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「BRAND」 0-2






 ワーレンから早駆け一日半で東の城に到着し、マチスと重歩兵部隊長は城のある一室に通された。

 客人を迎える応接室のような部屋に、ハーディンとカイン、それに少数の兵士がいて、彼らに阻まれた奥に天馬騎士の鎧をまとった少女がいた。肩につかないほど短く切り落とした青い髪がいやに目を惹きつける。

「おや……?」

 ちらと見たその顔には、見覚えがあるようなないような、マチスにとっては記憶があやふやなものだったが、その疑問は同行の部隊長が解いてくれた。

「ペガサス三姉妹の次女ではないか。どうしてこんな所にいるんだ?」

「相違ないか?」

 差し込むように問いかけたカインに、部隊長はわずかにみじろいだものの、雰囲気を察してか余計な質問をせずに首肯した。

「ミネルバ王女の直属、白騎士団の一員だ。特に王女に最も近いのが彼女ら三姉妹で、三人での空の連携戦法に優れているからペガサス三姉妹と呼ばれている」

 部隊長の説明を聞く脇でマチスはようやく合点がいった。マケドニア軍にいた頃に直接会ったことはなかったが、王女ミネルバには可憐な三姉妹の部下がいるということで、評判があったどころか絵姿まで出回っていたのである。

 あの絵姿は結構似ていたんだなぁと、この場では割とどうでもいい事に気を取られているうちに、ハーディンが部隊長に向かって話していた。

「貴官を呼んだのはカチュア殿の素性を確かめるためだったが、これは相成った故、マチス殿が戻るまで従騎と待機せよ。足労をかけた」

「いえ。ではこれで退室致します」

「なに、呼んだのってそれが理由なのか?」

 部隊長が出ていってしまうのを止めるように、マチスがハーディンに口を出した。

「そうだ。我々とて三姉妹の風評は知っていたが、このような見目美しき華奢な少女とは思わなかったのでな。貴隊の人間に素性の確認をすれば真偽がつくと考えた。

 これで何か不備があるか?」

「……そりゃ、間違っちゃいないよ」

 肯定しつつ、マチスの声音には不満の色があった。

 最初から三姉妹の顔を知っている者をと言っておいてくれれば、わざわざ部隊長に足を運ばせることはなかった。マチスの場合は他者への無関心が過ぎるくらいだったから論外としても、マケドニア軍の中で三姉妹はかなりの有名人だったし、戦闘の際に直接その姿を見た者もかなりいたはずである。

 だが、ハーディンと長いこと話したくないのも本音だった。マルスといいハーディンといい、マチスが低頭しないのには全く動じないが、どうにも周りの視線が痛いというか面倒くさい。長引いたら後で絡まれるのは確実だったから、マチスはそれ以上のことは言わなかった。

 部隊長が退出すると、カチュアは顔を上げてハーディンの方を向いた。

「これで私がミネルバ様の使者であることは、信じていただけますね?」

「それだけは信用しよう。後はこちらが決めることだ」

 そう言って、ハーディンは兵士に命じてカチュアをどこかの部屋へと引き取らせてしまった。

 黙ってカチュアを見送ったものの、マチスにはいまいち事情が飲み込めない。

 ミネルバの使者と名乗ったカチュアが、何の目的で敵方である同盟軍に接触してきたというのか。只事ではない、ということだけは察せられるのだが。

 現在マケドニア王を名乗っているミシェイルの妹であり、マケドニアの将軍でもある王妹ミネルバが兄に叛意を抱いているという話など、マチスは聞いたことがない――関心の薄い彼の認識では心許ないところではあるが、赤い竜騎士だのとまで呼ばれて他国に脅威を見せつけていたことを振り返ると、とてもマケドニアを裏切るとは思えなかった。





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