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「THE CALENDAR」 3-3






転移ワープの杖を使うのなんて本当に久しぶりですね。しかも拡大行使となると、もう三十年は……」

 カダインの高司祭ウェンデルが弟子を相手に、若き日の思い出話を披露する脇の庭では、どこぞの部隊から駆り出されてきた数人の従者が、ウェンデルの監督の元、複雑怪奇な魔法陣のようなものを描いていた。

 シーザからの提案があってからというもの、同盟軍の首脳達は会議に明け暮れ、一日がかりで立ち上げた作戦の一端に、ウェンデルが言うところの大ワープという、法力に魔道の技術を組み合わせた反則技とさえ呼べる代物の行使がある。

 通常ならひとりしか瞬間移動できないところを、大掛かりな仕掛けを使うことで人数を増やせるようにするもので、その数は行使者の魔力に比例するといわれている。

 ところがこの拡大行使こそが曲者で、カダインの魔道学院ではまず教えず、禁呪めいた存在にされている。理由は非常に簡単で、悪用を防ぐためだった。

 右から左に聞き流したい若気の至り話がようやく終わって、魔道士マリクは口を開いた。

「先生。それで、どれくらいの人数を移動できそうなんですか?」

「これでですか」

「はい」

「そうですね……多くて五人……安全面を考えれば三人が限度でしょう」

「――?」

 思わず目を点にしかけて、ちらとできかけの魔法陣を見る。

「これだけ手をかけておいて、ですか?」

「そんなものですよ。そもそも、転移の杖には未だに謎が多くて、騎乗した騎士を馬ごと移動させることはできても、人間ふたりを一度に移動させることはできないのです。物凄く古い実例ではそうできたという話もありますが、現在のものとは異なっているものですし、生命体で区別されない……」以下省略。

 転移の杖に関する長い講釈が終わった頃、マリクは顔を上げた。

「マルス様はご自身と一部隊の体力を温存するために、大ワープで移動するつもりでいたようですが……」

「ええ。ですが、それは無理だと言ったのですよ。そうしたら、三人でも構わないとの事でしたから」

「では、三人となると誰を転移させる事になるのでしょうか……」

「さあ、誰とは言えませんが……でもマリク、お前は駄目ですよ」

「え?」

「先頭の船に乗って、城近辺に着いたことを魔道でこちらに報せなければ、わたしが大ワープを発動する時期がわからないでしょう」

 同盟軍の作戦を先に述べると、シーザの提案をほぼ受け入れて、東の城を海上から攻め陥とすことになった。

 もっとも船で東の城へ向かうと一口に言っても、海はペラティの海賊の庭みたいなものだから干渉を完全に防ぐことはできず、途中で攻撃されるのはほぼ確実である。そこで、ダロスらガルダの衆や海戦経験のある傭兵隊が海に展開して、本隊を援護することになっている。傭兵隊は城へ向かう船を護り、ダロス達は進路を妨害するであろう海賊をあらかじめ撃破する役割を振られていた。

 先発隊が城を落としている間に、西の隘路の前で頑張っている隊を呼び戻し、順次城へ向かわせて(この時大ワープを行使したウェンデルも乗り込み)、最終的にワーレンに残る戦力は、海に行かなかったワーレンの傭兵隊のみになる。そこで、街門の眼前まで迫っているであろうグルニア軍に対して、同盟軍が後方からカナリスの首を持って攻め立て、退却させるか城へと引きつける――という具合だった。

 どこまでが予定通りにいくかわからない策だが、ワーレンで長期戦を敷くよりは遥かにましな案ではあった。シーザは間接的にワーレンから出ていけと言っていたが、いざ戦となればその感情はもっともなもので、あれでもまだ丁寧に言っている部類である。

 不意に視界に入った上空の無人のペガサスにマリクは少しだけ目を奪われたが、ちらと見ただけでやめて、訴えに出た。

「でも先生、僕はまだ魔道書に基づいた魔道しか習っていないんですよ」

「そうでしょう。お前はひどく急いでいたからそちらを優先してしまいましたが、本来の魔道士というのはそういう事もするのですよ。古い時代の魔道士は、船上で風を観て時には操り、羅針盤代わりのような事もしていたといいます。更なる向上の場として、この機会は貴重なもので……」

 マリクの抗議も空しく、また講釈が始まろうとしていた。





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