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「THE CALENDAR」 4-9






 シーダとの邂逅が終わった後、ロジャーはしばらく考え込んでいた。

 天馬騎士の正体を探ろうとしてわざわざあんな機会を持ったのは、災いの元を断つためだった。と言っても殺すのではなく、正体を明らかにすることによって彼女の謎めいた部分を消すのである。そうすれば、夢現(ゆめうつつ)の部下達を現実世界に引き戻せるのではないかと考えたのだ。

 女の子とはいっても、みんながみんな可愛いわけじゃない。偶然居合わせた女の子がとびきりの美形なんて、そんなおいしい話はそうそう転がっていない。と、天馬騎士に会う前はそう思っていた。ただし、この時のロジャーは、その天馬騎士がタリス王女シーダではないかという噂を完全に失念していた。

 この行動に及んだ理由はもうひとつあった。素性を探ると持ちかけて、同盟軍の動向を探るつもりだったのだ。

 北の砦が両方とも昨日一昨日で陥ち、その報せを聞いて夜を徹して隘路まで移動したのだが、北には同盟軍、南の味方はというと、ペラティの動きが悪いからなのか、ワーレンの街門を破れずに四苦八苦している。もし同盟軍が南下すれば、この隘路を守りきろうにも補給ができない以上、負けは決定的なものになる。もし、何らかの事情があって南下しなければ唯一の活路である(簡単に砦を陥とした同盟軍と戦うには、彼らの精神的疲労は激しすぎた)ワーレン攻めに転じることができる。

 どちらにせよ、こんな方法で天馬騎士が近づいてきてくれるのかという心配があったがやらねば仕方がない――と意気込んでいたのに、蓋を開けてみれば目茶苦茶可愛い王女様の登場で、仕掛けたロジャーの方が参ってしまう有り様だった。動向を探るどころか終始向こうのペースで、あと一歩踏み込まれたら兵を退くとさえ言いかねない状況だったのである。

 ロジャーは諦め気味に呟いた。

「でも……それもいいかもしれないな……。もう、勝てる気がしねえし」

 もし北から同盟軍が攻めてきたのなら仕方ないが、そうでないなら兵が多いうちに西を突破して退却することもできる。南の前線が無傷なら、こちらは四千である。レフカンディの出口にいる部隊の数はそう多くなさそうだから、こちらの方が希望は持てた。

 ロジャーは他の重装歩兵隊長と相談してこの話を通すと、自ら鎧を脱いで馬に乗り、ワーレンの前にいる部隊へ向かった。

 前もって伝令を送っていたから、彼が着く頃には騎兵隊と軍式弓兵部隊のそれぞれの長に提案は届いており、軍議そのものもロジャーの提案がすんなりと通った。カナリスの戦死や、なかなか陥とせないワーレン、二日であっという間に二か所の砦を失ったことなどが積み重なって、騎兵達もこれは勝ち目が薄いと思っていたようである。

 ロジャーはすぐに隘路の入口までとって返し、あの騎兵部隊がどこにいるのかを斥候に調べさせた。自分達が動いたから、さすがにワーレン側まで入り込んでいると思ったのだ。

 すると案の定、昨日までロジャー達が防衛線を引いていたところまで、彼らはやってきていた。正確な数はわからなかったが、斥候の目測では千にも満たない数だという。もしかしたらその後ろに増援が来ているかもしれないが、包囲網を突破しなければどのみちやられてしまうから、ためらう理由はなかった。あとは全隊の合流を終え、布陣を整えて進軍するだけだ。

 しかし、ロジャーはここで余計な事を思い出してしまったのだ。

 相手が同盟軍だということは、即ちシーダの味方である。攻撃だけならともかく、完全撃破などしようものなら彼女が悲しむのは確実だった。

 繰り返すようだが、これは本当に余計な事である。ついでに言えば、ロジャーはシーダに敵対を宣言しているのだから、矛盾している事でもある。だが、そういうものに限って、頭を掻き毟るほど思い悩ませてしまうから性質が悪い。

 どうすりゃいいんだ!

 ロジャーはそんな叫びを上げて一晩中悶々としていたが、結局は妥協点を見い出せず、夜が明けたら明けたで彼を急かすように南にいた味方が次々と到着し、昼には全隊が揃ってしまったのだ。

 いよいよ進撃という段になった二六日の昼、偵察に出ていた斥候が首を傾げながら戻ってきた。西にいる同盟軍から使者が来たのだという。

「使者ぁ?」

 この際、少々が間が抜けた対応になってしまったのは仕方がない。

「何のためだ?」

「一時的なレフカンディの非干渉を条件として、西への道を譲ると言ってきていますが……」

「取り敢えず話だけは聞こう。呼んで来い」

 報告に来た斥候を行かせるのと同時に、各隊の部隊長を呼ぶ。

 少しして全員が揃ったところで、使者という騎士が現れた。胸当ての形状から、弓使いではないかと推測できる。連日、文字通り矢のような攻撃をしてきたのはこいつだろうかとロジャーは思ったが、ここは黙っておいた。

 使者に用件を述べるよう促すと、彼は持っていた書簡を読み上げた。

 その概要は以下の通りである。


『今もってなお多勢を保つグルニア軍との衝突を当方は望まず、レフカンディ側に侵入しないのであれば、この端境の道を開けるつもりである』


 できるだけ平和的な解決を望む、と使者が締めくくった時のロジャーの顔は複雑怪奇に歪んでいた。この提案を素直に信じるほど愚直ではないが、思わずすがりつきたくなった本心は否めずに、両者がせめぎ合っているのである。

 とはいえ、私情と独断で決めるわけにはいかず、ひとまず使者を締め出して各部隊長との協議を始めると、ロジャーの心情をそのまま映したかのように意見はまっぷたつに割れた。

 この寄せ集めの部隊において、最終的な決議はロジャーに委ねられることになっている。多数決では指揮官の意味がないということでそうなっているが、協議をしなくていいという意味ではなかった。

 この連中を集めなくても同じだったかもしれないと思ってしまう自分の声を押し殺し、協議の末にロジャーは書簡を信用する決断を下して、使者を帰した。

 その後で、責任を取る意味で自分の部隊をふたつに分けて、先頭と殿につけるという約束を他の部隊長としたのだが、これはさすがに押し留められ、ロジャーの部隊は殿を務めることになった。





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