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「THE CALENDAR」 2-8






 シーザ達は町の傭兵隊の横のつながりの中で、豪商達の中に同盟軍を潰そうとする者がいることはすでに掴んでいた。最初はワーレン入りを拒んで解決するのかと予想していたが、そうではない。どうやらドルーアとつるんで、軍隊を招き入れているようだった。数の程度はわからないが、ご丁寧に罠を仕掛けようというわけだ。

 ラディの報告で、或る豪商の使いがカナリスと接触を図るために動いた事を知り、証拠はないが忠告はしておこうとシーザは同盟軍の建物を訪れたものの、出るまでに二時かかり、時分はすっかり昼になっていた。急ぎの用事ではないと言ってしまったことと、傭兵隊長という身分の低さがものの見事に災いして待ちぼうけを食わされ、しかも、会えた相手はアリティア王子でもオレルアン王弟でもなかったのだ。

 芳しくない作業に中天前を忙殺されたシーザだが、さしたる不満の表情を表に出すことなく港へ足を向ける。

 港の船は、船首飾りや装飾、あるいは旗でその船がどの商人のものか区別がつく。今停泊しているのはいわゆる商船がほとんどだが、この顔ぶれが同盟軍の働きかけによって、近々大型帆船などに化けるのだろう。戦車兵の大砲を備えた軍艦は少ないだろうが、少なく見積もっても大小合わせて五十隻ほどが揃う様は、壮観なものに違いない。

「さて、どうするかな……」

 一部の豪商の不穏な動きさえなければ、同盟軍が来ようが来まいがシーザ達の役割は変わらない。町の治安に努めればそれでいいのだ。ただ、そうでないから余計に考えなければならない。

 シーザら傭兵隊の最優先課題はワーレンそのものを守ることである。極論を展開するなら、同盟軍とドルーアが共倒れしても町に戦火が及ばなければいいのである。――その場合、後がどうなるかはわからないが。

 今ひとつの心配は、このところワーレンを襲撃せず沈黙しているペラティである。あの海賊もドルーアとつるんでいるのだから、近いうちに同盟軍への攻撃を口実に、こちらに仕掛けてくるはずだった。

 実のところ、シーザが最も恐れているのは、ドルーアの軍隊とペラティの海賊が同時にワーレンへ向かってくることだった。もしそんな事になれば、大陸有数の港町は壊滅寸前までに追い込まれる。大山脈の南端と海に囲まれたこの土地は逃げ場がなく、挟み撃ちにされると対応しきれなくなるのだ。

「……こうなると、大陸を救う触れ込みの同盟軍も、ただの疫病神だな」

 言って、シーザは深いため息をついた。

 自分達のしている事は傭兵の領分を大きく超えている。ワーレンが港町として大きくなりすぎたが故に、剣以外の考え方も自らの常識として容れていき、その結果、町の大事を一番に持ってきて、大陸の行く末などは他人事のように考えるようになっていた。

 その代わり、どんな危険が迫りつつあっても、今はこの町から逃げるつもりはない。そのくらいに考えている。

 いいかげん詰め所を長く空けてもいられないと、シーザは港から背を向けた。あまりに留守が長いようだと、代役で残しているラディら若い部下に重荷がかかってしまう。普段ならともかく、今は平穏に見えて予断を許さない時だから、判断を下すのに長けた者が居なくてはならなかった。だが、そう思って取ったシーザの行動よりも、事態の方が一歩リードしていたようだった。

 詰め所に帰ったシーザとほぼ入れ違いで、ワーレン中の傭兵隊に通達を送ったばかりのラディから聞かされたのは、ワーレンの豪商の支援で北部の廃墟にドルーアの軍隊が集められ、そのうちのおよそ半数ほどが一両日中にこちらに向かってくるという報告だった。

「確かに、あの廃墟は隠れ家になるな。それで、半数が向かってきているだと?」

「はい、全体で一万を号しているとのことですので、五千……少なくとも四千は来るのではないかと思われます」

「一万か」

「はい。……かなり、多いですね」

「そこまでしてでも、同盟軍を潰したいのだろう。で、それがワーレンにいる同盟軍を攻撃するというわけか」

 シーザはこの事態になっても眉ひとつ動かさず、動揺もしていなかった。

 ただし、気にかかる事があって口を開いた。

「ドルーアは、誰の目を見て話してくるだろうな」

 ワーレンをないがしろにしておいて、なおかつ直接的に巻き込むつもりなら、こちらもそれなりの行動に出させてもらおう――シーザは誰にも語らず、密かに心積もりを決めていた。





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