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「THE CALENDAR」 4-8 |
* 翌二五日、日の出から一時して西の砦へと帰ったシーダは、この時期では予測してなかった事態に直面していた。 「ペラティが、城に攻めてきたですって?」 「ええ。ですから、ワーレンは後回しにして城を守らねばなりません」 そう教えてくれたアリティア人の従者も忙しそうにして、すぐに立ち去ってしまう。 この複合部隊の総指揮官であるハーディンを訪ねると、今朝方、本隊の伝令が来て、同盟軍を攻撃目標にしたペラティが本格的に攻めに来たのだと説明してくれた。ペラティの総勢は未知数で、絶対に遅れは取れないのだと付け加え、貴女も早く城に戻りなさいと言うのを最後に、ハーディンもまた足早に去っていった。 草原の狼の言葉を受けて天馬の元へ駆け戻ったシーダだったが、不意にその足が止まった。 「あの人達に伝えないと、全部食い違ってしまうんじゃ……」 シーダの頭にあったのは騎馬第五大隊の事だった。意識の上の方にあったのは、昨日会っていたからだろう。一旦その存在を思い出すと、彼らにペラティの来襲を伝えずに城に戻るのはためらわれた。 今からマチス達の所まで行って戻って往復二時、一方のハーディン達は急ぎとはいえ三千を越える大所帯。二時遅れて追いかけても単騎のシーダの方が城に到着するのは早いはずだった。しかし、海上においての天馬騎士は他の何よりも頼りになる斥候役になる。 いつものシーダならマルスのいる本隊を迷わず優先していただろう。だが、後顧の憂いをひどく気にかけていた今のシーダは、周囲の目を気にすることなく西の空へと天馬を飛ばした。 天馬に無理をさせないように、かつ急いで騎馬第五大隊の野営地までたどり着くと、手短に現況を説明してあとはそちらの判断に任せますと告げ、休みなく再び天馬を空へと舞わせた。 東へと向かうそのさなか、端境にいるはずのグルニア軍の方へシーダが目を向けたのは、全くの偶然だった。あるいは、確認しておこうというつもりだったのかもしれない。 しかし彼女が見たのは野営の跡だけで、そこには誰もいなかった。どこにいるのかと目を転じてみれば、南の隘路の前にそれらしき集団が陣取っている。 ただ、様子は変だった。槍の穂先に白い布を巻きつけて、天へと掲げているのである。 白という色は、一般的に戦意がないという意思表示になる。これを破って攻撃を仕掛ける事は、節度ある軍の中では違法行為にあたると言って良い。 「降伏……? でも、移動なんかしないで、マチスさん達に使者を出せばいいのよね……。どういうことかしら。 気にしつつも、なお東進しようしたシーダだったが、集団から少し離れたところで小隊ほどの人数がこちらに向かって、大きく白旗を振り始めるのを見て、少し気持ちが変わった。意図を確かめてみようという気になったのである。 彼らに近づいてよく見ると、重そうな鎧をつけてはいるが槍を持っていない。信じ難いが、ここから見る限りは鎧以外の武装はしていないように見える。 それでも小弓を持っていないとは限らなかったから、これ以上距離を縮める事はしなかった。何らかの具体的な意思表示があるなら、向こうから動くはずなのである。 そして、兜を外したひとりの重装歩兵が何も持たずにシーダの方へ歩み寄ってきた。普通の声量で話ができるぎりぎりの距離まで彼が近づいた時、シーダは敢えて声を張り上げた。 「そこで止まって。……これは、降伏ということでいいのかしら」 「いや、そうじゃない。君の素性を確かめたかったんだ」 彼はロジャーと名乗り、グルニアの重装歩兵隊長のひとりだと称した。 「そう言ってくるってことは、やっぱり君は同盟軍の人間だったんだな」 「ええ。でも、それだけのためにあなたが……あ、わたしも名乗ります。 「あ、ああ、知ってる。王女、だろう」 ロジャーはそう言葉を引き継いだものの、少し噛んでいた。しかも除々に顔が赤くなっていく。 「そ、それだけ確かめられれば充分だ。行ってくれ」 「……本当に、いいのですか?」 「ああ。これで、部下達に説明がつく。君がいなくなったら、また向こうにいる君の味方と睨み合うだろう」 「では、戦意がないのは今だけなのですか?」 そうだ、とロジャーは短く返した。 シーダの下唇が不満げに上に押し上げられる。 「ロジャーさんは今それだけの優しさを見せてくれたのに、まだ戦うのですか?」 「……祖国の命令だからな。君だって、自分の国の兵士がこんな事で戦うのをやめたら困るだろう?」 照れているのか王族を前に緊張しているのか、シーダの目を見ようとしないロジャーの気持ちを、彼女は正確に推し量ることはできなかった。 暫くの間を空けて、シーダはロジャーの目を見る。 「わたしは、こんな悲しい戦いにみんなを巻き込みたくありません。できれば早く終わらせたいと思っているんです。人同士が争って泣くのは、力ない女子供。誰かの大切な人なんです。 「……いや、親は死んじまったし、恋人もいないよ」 「では、あなたは愛を信じますか?」 「……」 極めつけの問いかけだった――突飛さと、聞く側の恥ずかしさにおいて。 これまでに照れと緊張で充分赤くなっていたロジャーの顔だったが、更に真っ赤になった。 「あ、あんた、何言ってんだ!」 「わたしは、あなたが愛を信じられるほどの優しさを持っていると思います。それだけの優しさがあれば、戦いの無意味さはわかるはずです!」 「で、でも、だからって……やっぱり祖国は裏切れないよ」 ロジャーが体中軋んでいるような声音で発すると、シーダは悄然と頷いた。 「そう……。ごめんなさい、無理な事を言って。でも、グルニアの前線にあなたのような優しい人がいるってわかっただけでも、話せて良かったわ。 「え……」 「だって、せっかく会えた人の死に顔なんて想像したくないでしょう?」 言って、シーダは少し泣きそうな顔になりながらまた東へと飛び立った。 |