トップ同人活動記録FE暗黒竜小説「買い出し」INDEX>2-1



FIRE EMBREM 暗黒竜と光の剣
「買い出し」
2-1





  
‐ 2 ‐



 アリティアの城から、水路に囲まれた街まではこのラバ車で一日弱。ただし、陽の出ている間ずっと走り続けることが条件となる。

 マルスの手回しで、すでにシーダが先行して街に行っている。交渉はともかく、すでに業者を見つけてはいるだろう、ということだった。少しは天馬で薬なり杖なりを持ち帰るのだが、その量は微々たるものになるだろう。

 それでもないよりははるかにいいから、とカチュアが出発前に城を出る前に城に残る者に、姉パオラが戻ったら天馬で街の方に来るようにと伝言を残した。

 手綱を握る五人はカインを先頭に、残りは二列ずつ組んでいる。

 ……どうでもいいことなのだが、それぞれの同乗者を合わせて紹介しておく。先頭は先にあった通りカインとラディ、次列右がマチスとカシム、左がミディアとリンダ、後列右がカチュアとマリア、左はトーマスとナバール、ということになっている。総合すると右側の戦闘力が落ちるが、行きに関して言えば城から南下して橋を渡るまでは周囲がよく見えるから問題はない。こうなったのはたまたまである。ちなみに、金や貴重品はカインに預けてある。アリティアのものはアリティアの人間が持つのが一番いい、とマチスが駄々をこねたのだ。

「……でも、どうしてマルス様はマチスさんに調達を命じたんでしょうね」

 実にもっともなことをカシムが言ってきた。

「『暇そうだから』って言われたけどな」

「もっと信頼を置ける人が周りに沢山いるのに?」

 これは言われた時点からマチスの頭の中でぐるぐると回っていたことである。カインが偏屈な理由で蹴っているが、結局はこの場にいる。他の人もカインの頼みでついてきている。詰まるところ、主導はカインにあるように思われた。

 どうせなら名ばかりの責任者なんか降りてしまいたいのだが、それは問屋がおろさない。他の人もよく黙認しているな、というのがマチスの思うところだった。

 この中でマチスが唯一優位にあるとすれば、コンディションの良さだ。傷がふさがったカインにしても体力が戻ったわけではない。他の面々に至っては、いつものように得物をふるうのは難しい状態にある。

 例えば、隣に座るカシムは弦を自らの腕で引く普通の弓を本領としているが、上腕の痛みと足の怪我に一応の処置をしたに過ぎないから今回はやむなくボウガンを持ってきている。もし、これさえも使えなくなったら腰の短刀で戦うつもりだと本人は言っていた。

 それから、奪回戦に参加しなかったカチュアは地上の四つ足を扱うことは慣れていない。その上、空から降りたあとは働き詰めだから全く休んでいないのだ。働いていたのはマチスも同じと言えなくもないが、単独行動以降はあまり体力をすり減らすことはしていない。なんだかんだ言って、男女の体力差もある。

 でも、わからないよなぁと思っていると、隣の車から声が飛んできた。

「無駄口を叩くのはいいけど、考えても無駄なことはしないほうがいいわよ」

 実に冷たいお言葉をくれたのはミディアであった。普段から接点のない人だが、どうにも容赦がない。その理由は今いちわからないが、おそらくマチスがマケドニア人であることが最大の要素なのだろう。

「……了解」

 マチスは口の中だけで返す。

 この人に関してはわからないことばかりだが、この一行の中にいることはさらに疑問がわいてくる。アカネイアの大貴族の娘がこんなことについていくとは思えなかったのだ。

 後でカインにでも訊いてみようかと考えているさなか、車はアリティアからの第一の橋にさしかかった。

 出発した時点ですでに昼を回っているため、この時点で陽は暮れ始めている。この先は南西の橋を目指すのだが、起伏があったり何者かが隠れるには丁度いい森があったりと警戒対象が多い。平時でさえも賊の危険は絶えない所である。この近辺の領主や国が賊の討伐の出動をしていたにもかかわらず、だ。

 今なら尚更気をつけなければならない。

 本来ならスピードを兼ねて馬で行きたかったのだが、そんなもので行ったら狙ってくれと言っているようなものになる、らしい。一行も普通の武装はせず見た目には商の分隊に見えなくはない。かえって狙われてしまうのではないかと思われるが、この一行ならある程度には対抗できる。何があるかわからないのだから、いくらでも機転をきかせられる偽装はしておいた方がいい――誰が考えたのか、えらく警戒しているようだった。

 それよりも、この先を行くとなると森やら林を横目にしながら夜の通過を余儀なくされる。しかし橋を渡ったところで夜を明かすとなると帰りはますます遅くなる。

 念のためそのあたりのことを詳しく言わずに訊くと、全員からもれなく先に行くとの答えが返ってきた。

 ……当たり前か。

 マチスは言わなきゃよかったとため息をついた。





BACK                     NEXT





サイトTOP        INDEX