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FIRE EMBREM 暗黒竜と光の剣
「買い出し」
2-3





  
‐ * ‐



 その後の一行は信じ難いことに、無事に橋を通過して夜明けに街の入口までたどり着いた。

 ノックダウンしたマチスの代わりにカシムが手綱をとってのことである。

 目が覚めて、マリアの施術の仕上げをしてもらいながら顛末を聞いていたマチスは、そこまで聞いてどうとも言えない顔を見せた。

「まぁ何つーか、よく無事に来れたな……」

 治りかけの状態で喋ったりなんかしたら鼻が曲がるかもしれなかったが、話し手のトーマスはあえてそれは指摘しなかった。

 三人は現在街の宿にいる。自分で動けないお荷物を天日にさらすのもある程度は気の毒だろうと、やむなくとったのだった。

「何かな、俺ら、買いつけを頼まれた商人のせがれの一行ってことになっちまったんだよ。男連中は用心棒で、女連中はせがれのお気に入り。ただし、マリア王女はせがれの妹ってことにした」

 この『設定』にものすごく嫌な予感がしたが、マチスは黙っていた。

 トーマスが続ける。

「道中で用心棒とせがれがつまんねぇことで言い合いになったんだよ。周りは止めようとしたんだけど、せがれが一撃で轟沈して、それ見てグルニアの兵士が馬鹿馬鹿しいって呆れてくれた」

「…………」嫌な予感、大的中である。

「あんたがブッ飛ばされるかどうかって時に、ミディアとカチュアが影に隠れてさっさと鎧脱いで隠してさ、あ〜やられちまったと思ったらふたりしてカインをやかましく非難しだしたんだ。俺らは何が何だかわからなかったけど演技していることだけはわかった。で、カインを突き上げるのを終わったかと思ったら、兵士んとこに行って甲高い声で取り込んでるとか何とか言って兵士を追い返しちまったんだよ。そしたらいきなり全員集めて、こうこうこういう設定でいくからボロ出すなよって。いつ考えたんだか」

 目茶苦茶というか、無茶苦茶な話である。

「……あのさ、シューターの台車ってのは気づかれなかったわけ?」

 ちょっと論点から外れた質問にはなったが、心配事ではあった。

「用無しの物を買ったって言っておいた」

 淡泊かつ簡潔なお答えである。

「で、追い返したのはいいけどこれから本当にどうしようか言っていたら、も一回兵士が来て、俺らを丁重に通すって言ってきた」

「丁重に……?」

「あの連中、同盟軍とぶつかったらそん時は死に物狂いで戦うつもりだったらしい。まぁ、そうじゃなかったから無為に騒ぐこともないだろってことで。逃げる途中だったみたいだしな。もちろん口外無用を念押しされた。ラディが言うもんだから、一応通行料も払ったけどな」

 比較的平和な成り行きに、マチスは内心胸をなで下ろした。

「まぁ、戦わなくて済んだのはいいことだよな」

「でも帰りがな……荷物見られたらさすがにバレるだろ。食料品と軍用荷の違いなんてバカでもわかる」

「一日やそこらじゃ動いてくれないかな」

「祈るしかないな」

 確かでないことはなはだしいが、数が少ない身としてはそんなところなのかもしれない。

 カイン達は残りの人員を引き連れてシーダと合流しているという。あの中に筆記をこなせる人間が多い。

「やっぱり、おれが行かなくても良かったんじゃねぇかな……」

「どうだろうな。あんたがいなかったらあの敗残兵とたった八人でやりあう羽目になってたかもしれないぜ」

「そうかねぇ……」

 たった八人でもこのメンツならやりあえるんじゃないかと思ったが、それは言わなかった。

「やっぱり、マチスさんておかしな人ね」

 不意打ちパンチがマリアから繰り出された。

 それにしても、そこまではっきり言わなくてもいいと思うのだが。

 さいですかとさえも言えない間に、マリアは続ける。

「普通の人だったら怒ってるはずなのに」

 マリアの口調は普段のものに戻っていた。えらく気遣った話し方ではない。

「マリア王女、殴るのはやりすぎだとしても、丸腰ってのは論外ですよ。カインも言ってたけど一回殴らないと目が覚めませんて。……でも、目が覚めているようにゃ見えないけど」

「そんなに言わなくても」

「じゃあ、せめて当たり前の旅装を調えてくれよ。こういうのがある度に骨を折られたら嫌だろ?」

 どうにも、マチスの立場は悪くなる一方だった。

 部屋のドアに、ノックの音が鳴った。

 トーマスがドアを開けると、そこにはミディアが立っていた。

「いつまでたっても来ないから迎えに来たわ」

「あ、悪い忘れてた」

 トーマスがそう言うのを、マチスはいぶかむ。

「何が?」

「……とりあえず、行かなきゃいけないから支度を整えてくんねぇかな」

 トーマスの言い方は歯切れが悪いものだった。

「行くってどこに」

「まぁ、いいから」

 ……………………不安にさせる成り行きである。





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