道で威嚇してきたということなので、おそらくは魔道士でしょう」

「じゃあ、本当にこの町に居るのか……」

「俺は見てませんが、あれだけ証言があれば間違いないと思います」

 ちょうど路地からの人の流れがなくなり、マチスはシーザに一言断って道の奥まで見られる場所に立ち位置を変えた。

 その道は大人三人が並んで歩ける程度の幅で、南北から二階建ての建物に挟まれているために薄暗い。

 魔道の話が出た割に、そんな感じで破壊された物は見当たらなかった。魔道を放ったのはここに逃げ込む前だったのかもしれない。

 一見を終えたマチスに、伝令が話しかけてきた。

「何かわかりましたか?」

「いんや。逃げていっただけなんだと思う。多分」

「……どういう事です?」

 側でやり取りを聞いていたシーザがマチスに視線を向けた。顔つきがいやに固い。

 これは明かしてしまうしかなかった。

「おれが魔道士の代役に指名されちまったんだよ。魔道の修行をした事があるってだけで」

「大隊長が?」

「そ〜いうつらじゃないってのはわかってるから」

「いや、そうした問題でなくて…………その、予想外というだけで」

「大丈夫ですよ、傭兵隊長殿。この方はウェンデル司祭の推薦で来ているんですから」

 伝令のいらん口添えに、シーザが目を見張った。

「魔道士でもないのにか?」

「はい。何でも、以前に風の精霊を――」

 本人が自慢にしたくない話が始まり、マチスは連れてきた小隊の隊員に混ざってこれをやり過ごすことにした。事実かもしれないが、聞きたい内容ではない。

「絶対にみんなを騙してるって、これは……」

「魔道の修行をしてたんだから、力になれますって。大丈夫ですよ」

「そう言うけど、解決できなきゃ詐欺扱いされて好き放題言われるだろ。それが嫌なんだよ……」

 伝令の話にシーザがどんな反応を見せるのかと、マチスがふたりを窺うと、ワーレン傭兵隊の隊長も前例に漏れずあっさりと納得してしまっていた。いないよりマシだと思ったのか、それほどに魔道というのがほとんどの人にとって縁がないのか、真実は定かではない。

 残るはアカネイア兵の指揮官だが、彼を捜す前に魔道のような痕が外壁についた建物に案内したいと伝令が言い出した。人を捜して南地区を適当に歩き回って時間を潰すよりも、できるとわかっている事を先にこなしたいのだろう。

 シーザとはその場で別れて、マチス達はうらぶれた建物を眺めながら歩を進めていた。

 ノルダの南地区というのは脇道のいちいちが狭く、ほとんどの家屋が裏屋という状態になっている。そのせいか、北地区と比べると陰鬱な印象をマチスは受けた。しかしながら、こうした場所が町の裏の顔を担っていたりすることもある。聞けば、少なからぬ数の商人が家を持ったり間借りしたりして、何やら怪しい雰囲気は前々からあったとのことだった。

 しばらくして伝令が足を止め、ある路地を指した。

「この奥です。先頭に立つのは危ないと思いますので……」

 と伝令が言うと、すかさずマチスの部下が前に出てきた。先に入って行こうというのだろう。止めたところで言い返されるのはわかっていたから、何も言わずに行かせることにした。

 特にこれといった人影もなく安全が確認されて、マチスも伝令と一緒に路地に入った。

 昼間でもなお暗い空間からをふと空を見上げると、青空が覗いていた。天高い秋晴れだ。

 こんな場所から空を見ていると、今日の天気の良さが無駄に強調されて逆にしみじみとしてくる。最前線に残っての殺し合いもどうかと思うが、こんな日に暗い道に入って何をしているのだろうとも思えた。

 伝令がある壁を指し示す。そこには線状の痕があった。

「他の所はほとんどが燃えた跡だったんですが、ここだけがこんな痕です。一度に発見された死体の数が一番多かったのもここだそうです」

「それ、町の人……だよな」

「ある意味ではそうですが、こんな所をうろつく体格のいい男は大体が町を荒らしていたごろつきです。今のところ、死体の中に女性や年寄りはいないようですから、そう考えていただいていいと思います」

 ノルダに残った人間の本来の役目は、町に残っているならず者の駆逐である。町の治安のためであり、ドルーア分子の排除の意味合いもある。今回は、無力な住民に被害が及ばぬようにして、彼らは見捨てても仕方ないという雰囲気なのだろう。

 壁についた痕を観察してみたが、亀裂にならずに線で留まっているから、どの魔道でこうなったのか、そもそも魔道のものかどうかすら見当がつかなかった。線そのものは焦げているが、だからといって高温の物でどうにかしたと断定するのも憚られる。摩擦のせいかもしれないからだ。

 何も掴めないまま長居しても仕方ないと全員で通りに戻ると、アカネイアの騎士が部下を連れてこちらを窺っていた。表に残っていた第五騎馬大隊の小隊に気づいたのだろう。

 彼らを見た伝令が騎士の前に立って、本隊での顛末を話し始めた。やがて、マチスがここに居る理由も彼らに明かされることだろう。

 また精霊云々の事で騒がれるのかと思うと、少し憂鬱な気分だった。





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