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FIRE EMBLEM 暗黒竜と光の剣(6) 「BRAND」
(2004年8月)



Novels FIRE EMBLEM DARK DRAGON AND FALCION SWORD
6
604.08-09
[DEAL]




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 ペラティの戦闘が落ち着いた八月下旬、ワーレンに滞在していたマチスは本隊から呼集を受けて、東の城へ向かった。隊の移動ではなく個人の名指しであったため、十騎ほどで馬足を急かしている。

 この中に副官ボルポートの姿はなく、代わりに元鉄騎士団員の重歩兵部隊長が同行している。マケドニア軍内の有名な騎士の者の顔を知っている人間を同行させるようにと、呼集を報せた本隊の伝令から言われたためだった。

 そういう意味では、マチスは全くの役立たずと言ってもいい。マケドニア王族の顔さえ遠くから見たことがあるだけで、軍内に至っては、己の無関心をいいことに他軍団の将軍の顔を覚えようとしなかったのである。

 では他の騎馬騎士団出身の者はというと、元々がやはり騎士の中でも身分が高くない。竜騎士団や鉄騎士団の騎士と比べると功績を上げる機会も少ないから、どうしても軍の中心から外れてしまう。この事に関しては、今までマチスを色々と補佐してきたボルポートも例外ではない。

 それはともかくとして、本格的なアカネイア奪還作戦が間近に迫っているとあって、マチスの表情は浮かなかった。

「もうごまかしは効かないだろうな……」

 ひとりごつ声は、馬蹄と自分達の鎧の擦り合う音でかき消され、他者の耳には届かない。

 同盟軍に属するようになって彼が心を砕いてきたのは、いかに自分の隊から死者を出さないかという事だった。無駄死にをさせないのではなく、そのためには手段を選ばないという方が正しい。勝利など二の次である。七月にレフカンディとワーレンの境でグルニア軍と対峙した時、徹底して戦闘を避けたのはその信念も手伝った。

 マチス自身、策謀はおろか槍や剣も得意とは言えず、戦には消極的である。どうにも戴き甲斐のない将だろうと彼自身が思うのだが、一旦部下となった者が彼の元から離れたことはなかった。

 彼らに望むものがあったからかもしれない、あるいは仕方なくそうしているだけなのかもしれない。そのいずれにせよ、マチスはついてきてくれている彼らの命だけは失わせたくなかった。強引に付き合わせているのは否定できないのだから、せめて最後まで生き残ってほしかった。

 ただし、この事を誰かに対して明言したことはない。こういう事は黙っておいた方がいいだろうと何となく思っていたのだ。

 一方、同盟軍の力が日に日に増していく中、もしかしたら帝国との勢力図は逆転するのではないか、という期待の声がワーレンでかなり強くなっている。

 確かにアリティアやオレルアンの騎士達は強い。勢いもある。だがドルーアとの和睦がなければ、アカネイアやアリティアの奪還はもとより、マケドニアやグルニア本国とも戦わなければならない。その上でドルーアを倒すのだから戦争終結までの道のりは長く厳しいだろう。

 それを踏まえて自分達を振り返ってみると、元マケドニア軍の面々が最終的にはどれくらい生き残れるだろうか――それを想像するのはどうにも気の倦む思いだった。

 こんな事は考えずに目の前の戦にだけ目を向けていれば良さそうなものだろうが、彼らは同盟軍の中で立場が弱く敵もまた少なくない。だから、そうした意識を持つのは、悪い予測に立ち向かうせめてもの抵抗のつもりだった。

 できるだけ犠牲者を出さないという、この「無言の誓い」はオレルアン奪回戦の直前で既に破られている。それが尚のこと、戦嫌いなマチスの決意を固くさせた。

 以後ここに至るまでは、予想外の事態に出くわしてもどうにか守り通すことができた。だが、激戦が予想されるアカネイア奪還の戦いに際しては、その風向きは非常に怪しくなると見込まなければならなかった。





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