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「THE CALENDAR」 2-9 |
* 一三日夕刻、シーダが同盟軍首脳にもたらした報告は、ワーレンの傭兵隊長シーザが握る情報より遅れていて、あくまでも廃墟の付近に何かがいる、という程度のものだった。もう少し冷静になっていれば掴めたものはもう少し大きかったかもしれないが、同盟軍の人々に対するこの危険への信憑性と説得力を付加するには、まだ足りなかったかもしれない。 多少好意的に見て、 「このままカナリス討伐を進めるのではなく、多少手を加えるべきだ」 という意見が出るくらいだった。 しかし、ワーレンにいる人達が考えているよりも、事態は早く進んでいた。 夜の帳が落ち切った頃、射手が闇に紛れていたのか街門の前に矢が射かけられ、ワーレンへは同盟軍を立ち入らせたことへの非難、同盟軍には単純に攻撃を仕掛けるということを記した文が添えられていた。ご丁寧に、グルニアの将軍カナリスの署名つきである。宣戦布告のつもりらしい。 同盟軍が、今後の協議をするためにワーレンの商人組合の主だった面々を集めている間、それとは別に傭兵隊のシーザを呼び出して、詳しい情報を聞き出そうとした。マルスやハーディンは彼と面識がなかったが、下級役人からの報告で彼だけが同盟軍に対してそういった接触をしてきたことで覚えが強かったのだ。 しかし、当のシーザはというと、朝から待ちぼうけを食わされた事を少しだけ根に持っていた。 「折角のご召喚ですが、私が知る事は他にございません」 王族の他にも同盟軍の名高い騎士が居並ぶ中、こんな言葉を堂々と吐けたのは、町を守るために傭兵以上の働きをしようと心に決めていたからだ。そのためには、王族だろうと何だろうと邪魔する者は邪魔する者でしかない。利用されるだけされて、捨てられるなど言語道断だった。 そのためには、ここは強く出ておくべきなのだ。 「少なくとも、皆様方の握るものを知ることができない限り、私の知る事が特別視される理由はありません」 「傭兵風情が何を言うか!」 シーザは声の方へと眼を動かしたが、自分を見下す声の主を捜し当てる前に、オレルアン王弟ハーディンが厳かに一同に告げた。 「静まれ。 別段張り上げたわけでもないのに、ハーディンの声音は広い部屋の空気を震わせ、反論の雰囲気さえも消し去ってしまった。 ハーディンが言い放ったのは身内に対してのはずだったのに、その迫力はシーザをも震撼させた。格の違いというものを見せつけられた思いだった。 ――これは、俺の抵抗なんぞ 内心で降参したシーザは先の非礼を詫び、知りうる事を話すと一同に約した。 今回の戦いに際して、傭兵隊、ひいてはワーレンの身の振りようについては同盟軍に手を貸してドルーアを撃退することで身内の意見はまとまっている。共同作業の方がお互いの負担は減るし、今更、同盟軍と自分達は関係ないなどという暴言を吐いたところで、ドルーアは信じないだろう。 ともかく、シーザが同盟軍の面々に語り始めると、彼らの方はシーザの半分も情報を握っていないのだと知れた。 特に、組合の豪商に造反者がいることと、近くにいる軍隊が一万を号していることが衝撃をもたらしている。 様々な私言が発せられる中、アリティア王子マルスが尋ねてきた。 「この事は、あなた方は予測していたのか?」 「一万の軍勢については、ここまで多いとは思いませんでした。ワーレンの目前の敵はペラティですし、潜ませる数にも限度があるだろうと考えていましたので」 「でも、造反は有り得ると思っていたと」 「ドルーアの自治都市になってから栄えた者も居ります。無理からぬ事でしょう。一万もの軍勢を密かに集めていたということは、こちらとの決裂を前提にしていた節もあったということでしょうが」 そこでシーザのために用意していた時間が切れ、同盟軍の側だけが同じ面子で組合の商人との協議に移った。 シーザが話した事が本当ならば組合側の人数は減っているはずで、実際に数人の組合頭が欠けたこの協議にかけた時間は短かかった。残った組合頭の詫びから始まり、これまで以上の結束と町を守ることを約束し、互いに情報交換をしてそれで終わったのだ。 商人達を帰し、そのまま指揮資格を持つ者とシーダやマリク、ウェンデルなど特殊な位置付けにある者を合わせて軍議が行われる。 夜のうちにロシェの騎兵部隊を先行させて東西から岩山の競る隘路を確保し、明朝ドーガやバーツの歩兵部隊を加えて死守させる。加えて、アベルやビラクに後発の騎兵部隊を率いさせて、ロシェと共に北の戦線を押し戻す。残りは北に呼応して連動しかねないペラティへの警戒を陸から当たる――これが、当面の策だった。 軍議が解散されて騎士が駆け出していく中、シーダはマルスに呼ばれてその場に留まっていた。呼んだ方のマルスはというと、右筆を間に挟んでハーディンと何事かを話している。その様子は、少し物憂げに見えなくもない。 それから戦装束の支度を一から始めて、全てが仕上がってしまう程の時間を経て、マルスはようやくシーダの元へやって来た。 「ごめん、ずいぶん待たせたね。……訊きたいんだけど、セシルは天馬に乗れるようになった?」 「――え?」 あまりにも虚を突いた質問に、シーダの頭の中は真っ白になりかけた。 「あ、あれは――。だって、マルス様はご存じない、はずじゃ……」 「ごめん。シーダは黙っているつもりだったんだろうけど、色んな人から経由して聞いたから……。でも、それを怒るつもりはないんだ。ただ、あの事があってからもセシルがシーダの元にいるから、進展したのかなと思って……」 内緒にしていた事を咎められずにシーダは安堵し、次いで質問に答えた。 「あの、却って苦手にしてしまったみたいだから……まだ乗れないんです」 「そう……。それじゃ仕方ないね。もし動けるようだったら、西の方を頼もうと思っていたんだけど」 「西――ですか?」 そう、とマルスが頷く。 「僕らもさっきまで忘れてたんだけど、あと一日二日くらいで、オレルアンからの後発部隊がレフカンディを抜ける頃だと思うんだ。マチスの部隊がね。 シーダはわずかの間逡巡して、マルスを見上げた。 「そのお役目、わたしではいけませんか?」 「シーダにはペラティの方を頼みたいんだ。上空からなら、海賊の動きを捉えるのはお手の物だし、向こうからすれば動きを知られているという牽制になる」 「そう……ですね」 普段のシーダならこれで納得しただろうし、頼りにされている事が後押しして引き下がりそうなものだったが、この時のシーダに天啓としか言いようがない考えが閃いた。 目を見開いて大きく瞬かせると、もう一度マルスを見上げる。 「牽制になれば良いのですよね」 「シーダ?」 「誰も乗せていない天馬をワーレンの上空に飛ばせて、見回るように見せておけば充分斥候に見えるはずです。海賊の動きはダロスが逐一追っているわけですし、確実に港が襲われると決まったわけではありません」 「そんな事言ったって、どうやって規則的に飛ばしておくんだい?」 「二日も訓練をすれば、太陽の光を鏡に反射させてそれを合図にして動かせるようになります。もし上空に上がってから太陽が隠れても、セシルに指笛だけは教えてありますから、帰ってくることはできます!」 自信満々に言い切るシーダを、マルスは気持ちの上で見上げながら、身長差のせいで見下ろしていた。 「随分、張り切っているんだね……」 「そうですか?」 ――結局マルスの方が迫力負けして、西の伝令役を承知した時にはすでに日付は変わり、七月一四日となっていた。 |