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「HARD HEART」(後編)2-4






「戦闘して、意識不明になって、行方知れずだった妹と再会して、説得されて、一旦雑談して、また説得されて、説得して、変なアクシデントに巻き込まれて、作戦会議に出て、今度は反対意志を持っている人の話を聞きに行ったんだろう? 半日で全部こなすんだから、絶対に無理が出てくるよね」

 と見送った後にマルスが言ったように、マチスの体力はいいかげん限界がきていた。天幕から出た辺りでは持ち直していたが、今度気が緩んだら睡魔に負けるのは目に見えていた。

 今回は見届け役にカインとドーガ、シーダがついてきている。カインはどうせだったら最後まで見届けるのだと言い、ドーガは全員が揃わないと会議が進まないだろうからというのと、この事態に興味を持ってついてきていて、シーダは純粋に心身共に消耗しているマチスを心配してくれたのだった。

 マケドニア捕虜兵の天幕の外に、ボルポートと他に数人の姿がある。二手に別れているからボルポートがいない方が抵抗派なのだろう。

 どうして外にいるのかと問うと、怪我の具合が思わしくない者がいるから騒がしくしたくないということだった。

「それに、もう話はついている」

 と言ったのは、抵抗派の代表シューグだった。マチスと同じ第二隊所属だから、よく見知った人間である。

 相手方の代表を差し置いて話がついたというのもおかしなものだが、手間が省けるならこれはこれでマチスにとっては有り難い話だった。

 もっとも、何があっても寝返るものか、いっそ殺せと言われると非常に困るのだが。

「で、どうすることにしたんだ?」

「アリティアの王子が言っていたようにお前に人をなびかせる力があるのなら、我々はアリティアに寝返りを打とう」

「……なびかせる?」

 条件と言うにはあまりにも抽象的で、いまいちピンと来ない。

 シューグが続きを言う。

「第四隊と第五隊のホースメン部隊が全存のまま退却しているはずだ。あいつらはお前と打ち解けていたようだから、うまくやれば寝返るかもしれん」

 破格の条件のように聞こえるが少し考えると実際はそうでもないとわかる。

 ホースメン部隊の人々はマチスと打ち解けていたと言っていたが、彼らはまずマケドニアの軍の一員で、マケドニアのために戦っているのである。より良い生活を求めて軍に入った者は多いだろうが、その根底には程度にかかわらずミシェイルに対しての信任が存在する。

 これとは別に、実際問題としてどうやって彼らと話をする状況に持っていくのかが難関として立ち塞がる。これはアリティア軍が北の城の戦力を壊滅させるよりも難しいのだ。城の使い方を心得ているベンソンに気取られずに接触する方法がなく、もちろん戦場で口説くのは不可能である。そんな暇はない。

 つまり、まず達成できないことを要求として突きつけられたのだった。

「何だって、そうなるかな……」

 マチスは疲労の色を濃くしてうなだれた。

 どうやって口説くのかもわからず戦略が絡むとなると、マチスは完全に素人である。

 ボルポートではないが、もう今日は考えたくない気分になりつつあった。

「ね、少し眠った方が良くないかしら」

 シーダが呼びかけるのに対し、マチスは眼を細めながらもこれを固辞した。

「寝ろって言ったって、何も解決策が出てこないまま寝るわけにはいかねぇよ」

「だから、一時くらいの仮眠を取るの。まだ夜は長いし、今日の今夜でマケドニア軍が仕掛けてくることはまずないから、大丈夫よ」

 カインとドーガがこれに頷いた。

「ずっと見てきたがあんたは体の割に動きすぎだ。きっとレナさんもそう言うと思う」

「急の用事があったら起こすから、それまでは寝とけや。何もお前さんじゃなくても、策は練れる」

「多分、マルス様が乗り出してくるはずだ。『二百を口説いて、三十も完全についてくるなら、完全に敵にするよりましだよね』とか言ってな」

「普通逆なんだが王子さんなら言いかねねぇな。策を練るのが好きだから……。ま、任せておけや」

 話の内容を聞いている限りでは不安極まりないが、どのみち素人のマチスにはいい案は出てこない。

 好意で言ってくれているのだし任せてしまおうかと力を抜いた瞬間、ふわりと眠気が襲ってきて、

「………………じゃ……そうさしてもらうわ……」

ずいぶんと眠たげな声で折れたのだった。





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