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「THE CALENDAR」 3-2






 グルニア軍一万が廃墟と見せかけた砦に集結し始めたのは六月の下旬。同盟軍がまだオレルアンに留まっていた頃である。ペラティの協力を得た海路と、地道な山越えの陸路とで、それと知らぬ者には悟られないように、彼らは少数で行動していたのだ。

 同盟軍が順調にレフカンディを越えなければ色々な意味で水泡に帰していたこの作戦に、現場で総括する指揮官はいない。ワーレンの監視官であるカナリスが彼らの上官だが、ペラティの一部となっている東の城に籠もって出て来ようとはしないため、有名無実と化している。ワーレンからの金で贅を尽くした暮らしをしているとか、ペラティの神殿に奉ってある女神像に懸想して日常生活もままならなくなっているとか、とかくカナリスについての口さがない噂がグルニア兵の間で途切れることはない。それ故に、彼を敬う者はこの一万の中にはいなかった。

 そんな彼らは唯一下された命令――ワーレン制圧を目指して、まずは四千二百の騎兵と重装歩兵らの部隊が、各々の部隊長のペースで港町へと向かってゆく。

 グルニア軍重装歩兵隊長ロジャーが最前線の最後方に着いたのは、出発してから二日目の昼だった。とはいえ、先に着いていた味方の騎士やらホースメンが前方の視界を塞いでいて、正味、それ以外のものは見えない。わかる事はといえば、ここが隘路の前に開けた平地だということだけだ。大方、足止めでも喰らっているのだろう。

「つまりは、膠着状態というわけか」

 戦況において、一日やそこら動けずにいるのを膠着状態とは言わないだろうが、ロジャーは長期戦を見越して口にしていたのだった。

 同盟軍の行動が速ければ、ここで足止めされるのは予想済みだったから、特に苛立ちはせず、この想定で予定されていた通りに待機中の騎馬部隊を迂回して前方へ回り込む。二百五十もの重装歩兵が移動するのだから仕方がないが、これだけで一時かかった。

 他の重装歩兵の部隊も集まって騎馬の前方に配置が終わると、つい思う事が口を突いて出てしまった。

「熱いな……」

 暑い、ではないところが気の毒である。

 祖国グルニアも夏はそれなりに暑い。マケドニアほどではないが、他の国に譲るほどでもない。

 しかし、昨日から続く好天の日差しと季節を問わず纏い続けるぶ厚い鉄の装甲は、冗談でなく鉄板の代用ができてしまう。しかも、それが集団で居るわけだから、お互いの熱が相乗効果をもたらして彼らの周りだけがやたらと気温が上がる。これはたまったものではなかった。

 極めつけとして体や馬や鎧やらの臭いが加わってくるが、それは常につきまとってくるだけあってまだ慣れはある。つまり、忘れた頃に来る季節のダメージは予想以上に大きかったということだ。

 そんな熱のせいか空気がゆらいで見えるそのさなか、味方で埋め尽くされている後ろよりはすっきりとしている前方を見渡せば、隘路から弓の及ばない範囲でグルニア軍の従者達が『後片付け』をしている。ロジャーが着く前に展開された戦闘の際に散らばった武器や人間を、突撃の邪魔にならないように端にどかしているのである。

「……やれやれ」

 心地のいい光景ではないはずだが、いいかげん見慣れてしまいその手の感覚は麻痺している。しかし、戦とはそういうものなのである。無理矢理にでも、そう片付けるより他にない。

 グルニア軍に下された一番大まかな命令がワーレン制圧であるならば、次に大まかな命令はひたすら押しに押しまくって、同盟軍をワーレンに押し込んでしまうことだった。

 同盟軍を押し戻して、グルニア軍がワーレンの街門まで迫った時、ペラティが呼応して攻撃を仕掛け、陸と海から挟み撃ちをすることになっている。逆に言えば、グルニア軍がそこまで行かない限りペラティが動くことはない――そういう取り決めにしているのである。

 今のところは同盟軍も負けん気が強く、退く気配はない。まだ緒戦しかしていないのだから無理もない。ただし、一度退いたら同盟軍は一巻の終わりである。

「先に根負けした方が負けるってわけだな……」

 この日、七月一四日は他に特筆すべき事は起こっていない。





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