トップ>同人活動記録>FE暗黒竜小説INDEX>6 BRAND 3-5
「BRAND」 3-5 |
* 本館の広い応接室に通されると、豪華な椅子に軽く手をついてマルスが立っているのが見えた。至って健康そうで、以前の不調は全く感じさせない。 だが、まだその傾向が続いているのか、マチスがこの部屋に入る際にジェイガンから「用件は手短にな」と言われてしまったのである。あれから相当日が経ち、戦場にも出ていたというから快癒したのかと思われたが、そうではないらしい。 「それで、僕に用事って?」 アリティアの王子の問いかけに、マチスは以前と同じように畏まりもせず、正面から答えた。 「 多くの人を驚かせたこの科白は、マルスには少し眉を上げさせただけだった。 「どうして?」 「ミネルバ王女が同盟軍に入ったからだよ。おれが王女に忠誠を誓わないってのが、部下のみんなには嫌みたいなんでね」 マチスは他の理由も要点だけを話した。『受け皿』のこと、将を務めるにしては騎士としての実力に疑問符がつくこと。この後の処遇は降格扱いで構わないことも付け加えた。 全てを聞き終わったマルスは、なるほどねと言って頷いた。 「最初の話でそう言ってたね、代わりがいればこの役目を譲るって言ってたの覚えてるよ。でも、いくら嫌がられていても、部隊の皆には話していないとまずいんじゃないのかな」 「みんなにはもう話した。部隊の承諾まではいかなかったけど、本営の判断に任せることになったから」 「意見が割れたの?」 「おおよそは辞めろって方向で固まってた」 「でも、こっちに判断を委ねたのならそれに従う、と。一応訊くけど、マチスが同盟軍を抜けるわけじゃないんだよね」 「だったら、わざわざ断らないんじゃないか……?」 「それもそうだね。ところで、ミネルバ王女には会った?」 話題が逸れたのをマチスは訝ったが、これも判断材料なのだろうと思うことにした。 「会うには会った」 「でも、忠誠を誓う気持ちはないわけだね」 「……おれはドルーア相手に戦ってるだけだから。命を拾ってもらった恩はこれで充分に返せてると思うんだけどな」 「おまけに、二度も大きいところで助けてもらってるしね。七月の時は特にそうだ。後方で大手柄を上げる武人なんてなかなかいないよ」 マルスの意図は明白だった。辞めてくれるなと言っているのだ。 だが、マチスはなおも反論する。 「そんなのは結果であって、みんなの力がなかったらそんな風にはなっていない。その人達から辞めろって言われてるんだから、続けたとしても今まで通りにはいかないだろ」 「辞めたとしても、大隊に残っていたら周りはミネルバ王女に従う人ばかりで居心地が悪いんじゃないのかい?」 「居場所があるなら他の隊に行かせてもらうし、無理なら形だけでも周りに合わせる。マケドニア軍にいた時がそうだから、できないわけじゃない」 「大隊長のまま同じ事はできないかな――一ヶ月だけでも」 マルスが微動だにせず、こちらを見据えてくる。 「一ヶ月?」 「ちゃんと言えばパレスを取り戻すまで」 パレスまでの戦いといえば、これもマチスが自分で指揮を執るのを避けようとしていた事だ。 思わず、マチスは口の端をひきつるように持ち上げてしまった。 「どうしても、今辞められないのか……?」 「悪いけど、僕としてはそう言うしかない」 ぴしゃりと言い切った。 軍の大将の命令とあれば、背くわけにはいかない。王族である時点で突っぱねたいのはやまやまだが、命の恩人でもある。 「『受け皿』に関しては任務完了って言っていいんだけどね。でも、大隊長の件は、パレスを取り戻すまでが今回の作戦だから、それまでは待ってほしい。その後でもう一度言ってきてくれれば、考えてみるよ」 「……」 思い返してみれば、そこまでが『九月の戦略』だった。マチスとしてみれば、自分ひとりが長にいなくても大丈夫と踏んでの請願だったのだが、マルスには違う思惑があるようだった。この分ではなお食い下がっても命令だからと突っぱねられてしまうだろう。 「最初からダメだったってことか……」 「必要だったら、隊の中への便宜は図るよ。あくまでも同盟軍の部隊だから、こっちから強制力をかけることもできる」 アリティア王子の強い言葉に、マチスは肩を落としたまま首を振った。 「いや、それはなるべく頼らないようにしてみる」 「そう、わかったよ」 このやりとりを期に面会は終わり、マチスとボルポートが部屋から出て行くと、側についていたジェイガンが主君に話しかけた。 「少々長ぅございましたな」 「悪いね。でも、今は大丈夫なんだ。 「そんな事を言っていたのですか……? マルス様に仕えてもらわねば困るというのに」 「僕は、あの人を面白い人だと思うだけだけど、今のも面白いって思ったんだけど、どうなんだろうね、辞めさせてあげた方が良かったのかな」 「今しがたの事はわかりませぬが、王子の仰った通り作戦の事がありますから、まだそのままでよろしいでしょう」 「うまくやってくれるといいんだけどね」 |