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「THE CALENDAR」 4-3






 単独行動開始から七日もの間、たった四百でレフカンディの出口を右往左往していた騎馬第五大隊だが、この日にレフカンディの城塞から援軍と物資が来たことによって総勢は八百となった。

 幸運なことにニーナからの介入はなく、援軍は騎馬第五大隊に一時的に組み込んで良いという話で、オレルアンで療養していた残りの騎馬第五大隊の面々も近々合流するという。それでもなお目的は変わらず、表向きは戦線の維持が第一目標だった。

 目を転じて、日課となりつつある威嚇行動に出る前に斥候を出してみれば、グルニア軍の重装歩兵隊はさらに西に布陣を敷き、ワーレン地方への立ち入りを何が何でも阻止しようという姿勢である。

 彼らの数は少なく見積もって千。しかも、重装歩兵だから威嚇や挑発をしたところで痛手を与えることができず、追いかけても来ない。かといって、戦闘を仕掛ければやられるのはマチス達の方である。

 ただ、その効果が微々たるものでも毎日圧力をかけておけば、最終的にはグルニア軍の精神的ダメージが期待できるとあって、結局はいつものように威嚇部隊を送り出した。

 この日もいつもと同じ作業で終わるはずだったのだが、ボルポートがちょっとした土産話を持ち帰ってきた。

「グルニア兵が、ワーレンを制圧したと吹聴しておりました」

 真面目ぶって言うものの、どこか真剣さに欠ける言い方だった。

「……なんか、あからさまに疑ってない?」

「ええ。疑うどころか、嘘だと断言できます。一昨日のシーダ姫の話では、同盟軍はそこまで追い詰められてはいなかったようですから」

 その時のシーダの話が実は虚実織り混ざっていたものだと知る者は、マチスを含め騎馬第五大隊の中では誰もいない。ボルポートが唯一の情報源を疑わなかったのは、本職の軍師ではなかったが故の詰めの甘さだろう。

 だからこそ、全てのことに疑心暗鬼にならずにワーレンが無事だという本当のこと――厳密には、ワーレンは制圧されていないが、そこに同盟軍はいないから意味合いは変わってくるのだが――をも疑ってかかるという愚を犯さずに済んでいるわけで、不完全だからこそ助けられている部分もあるというわけだ。

「この件については近々シーダ姫がこちらに来ればわかる事ですから、わざわざ振り回されることもないでしょう」

「じゃ、このままいつも通りにしておけばいいか」

「その事ですが、どう思いますか?」

 そう、ではない。どう、である。

 前者で問われたら不安になるが、後者とて答えようがないという点は大差ない。

 仕方なく、黙って先を促した。

「取り敢えず、ワーレンを攻めるグルニア軍の少なくとも千は引き剥がせました。ですが、北に居残っているという半数が今どうしているのかはわかりません。まだ砦にいるのか、前線に呼応してワーレンへ向かっているのか、あるいはこちらを攻めようとしているのか」

「推測はするなって言ってなかった?」

「推測の上に推測を重ねてはならないとは言いました。これは、あくまでも可能性の羅列にしか過ぎません」

「それ、また謎かけ?」

「生憎、答えを教えてほしいのはわたしの方です。本隊の動きを当てにして威嚇行動をしていますが、あちらの意志がワーレンを抱えてでの長期戦なら、こちらも付け焼き刃の部隊で続けるべきではないと思うのです。ですが、この隊にはそこまでの権限はありません。他の部隊に戦線の維持を明け渡すのが最良なのでしょうが、そうすれば後々この隊の立場が危うくなるかもしれません」

 騎馬第五大隊は数少ないマケドニア人の反帝国勢力だが、重要視されているわけではない。任務の失敗によって、マケドニア人という括りで編成される部隊が消滅する可能性は十二分にあった。多少の差別があっても、ひとつの国の人間として認められていたからこそ我慢できていた彼らには、およそ耐え難い事である。

 そこまで突き詰めてしまうと、他人の意見を打破するのに長けている人間は、自らの打ち出す正論に太刀打ちしきれなくなる。そうするためには、一度自分を突き放さなければならない。

 ボルポートにその能力が欠けていたわけではないが、この時は、彼が自分を立ち返る前にその主によって正論が打破された。

「あのさ、わざわざ本隊に合わせてこっちを強力にする必要はないんじゃねぇかな」

 鼻の頭を掻きながら返された言葉だったが、ボルポートは衝撃に打ち抜かれる思いだった。多言を尽くすより、簡潔な言葉が説得力を伴う時がある。今はまさにその瞬間だった。

 よくよく考えてみれば、この威嚇行動そのものは騎馬第五大隊だけでこなせているのだ。攻撃命令を下されたわけではない。

「……これは、わたしの方が逸り過ぎましたな。失言でした」

 ボルポートは深々と頭を下げようとして……結局は浅いところで止めた。この主が大袈裟に止めてきてしまうのを未然に防ぐためだ。

「では、暫くは今まで通りに致しましょう」

「ああ。いつも同じ事ばっかりさせて悪いとは思ってるんだけどね……。
 それとも…………」

 やや間を持って、マチスはぽつりと言った。

「今度からおれも行こうか?」

 この直後、周囲の部下から『自分の立場を理解しろ』という、嵐のような口撃をマチスが受けまくったのは言うまでもない。





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