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「THE CALENDAR」 4-7 |
* シーダにとって幸運だったのは、マチスの性質がひどく大らかな事だった。 今まで意図的に明かされなかった作戦が繰り広げられていたと知らされたのなら、直情的な人間ならまず怒りをあらわにしたはずだった。そうでなければ、作戦のために仕方がなかったのでしょうとかそういう言葉で繕っておき、心の中では毒を吐いて不健康な発散をするのが適当なところだろう。 ところが、マチスは特に怒りもせず『ふぅん』と頷いてしまったのである。 それに加えて、後ろめたさの中で意を決して告白に臨んだシーダや配下の気持ちを全く無視して『偉くしている連中にはよくある事だよ』と勝手にカウンターをくらわせて悠然とするのに至っては、一同いたたまれない思いだっただろう。 妙に白けた空気の中、シーダがどうにかワーレンの全容と同盟軍の作戦を話し、これが全隊に通達されると解放感とやる気が混ざったような雰囲気になった。けったいな被害を被った大隊副長と部隊長クラスの者も、ようやく一息つけた、といったところか。 明日の準備のために忙しく陣地が動き始めたので、個人的にはする事のなくなったボルポートは適当に見回ろうとしたが、シーダに呼び止められた。 「あの」 何かの間違いかと思って周りに目を走らせたが、他にそれらしい人間はいない。 「私ですか?」 「ええ。ちょっとお話ししたいのだけど、今、いいかしら」 否やと言う理由もなく、取り敢えずは準備の邪魔にならないところへと、ふたりして歩いていった。 主ではなく、わざわざ自分を捕まえてきた意図が何なのかをボルポートが測り切る前に、シーダから切り出してきた。 「ここは、他の隊とは違いますね。雰囲気とかが」 「長があの通りですから。堅苦しくないのが、この隊のいいところです」 唯一の、とボルポートは心の中で付け加える。 軍隊としての評価を下した場合、この隊は問題だらけである。こんなことでこの先立ち行くのかと心配したのは一度や二度ではない。しかし、マチス自身に戦事の能力が欠けていても兵は離れようとしない。 他へ行き場がないことが最大の理由だろうが、それだけではないと既に確信している。だが、それは取り敢えずは言わないでおいた。 「こういったことを長所にしてもいけないのですが、一度慣れてしまうと変に居心地が良くて困りますな」 「そういえば、ボルポート殿はお説教役なのですよね?」 「……長が、そう申しておりましたか?」 「いえ、最近見ていたらそう思っただけで。でもいいですね、こういう雰囲気のところなら シーダは今日もここに泊まることになる。晴れ渡った日なら夜間の飛行も苦にならないが、地上から容易に戻れないこの状況では、天馬は大事に扱わなくてはならない。 「いや、却って申し訳ありません。もっと良い寝所を用意すべきなのに、ろくなものが揃わなくて」 慌ててシーダが手と首を振る。 「そんな、いいわ。充分に行き届いているから。ともかく、ここは佳いなと思ってそれを言いたかっただけだから」 ちょっと赤くなりながら、シーダが逃げるように走り去っていく。 結局、礼を言うためだけに自分を捕まえたのかとボルポートは首を捻った。それならば、主に言えばいいのに……。 と、そこまで思ったが即座に撤回した。相手がマチスでは、淡泊な答えしか返ってこないのだろう。 「礼のしがいがなかったのかもしれぬな……」 などと、ボルポートは平和的な呟きをもらしていた。 |