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「ANXIOUS」六月の非賛襄2-4 |
* 偽者の警邏兵の正体は城内警備兵のある一小隊だった。同胞を殺したマケドニア人が憎いあまり、あれほどの行動に出たのだという。宿舎を攻撃した市民を煽ったのも彼らで、襲撃犯の頭は少しはマケドニア人に対して不審を持っていたようだが、それを偽者達に煽られて先頭に立ったとのことだった。 この件の首謀者がいなくなり、オレルアンの王都でマケドニア人がいわれもなく暴力を受けることはなくなって一連の問題は一応の決着がついた。とはいえオレルアン軍内から不穏な空気が消えたわけではなく、全てが終わったわけではない。大きな不穏分子がひとつ消えただけ、と言うこともできる。 この事とは別に、或る後日談がある。 事件から二日後、ザガロの元にアリティア人魔道士のマリクが訪ねてきて切実なお願いがあるのですけど、と切り出してきた。 「狼騎士団の方が魔道の効果を持つ紙縒りの作り方を教えてくれと昼夜を問わずに訪ねて来られて、とても困っているんです。どうか、ザガロさんからやめてくれるようにと言ってくれませんか」 「うちの団員がそんな事を?」 おやと思った。 あの場に居合わせたのはザガロとアベルの他にはアリティア兵士しかいなかったと記憶していたが、よくよく思い出してみると、あの時は本物の警邏兵や狼騎士団員が、野次馬と一緒になって遠巻きにしていた。もしその場にいなかったとしても、噂話か何かで聞いたのだろう。 どうして自分に止めさせる役目が回ってきたのかと思うが、それはたまたまだったと思えばいい。それに一昨日以来ザガロもあの紙縒りについては気になっていたのだ。 魔道を使えない者でもあれだけの威力を持つ物で、更に上があるというのなら手に入れたいと思うのも無理はない。 マチスは簡単には作れないと言っていたが、魔道士のマリクならあれを作れるのではないかと思うのは必然の成り行きである。 監督不行き届きを詫び、部下の独走を禁じると約束した上でマリクに訊いた。 「あの紙縒りを作るのは、そんなに困難な事なのですか?」 「そもそも、誰がそんな物を持ち出したのですか?」 逆に強く訊かれて、ザガロは戸惑った。本来は使われてはならない物のように聞こえたのだ。 「団員は何も言ってなかったのですか」 「訊く余裕がなかったのです。信じ難い話も聞かされましたし……。 そんなものが簡単に使えてしまっては、魔道士としてはたまったものではないらしい。確かに商売あがったりだ。 「ですが、わたしもボルガノンの魔道が入っていると聞きましたが」 「ですから、それを言ったのは誰なんですか?」 ザガロがマチスの名を出すと、マリクは顔をしかめて呻くように言葉を吐き出した。 「あの人がいたのを忘れてた……!」 「マリク殿?」 「同盟軍の中で魔道に見識のある人なんて限られていたのに、どうしてわからなかったんだ……」 そうして額を押さえるマリクに、置いてきぼりにされかけているザガロがもう一度呼びかけて、ようやく我に返ってくれた。 「あぁすいません、興奮してしまって」 「いや……。でも、そんなにまずい事なのですか」 「生憎ですが、あれば実用にはあたらないのです。初級魔道を込められるとはいえ、紙の質のせいで威力が落ちます。元々、魔道契約ができるようになったばかりの魔道士が、そうした物をぶつけ合う遊びで使っていた物なんです。駆け出しの魔道士が炎の魔道を込めたところで、派手な火花程度にしかなりませんから、さほど危険でもないのですが……」 「それにしては、本物の魔道が炸裂したように見えましたけど」 「マチスさんが使っていたんですか?」 「えぇ、昨日のことはご存じとは思いますが……」 その時のことを克明に語ると、マリクは大きく唸った。 「それだけの威力の雷だとすると、封入した術者の力量が大きかったということですね……。でも、わたし程度では無理だし、あの人はそもそも魔道を使えないし……まさか、ウェンデル先生がそんな遊びをするわけが……」 「ウェンデル司祭なら、作れるのですか?」 「くどいようですけど、あくまでも遊びなんです。直接頼みに行くことは絶対にやめてください。先生はお忙しいんですから」 これ以上つき合っていたら薮蛇になるとでも思ったのか、マリクは憤然とザガロの元を去っていった。ともかく、煩わせるなとだけ言いたかったらしい。 その後、ウェンデルを見かける機会があり、こっそりと尋ねてみたところ、たまたまマチスと話をする機会があって、のんびりとした話のペースが両者共に合ったらしく、時間を忘れて長いこと話し込んでいるうちに思いついて、遊びであの紙縒りを作ったのだという。 紙縒りを作るのは見習いの仕事だったようなところがあって、それは今(といっても、十年以上前のことだが)も昔も変わらなかったという話が出たのがきっかけだったらしい。それがあの窮地で役に立ったのだから、何が幸いするかわからないものだ。 しかし、あの紙縒りはどうやってもボルガノンを込めることはできないという。つまり、剣を手にした数十人を前に、半数は死ぬと脅したあの言葉は、完全にはったりだったのだ。 肩透かしをくった気分だったが、あの状況ではったりを効かせる事ができるのは相当に肝が据わっている証拠でもある。あのふざけた言動から想像するのはかなり無理があるが、あの男には裏表があると思えばいいのだ。 そこまで考えて、ザガロはふと思った。 「案外、あいつは嫌な奴なのかもしれないな……」 マケドニア人という事を除外してなお、あの男は警戒すべき相手かもしれないなと考え始めていた。 |