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「BRAND」 2-3 |
* 食事の片付けが済んだ後、第五騎馬大隊の各部隊長とボルポートは兵士達から離れ、彼らだけで集まっていた。 「まさか、ああ言い出されるとはな……」 ぼやいたのは重歩兵部隊長だった。 「俺としては、心を入れ替えてくれるのが最善だったんだが」 今回の急先鋒である歩兵部隊長がそう言うと、他の三人は意外そうに目を見張った。 この反応に彼は嫌そうな表情を浮かべる。 「まさか、俺が大隊長に成り代わろうとしてたとか、そんな風に思っていたんじゃないだろうな」 「そんな感じにしか見えなかったがな」 と、騎馬騎士部隊長。 「だが、今回の流れを一番助長させたのは副官殿ではないか? 絶対に何か言って止めると思ったのに、ほとんど黙ってただろう」 四人の視線が集中しても、ボルポートは平然としたものだった。 「あの人が自分から辞めるというのに、止める理由はあるまい。『受け皿』を代わりに受け持つ人間が現れれば、自分の役目はそこまでだとあの人は以前から言っていたから、その時が来たのだろうと思ったまでだ」 「いや、そうじゃなくてホースメン部隊長と言い争ってたアレだ。本当にあの人を見捨てるのか?」 「大隊長を辞めるというのだから、わたしがついて行く必要はないだろう」 「……すいません、わたしはこれで」 ホースメン部隊長が急に断りを入れて立ち上がった。 「納得するかどうかわかりませんが、部下に話をしてきます。わたしの所はまだ大隊長を慕っている者が多いですから」 「まだ大隊長が辞めると決まったわけじゃないだろう」 「でも、意思は固いようでしたから、十中八九そうなるでしょう」 「だったら、俺の所にも来てくれないか」 続いて立ち上がったのは歩兵部隊長だった。再編成の際に元ホースメン隊の兵が編入している――そのことを いいでしょうとホースメン部隊長が請け負って、ふたりは残りの人間に別れを告げて去っていった。 「残っていても仕方ないか」 騎馬騎士部隊長が言ったのを潮に、三人もそれぞれ元の居場所に戻ることにした。決を下すかどうかの相談というよりは、何となく集まった会合である。これでは話も進みそうになかった。 ふたりと別れたボルポートは要塞内の歩哨を見回り、それからあらかじめ寝床に定めていた壁際に腰を下ろした。 自分の嘘はあの結果にどこまで作用しただろうか。落ち着いてまず最初に思ったのはそれだった。 今回の騒動の発端は、マチスがディール攻めの先発入りを蹴ったことにある。兵士達の今回の不満はそこから始まった。 マチスは王族嫌いを公言してはいるが、部下に対しては気を遣う。主張を曲げたりはしないだろうが、不満を和らげられないものかと誰かに相談してくるはずだった。だが、そうした色を全く見せずに事態を放置していた。ボルポートが違和感を感じたのはこの時である。 何故そうしているのかを探っているうちに思い出したのが、『受け皿』のことだった。他にやる人間が出てきたら心おきなく譲ると言った、あれである。 マチスは良くも悪くもこういう点では有言実行の節がある。ミネルバの同盟軍加入を機に、大隊兵士の支持を完全に彼女に向けてその上で辞めると言えば誰も止めないと思ったのだろう。 しかしそこまで気づいていても、歩兵部隊長に揶揄されて言い返そうとする直前までは、あんな嘘をつこうとは思っていなかったのである。 『勝手に勘違いされては困る』 どういう思いつきの結果で言い出したのか、本人にも分析しづらい。ワーレンを発ってから、ひとりで計画を進めていた(らしい)マチスに対するあてつけにしては悪質すぎるから、ボルポートの中の迷いが生じさせたものだと言うしかない。 ミネルバの下でマケドニアを正すために戦う。同盟軍にいるマケドニア人の姿勢としては至極もっともなものだし、ボルポートもそうすべきだと思っていた。だが、そのためにはマチスから離れる決断をしなくてはならない。彼を説得するという手もあるが、おそらくは失敗に終わるだろう。 本当に離れる決断などできるのだろうか……そう迷っているうちに出たのが、あの結果である。 読み通りではあったが素直に喜べるわけがない。あんな理由を聞いては尚更だった。 かろうじて今は踏みとどまっているが、いずれは結論が出る。 早ければ明日、そうでなくとも近日中。 特に明日は、長くなりそうだった。 |