トップ>同人活動記録>FE暗黒竜小説INDEX>6 BRAND 3-4
「BRAND」 3-4 |
* 用件の話題を終えてマチスが退室を求めると、それはあっさりと叶えられた。考え事をするそぶりを見せたのが効を奏したらしい。 別室に顔を出すと、待っていたレナとボルポートに出迎えられた。 特にレナはマチスが不機嫌そうにせず、かといってすっきりした顔もしていないのを見て、ほっとした表情を見せた。 「良かった。こじらせないで済んだみたいで」 「まあ、な」 ムキにさせたが、言葉をそのまま当てはめれば嘘ではない。実際、良い返事を期待していると言われてミネルバと別れたのだから。 ここで話を続けるのも何だからと外に出ると、これ以上は仕事を放っておけないと言ってレナがふたりに別れを告げた。 離れていく赤い後ろ姿を見ながら、マチスが呟く。 「無難に会わせたし、これで一安心ってことなのかねぇ……」 「そうかもしれませんな。それで、実際のところはどうだったのです?」 「……なんか、信用ないんだな」 「あまり穏便に済みそうな取り合わせではないですから」 ふたりは歩き始めた。当てはないが中庭の中央へ向かう形になる。 「最後がこじれなかったのはほんとだよ。まあ、怒らせる事も言ったことは言ったけど。だからって従うわけでもないんだけど、さ……」 「どうしました、ため息なんかついて」 「ミネルバ王女のどこがいいんだろうなって思って」 ボルポートの右眉がぐいと上がる。疑問の面持ちだった。 「どういう意味で、そうおっしゃるのですか」 「マケドニア軍に居た頃の噂じゃ、赤い竜騎士とか言われて凄かっただろ。おれはあんまりまともに聞いてなかったんだけど、それでもオレルアンを攻める時に同じ陣にいた奴の話とかがやけに熱狂的だったんだよ。それに、大隊があんな反応だったから……変な言い方だけど、ちょっと期待してたんだ」 ざっと強い踏み込みと共に、ボルポートの足が止まった。 「あなたが、ミネルバ王女に、き、期待していたのですか……?」 相当驚いたのか、彼の目は限度いっぱいに見開かれていた。 一方、言わなきゃ良かったとばかりにマチスはふてくされている。 「悪かったな。どうせおれにゃそういうのは似合わねぇだろうよ」 「あ、いえ、すいません。……その、似合わないとかそういう問題ではなく、あなたは絶対にそういう事を言わないと思っていたので」 「だから言ってるだろ、変な言い方だって。期待っていうか、それだけ凄いんだろうなって思ってたんだよ。でも、違ってた」 「どのように、です?」 「どうって……」 と、そこへ、大柄な人間の集団が近づいてきているのが見えた。 その先頭にはさっき別れたばかりの顔と、これまた覚えの強い顔がいる。ロジャーとドーガだった。そして、他の面々もよく見ればアリティアとグルニアの重騎士である。六人ほどの重騎士で集まっているのを改めてよく見ると、威容すら感じられた。 アリティアの重騎士長がマチスに声をかけてくる。 「どうしたよ、こんな所で」 「そっちは?」 「ロジャー殿が追いついてくれたんでな、演習に付き合ってもらうところだ。大勢の軍人の勢いってのを、うちの素人上がりの連中に見せてもらおうと思ってな」 着いた早々休む暇なく訓練とは気の毒な限りだが、ロジャー達グルニア人の重騎士は嫌そうな顔ひとつしていない。根本的に体力が違うのか、それとも精神力の賜物か。 事情を察していたロジャーが話しかけてきた。 「ここにいるということは、そういう事になったのか?」 本営の建物はマチス達の左手に見えている。 「みんなが決められないっていうから、じゃあ本営の判断を仰いでくれって決定になったんだよ」 「結局は、そうなったのか……」 話の見えないドーガが、眉根を寄せて問いかける。 「何の話だ?」 「あぁ、おれが大隊長を辞めるって話だよ」 「ん?」 あまりにもマチスの口調が、世間話と同じようなものだったせいか、ドーガがもう一度訊き直してきた。 「何て言った?」 「だから、おれが大隊長を辞めるんだ」 「大隊長を、辞める……?」 アリティアの重騎士が驚く横で、ロジャーとボルポートはいたたまれない、というかマチスを非難する顔をしていた。 「こういう事は軽々しく言うものではないだろうが……」 「でも決めた事だし……黙ってても仕方ない気がしたから」 「物には言い方というものがある気がしますが」 と、これはボルポートだった。そう言う割に無表情である。 それどころではなかったのが、初めて聞かされたドーガだった。 「ちょっと待て、じゃあここに居るのはマルス王子に願い出るためなのか?」 「そう」 「…………どうして、辞めるなんて言い出した?」 ドーガの顔つきはおそろしく真剣だった。 気圧される寸前のていでマチスがどうにか返答する。 「どうしてって……ミネルバ王女が同盟軍に来たからだよ。 「だからって、お前な……」 続きを言おうとしたドーガの口は、しかし止まってしまった。 ドーガもマルスという王族に従っている身なので、味方の王族に反するように部下を説得しろとは言えない。あるいは、あくまでも同盟軍の部隊なのだから従えと強制しろと言ったところで、マチスの普段の言動からすると、そうした意思を呼び起こすのは至難の業である。 打つ手なしの現状を悟り、ドーガは唸るしかなかった。 「つっくづく救いようのねぇ……」 「俺にはよくわからんのだが、そこまで惜しむほどなのか?」 ロジャーの問いに、ドーガがまた小さく唸った。 「惜しいっていうかな、良くも悪くも何かやらかしそうなんだ。堅実とか猛進とかとは違うんだが、なかなか代わりはいないような奴なんだよ。簡単に言や面白い」 これを聞いていて釈然としなかったのがマチスである。 「ひでぇ言われ方だな……」 「ある意味では褒め言葉でしょう。あなたの評価の振り幅が大きいのはいつもの事ですから」 副官が冷静に言い放つ一方で、ドーガの方はまだ手立てを打ち出していた。 「お前さんから部下に合わせるってのはないのか?」 「それをやったら、今まで言ってきた事全部ひっくり返すようになるだろ」 「まぁ、そりゃそうだがな……」 と、また考え込みそうになったドーガだったが、突然それを打ち切った。 「俺がいくら言っても仕方ねぇ。ウチの王子の判断を仰いでくれや。多分、同じ事を言うと思うけどな。 演習があるから、俺はもう行くわ」 言うなり、返事も待たずに歩き出した。ロジャーも、 「長くかからねば良いな」 と、ドーガとほとんど並ぶ形で歩いていった。部下達も追っていく。 一団の後姿を見送って、マチスとボルポートは領主館の本館へ足を向けた。 前を向いたままの小声が、ボルポートから発せられる。 「先程の話の続きですが、ミネルバ王女にどんな印象を持ったのです?」 「きれい好きっていうのかな、体裁とか面子をやけに気にしてる感じがした」 「王族には幻想が求められますし、女性のことならなおのこと体面を気にするでしょう。あなたには気にくわないでしょうが、むしろ当然のことです。ちなみに、どういう方だと想像していたのですか?」 「もっと、強引にでも人を引っ張っていくと思ってたんだよ。おれみたいのでも惹きつけちまうっていうか。だったら、もう大隊長も辞めるし、『受け皿』の繋ぎ役でも仕方ないかってちゃんと納得したんだけどな……」 「……」 「でもまあ、おれの思い込みが外れてたってだけだし、今は自分のことを先に決着つけたいから」 そう言って、マチスは話を打ち切ってしまった。 |