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FIRE EMBREM 暗黒竜と光の剣
「買い出し」
2-2





  
‐ * ‐



 橋を越え、陽が暮れると松明をつけての移動となった。

 ここからは体力が残っていない者から睡魔と戦うことになる。

 マリアはすでに荷台の後ろで眠っており、他の者もかんばしいとはいえない。

 南西の橋までは何者にも遭遇せずに二時ばかりでたどり着いた。

 そして、橋を渡ろうかという所で先頭から止まるように指示が出た。

 五台とも止まると、先頭からカインが降りてきてマチスとミディアに降りるよう促し、後ろに行ってカチュアとトーマスを呼んでいった。

 ふたりが降りて、後ろから三人がやってきて中央に揃うとカインが声を潜めて告げる。

「橋の先に巻いた旗が立ててあった。ドルーアかグルニアの敗残兵だと思う」

 聞いていた四人ばかりでなくその場全体に緊張が走ったが、それも当然かという空気も流れた。

「数は?」これはミディアである。

「見えたのは旗が一竿だけだった。何人がいるかは見当がつかない……というか、あんな見えるところに旗があるには多いと見た方がいいだろう」

 地図上ではこの先には林を脇に見る街道がある。いくらでも隠れられるということだ。

「もうすぐこちらに気づいた物見がくるだろうから、なるべく抵抗を示さないようにして……女性には鎧は外してもらった方がいいかもしれないな」

 一同の鎧は革でできた物をつけていたが、商を装っている限り女性が鎧をつけているのはあまりにも不自然だった。ただ、外してしまえばあとは外套を着ているのだから、不自然な物はいくらでも隠せる。

「ラディが隊商の護衛もやったことがあると言っていたから、交渉は全て彼に任せようと思う。俺達も……ってちょっと待て」

 多分、目立たないように……と続けるつもりだったのだろうが、カインが眉間にシワを寄せてマチスを睨んできた。

「なんだあんた鎧を着けてないんだ?」

「邪魔だろ? おれ、どうせ戦えないから」

 平然とマチスは両手を広げて言い返した。外套の上からでもそれらしい膨らみは当然見えない。

「……まさか、丸腰じゃないだろうな」

 この場に一触即発の空気が流れた。

 さすがにマチスもマズいと思い始めていたが、持っていないものは持っていない。しかし、それを即答する勇気はなかった。

 幸い(?)周りはそれを読んできてくれている。

 それにしても、目の前に敵の敗残兵がいるというのに、全くそれに似つかわしい空気ではなかった。緊張状態ではあるが、どうも対象が違う。

 カインの眼が据わる。

「冗談は顔と元の身分と剣の腕前だけだと思って目をつぶってきたのに、態度までそう出るか」

 そう言って思いっきり握り拳を作る始末である。

 猛牛と呼ばれるだけあって、もしこれで殴られようものなら戦鎚よりも痛いと評判の代物に、マチスは後ずさった。

「ちょ、ちょっと、それ!」

「黙れ、一回殴れば目も覚めるだろ」

「今、それどころじゃないでしょうが!」

 きわめて珍しく常識の発言をしたが聞く耳持たず。

 最前の車にいたラディはくだらない理由での大乱闘がおこりそうな状況をよそに、ひとつため息をついて御者台から降りる。

 前方の端から黒い影が渡ってきた。どうやらグルニアの兵らしい。

 本来なら緊張の場面だが、後ろが後ろなだけにどうも気が抜けてならない。

 それは向こうの敗残兵も同じだったらしく、端を渡りきると誰何の前にぽつりと呟いてきた。

「あれは何をやっている……?」

 荷台の影に隠れて見えないのだろうが、雰囲気から察したらしい。

「仲間割れでもしたのか?」

「あぁいや……つまらない喧嘩なんですよ。すぐに収まりますから気にしないで下さい」

 ラディが苦しい言い訳をしている時、後ろではついにカインの拳が振り上げられた。

 が、奇跡としか言いようのない確率で、マチスはこれをよけきった。

 本人よりも先に周りが驚愕の声を上げる。

 遅れて、マチスも驚く。

「おれ、よけたの!?」

 完全に駄目元での行動だっただけに嬉しさもひとしおだった。

 人間、やればできるんだなぁ……と思っている間に、カインの第二撃・右ストレートが見事に決まり、鼻の骨が折れる音を残してマチスの意識は沈んだ。

 カシムやトーマス、リンダが気の毒にとこっそり合掌する。

「『戦場』で隙を見せちゃいけねぇよ……」

 深みのある言葉で送ったのはトーマスであった。





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