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「00Muse」 1-2






 予定が狂わなければ、マチスは第五騎馬大隊(という名の部隊)の指揮官としてパレス奪回戦の初戦となる砦攻めの先陣に立つはずだった。実際、ノルダに戻る前は最前線に立って槍を並べ、戦端が開く時を待っていたのである。

 この部隊が最前線に配置されるのは非常に珍しい事だった。だが、戦略の都合上レフカンディ付近に大軍を残したために、パレスという場所の重要性に比して本隊の総勢は少なくなった。そのため、総力戦となる今回では、普段は縁のない配置になっても当然の事として受け止めることができた。最前線の配置を予想できていたというのもある。

 かといって淡白な心構えで臨んだわけではなかった。パレス攻めの最前線を命じられた時には、熾烈な戦をまともに戦った上で生き延びるために、死ぬくらいの覚悟をもって全力を尽くそうと相当に意気込んでいたのだ。自分は元より、大勢の部下を生還させるためである。その一念を貫くために、余計な思考――ディールで強いられることになったミネルバへのお追従ついしょうの記憶や、パレス近くに陣取るマムクートへの恐怖など――を頭の中から追い出して、突入戦の事だけに気持ちを向けていたのである。

 しかし、そこへ本隊に救援を求めたノルダからの伝令が駆けつけてきたために、事態は変わってしまった。

 この時のノルダにはワーレン傭兵隊とアカネイア騎士の一団が残っていた。ドルーア軍やグルニア軍の大規模な拠点ではなかったから解放は滞りなく終わったものの、治安の悪かった町であるだけにそのまま立ち去るのも危ぶまれたため、およそ三百人を置いていったのだ。

 その彼らに後を任せてわずか二日、どんな不都合があったのかと緊急の軍議を設けて事情を聞くと、その答えは本隊の主だった者達が予想だにしなかったものだった。

 伝令の話によると、ノルダの町の中に魔道の使い手らしき者が潜伏していて、それらしき痕のある死体が発見されたり、建物に不可思議な傷がついたりしているのだという。実際に魔道のようなものが発現しているのを騎士や傭兵も多数目撃していて、決して虚言などではないと彼は断言した。

 ノルダに残ったアカネイア騎士には、行方不明になっている大司祭ミロアの娘リンダを捜し出す目的も課せられていた。その彼らの推測では、リンダを狙うガーネフの手の者がこちらを同盟軍と知って妨害しているのではないかということだった。

 つまり、この魔道らしきものを放って不穏の原因を作っているのはガーネフ配下の者で、この連中を討伐するために魔道に精通した人間の手を借りたいというのである。

 しかし本隊の方にも都合があった。パレス近くに陣取るマムクートに対抗するためにウェンデルとマリクの魔道が必要だったため、その請いには応えられないと断らざるを得なかったのである。

 魔道は聖水かマジック・シールドの杖である程度の防御ができる。本隊の物資からそれらを持ち出すなりノルダの商人から仕入れるなりすればそれで充分だろうと助言しても、伝令はまだ渋い顔をしていた。

 魔道とはおおよそ未知のものである。味方としては大変頼もしい力だが、敵に回れば翻弄されるに違いないと妙な先入観が身に付いてしまっている。それに、聖水などは時間が経てば効果が弱くなってしまい、長期戦を見込んだ予備策としては不安が残る。だから、使い手とまでは言わなくても魔道について知っている人に来てもらって、ノルダにいる兵士達の気持ちを持ち直させたいのだと弁明した。

 本隊の側とて好きで冷たくしているのではない。魔道の使い手が危害を加える目的のために町を跋扈していては、住民の身の安全などないも同然なのだ。しかしこの大きな戦いでは、魔道士や司祭は元より、僧侶の手も放せない状況なのである。これには、軍議に出ていた全員が胸を痛めていた。

 どうにかしてやりたいのはやまやまだが、どうにもできない――しばらくして、ジェイガンが再度伝令に断りを入れようと顔を上げたその瞬間、ウェンデルが割って入ってきた。

 そして何を思ったか、軍議の端で半ば聴衆になっていたマチスを「魔道の知識を持つ者」として推薦したのだった。

 彼の出自を知る者はおぼろげに頷き、知らぬ者は顔に疑問符を浮かべた。だが、一番驚かされたのは当の本人だ。

 どこからどんな風にしたら魔道士のなり損ないにそんな話が回ってくるのかと抗議しようとしたが、その前に彼の近くにいた人間によって説得が始まってしまった。曰く『最善ではないがそれが次善策だ』とか『頼むから、丸く収めさせてくれ』だとか。

 一方のウェンデルはマチスを推す根拠を一同に述べ、オレルアンの草原で風の精霊を感知した「実績」が披露されると、尊敬の(ような)眼差しがマチスに向けられた。いつもは軽侮の目を向けてくるアカネイアの騎士さえ態度を改めたのだから、照れくさいを通り越して気味が悪い。

 ノルダからの伝令を始め、軍議の面々にはその話で収まりがついたが、肝心のマチスは周囲の説得を跳ね除けて未だ難色を示していた。精霊感知の件はオレルアンの草原を出てから一度も起こっていないし、相手が普通の魔道であれば免疫のない人間と同じように聖水で身を守るしかない。どう言い繕っても魔道士の代役が務まるとは思えなかったのだ。

 だが、何が一番気がかりかといえば自分の部隊の事だった。この話の流れでは彼だけがノルダに行くことになってしまい、(おおよそ役に立てるとは思えない任務のために)この大一番に部下を置いて戦場を離れるのは抵抗がある――と一同に訴えた。

 ところが、その二刻後にマチスは自分の部隊からは小隊だけを連れて、伝令と共に本隊を離れていた。それは何故なのか。

 詰まるところ、本来の指揮官がいなくても大丈夫と太鼓判を押される優秀な部下は普段なら有難いが、今回の場合はそれがマチスの仇になったのだった。





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