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「THE CALENDAR」 3-8






 岩山を越えて二十日ぶりにマチスと再会したシーダは、その第一声に複雑な面持ちになったものだった。

「天馬だったら山越えも楽にできるよな……完っ全に忘れてた」

 多分、分断された状況での連絡方法の事を言っているのだろうが、感心するというよりは、裏をかかれた時のような言い回しなのが引っ掛かった。

「もしかして、わたしお邪魔だったかしら?」

「多分」

 言った直後に、近くにいた騎士の腕がマチスの首に回った。

「く、苦し……」

「いいかげん、状況を考えて物を言う癖をつけろ」

 問答無用の電光石火である。

 無茶苦茶な光景の前で、副官だという細身で髭面の騎士がこれまた無茶苦茶な謝罪をする。

「申し訳ありません、シーダ姫。我らが主は口が不自由しているものですから」

「……あの。いつも、こうなのですか?」

「さあ」

 人を喰うのではなく、本当にわからないのだと言っているように聞こえるのは、果たして正しいのかどうか、シーダにはわからなかった。まぁ、マチス自身はともかくとして、この部隊が同盟軍きっての変わり種なことは間違いない。

 戦いのない時にお邪魔したら、それはそれで楽しいかもしれないなどと思いつつ、シーダは前線の陣容を記した羊皮紙を広げた。

「昨日描いたものですから今日は少し変化していますけど、重装歩兵の部隊がより西に張り出しているくらいです。あとは変わっていません」

 マチスを含めた騎馬第五大隊の各部隊長が羊皮紙を覗き込み、幾つか出される質問にシーダが答えて、それを従者が余白に書き込んでいく。

 おおよその質問にシーダは如才なく答えていったものの、どうしても言えない事もあった。それは例えば、山道の南側で頑張っている同盟軍の部隊が除々に撤退し、最後にはワーレンから誰もいなくなってしまうことだったり、騎馬第五大隊ら西に居る者達の事を本隊はあまり念頭に置いていないことだったりする。彼らにはあくまでもそのままでいてもらうのが、本隊の意志だった。

「では、我らはまだグルニア軍を刺激しなければならないということですか?」

 先程の細身の騎士が問いかけるのに、シーダは重く頷く。本心からではない。

「本隊は長期戦を臨む姿勢でいますから、少しでもグルニア軍を疲弊させてほしいとのことでした。もし持ちこたえられないようでしたら、レフカンディの城塞まで撤退することもやむを得ないとも」

「ここを明け渡すと、本隊とは完全に分断されちまうのにねぇ……」

 そう言うものの、マチスの表情と声音からは言葉そのものほど気にかけているようには感じられない。『だから何なんだか』という感じなのである。

 もう少し鋭い者ならあと一歩踏み込んだ解釈をしたかもしれないが、シーダは伝えるべき事を伝えたことで取り敢えず任務は済んだと宣言して、男達の輪から解放してもらった。

 すでに陽が暮れかかっているとあって、無理して今日中にワーレンに戻ることはせず、天幕を用意してもらうことになっている。休むにもまだ早いとあって、少し開けたところに預けている天馬の元を訪れて、今日最後の労いに堅いブラシをかけてやった。

 この天馬は替えのものである。例の無人飛行はシーダの愛馬が務めていた。

「おまえには無理させないけど、いつかセシルを乗せてあげてね。わたしには、ちゃんと懐いてくれるんだから」

 そうして首を叩いてやっているうちに、何故かシーダの面持ちはだんだんと沈んできていた。

「……大丈夫、これでいいのよ。これで成功するはずなんだから」

 自分に言い聞かせるように言うシーダは、しかし、後ろめたさを振り切ることはできなかった。





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