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「BRAND」 3-1




(3)


 明くる日の正午を待たずに、マチス達は目的地に到着した。

 要塞からは一時余りの行程と、さほど時間はかかっていない。悪路を警戒した当てが外れたことになったが、不満の声は出なかった。第五騎馬大隊の兵士を中心に昨夜の出来事が尾を引いて、行軍中は不気味なほど静かだったのだ。

 町の門を守る同盟軍の兵士に到着を報せると、角笛の音が鳴らされ、ふたつの部隊は町へといざなわれた。

 宿舎の割り振りや到着・収支報告を終えて、急ぎの用事を全て済ませて宿舎に戻ったマチスを、第五騎馬大隊の各部隊長とボルポートが待ち構えていた。

「じゃ、始めますか」

「それなんだが……」

 と、都合悪そうに言ったのは騎馬騎士部隊長だった。

「悪いが、報告に行っている間に話し合わせてもらった」

「へぇ? ……それで?」

「我々では決められん」

 思わず仏頂面になったマチスである。

「そういうのは、決めたって言わないだろ」

「ああ。だから、あれだ。本営のマルス王子なり、ジェイガン卿なりにお頼みして決めて頂こうと思っている」

「うーん……」

 今度は俯いて唸ったマチスだった。

 最終的には本営にも話をつけなければならない。むしろ、この決定権はそちらの方にあると言ってもいいだろう。だからといって、何の前ふりもなく本営に話すのは嫌だった。それでは部隊の皆を軽んじているように思えたからだ。そして、できれば彼ら自身で意思を固めておいてほしかったのだ。

 だが、実際には決定には至っていない。

「どうしてそうなったかなぁ……」

「皆、あんたには恩があるんだ。辞めさせるってのは無理なんだよ」

「だからってな……」

 まるでマチスの方が悪者になった雰囲気が漂っている。この大隊長は上を軽んじるくせに下には弱いというか、甘く、結局は攻めきれない。もっとも、下の者のために頑なに守る自分の主張を曲げるかというと、それは別なのだが。

「ぐずぐずしてるのも何だし、早いところ本営に行こう」

 と、出発を促した騎馬騎士部隊長に待ったをかけた人がいた。

 進み出てきたのはボルポートである。

「わたしに行かせてくれないか」

「副官殿が?」

 いぶかしげな表情を浮かべたのは騎馬騎士部隊長だけではない。他の三人も同じだった。

「昨日、あんなにこの人をこきおろしてたじゃないか」

「副官を務めた以上、最後を見届ける責任はある」

 騎馬騎士部隊長がマチスを見やる。

「……いいのか、副官殿で」

「いいんじゃない?」

 大隊長の答えは鮮やかなほどわだかまりがなかった。

「…………。じゃ、行ってきてくれ……」

 『少しは気にしろ』とかそんな文句を垂れるシューグの気持ちを痛いほどよく理解しながら、騎馬騎士部隊長はふたりを見送った。

 他の三人もどことなく脱力して、閉じた扉を見ている。

「どうにか心変わりしてくれるといいんだがな……」

 歩兵部隊長が重くため息をついた。

 マチスがミネルバに従って大隊長を続けてくれることが彼らの理想的な形だった。しかし、その説得をしようにもかえって突っぱねられてしまうのは目に見えている。皆、マケドニア軍に居た頃からマチスの評判を知っていたからだ。

 他力本願になるのは不本意ではあったが、ここはマチスに好意的なアリティアの人々に期待するしかなかったのである。





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