トップ同人活動記録ELFARIA非公式ノベライズ[1] INDEX>1章 水の国カナーナ 4-8



ELFARIA [1] 4-8




 風の月二十日。アルディス達はカナーナ出立に際して王宮を訪れていた。カナーナ王に挨拶するためである。

 城の修復作業で復興への賑わいを見せる中、アーバルスがぽつりともらす。

「フォーレスにも、早くこの日が来ると良いな」

「そうですね……。ねぇ、アルディス。パイン君達には挨拶してきた?」

「いや、色々と忙しいと聞いたから言伝だけを頼んでおいた。後から駆けつけてくれると聞いているし、大丈夫かと思ってな」

 王都奪還から三日が過ぎている。そろそろ旅立つ時機だと見越して、アルディス達はこの日に発つことにしたのだ。

 近習の兵士に先導されて王の前に通されると、そこにはすでに先客がいた。『水の勇者』こと、ロマの学者ふたりとお団子髪の少女、カナーナの近衛兵士である。

 王が上機嫌で手を叩く。

「おお、良かった! このままでは、行き違いになるところじゃったぞ」

「どうしてパイン達が……」

 パインがアルディスの呟きに答える。

「王様からご褒美を頂けるってことで来たんだ。他にも用事はあるけど、ともかく丁度一緒になれて良かったよ」

「ほれ、色々と話したいことはあるだろうが、まずは儂の話を聞いてくれ」

 王の言うことももっともだと、アルディス達もパイン達に倣って並んだ。

 王の前にパインとアルディスが並び立つ形になり、ふたりが跪くと、後ろの六人も膝をついた。

 王の目は一同を見渡し、そして前列のふたりに向いた。

「パイン、アルディス、他の皆も。本当によくやってくれた! カナーナを救った英雄、もとい勇者に礼を言うぞ!」

「ありがとうございます、王様」

「恐悦至極に存じます、カナーナ王」

 王は髭を引っ張りながら次の話題を切り出した。

「で、褒美なんじゃが……何が良いか、言うてみい」

「お願いしていいんですか?」

 パインが問うのに、王は上機嫌に笑った。

「儂の大切なものを取り戻してくれたのじゃ。遠慮はいらぬよ」

 では、とロマの少年は一息置いて言った。

「この戦いのせいで家を失った人達のために、できるだけ手を尽くしていただけませんか?」

「ほう、なかなか良い答えじゃ。それでこそ勇者である!
 ……っと、だが、あの鎧はそなたらにやろう」

「鎧?」

「洞窟で俺達が拾った物だ」

 小声で補足したアルディスは、苦いものを飲んだような顔つきになっていた。

 城壁の外にあった洞窟の隠し部屋は、入口がほとんど壊されていた。それを脇道のひとつと勘違いして中を覗き、アルディス達は鎧を見つけてしまったのである。兵士から聞いていたように鎧の出来はかなり良く、そのまま放っておくと今度は盗難に遭うかもしれないとあって、念のため帰りがけに持ち帰ったのだった。

 当然鎧は王に返し、その際に経緯を詳細に話したはずだったのに、事はややこしくなっていた。

「カナーナ王、かの品は偶然見つけただけですから……」

「儂が構わんと言っておるんじゃ、持ってゆけ。さぞ、メルドの良い材料になるじゃろう」

「……しかし、ですね」

 パインが小声で囁く。

「貰っておけば?」

「だったら、パインが貰ってくれ。俺は受け取れん」

「じゃあ、そういうことにするよ?
 王様、それじゃ、有り難く頂きます」

「うむ、遠慮なく受け取るがいい」

 カナーナ王が満足気に頷き、膝を指先で叩いた。

 大方の用件が済んだと判断して、アルディスが頭を上げた。

 辞去の挨拶を口にする。

「カナーナ王。私達は、これよりフォレスチナに向かいたいと思います」

「僕達もアルディス達と一緒に行きます」

 さらりとパインが割り込んで、にっとアルディスに笑みを向けた。ここにいたのはそういうことでもあったのだ。

 よくよく見れば、パイン達ロマの人ばかりでなく、ジーンまでも旅装束姿である。

 どうして気づかなかったのかと思いながら、アルディスも笑みで返した。

「パイン、ありがとう。そう言ってくれて嬉しい」

 この様子に、王が力強く何度も頷いた。

「両国の者が手を携えるのは、喜ばしいことじゃ! パイン、アルディス、力を合わせて頑張るのだぞ!
 いやー良かった! これでぐっすり眠れるわい」

 あまりにもらしい締めの言葉に一同は転びかけて、その後でみんなして含み笑いをした。

 新たな旅立ちなのだから、どうせなら笑顔の方がいい。





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