バセック伯爵は届いたばかりの手紙に目を通し、ひとりごちた。

「そこまでわたしに義理立てせずとも、良かったのに……」

　グルニアに移住している伯爵の父、先々代のバセック伯から届いた手紙には、同盟軍に身を投じる王女ミネルバへの協力を拒んでおいたと書かれている。伯爵が何度も帰還を呼びかけたのに応じなかったのを気にしていたような記述もある。中立を選択したのはそういう理由もあったのだろう。

　手紙の二枚目冒頭には家宝の杖を弟子に譲ったとある。久しぶりに会った弟子は、それはそれは美人になっていたと得意気な様子すら文字から窺わせる筆跡であった。

　ミシェイルの結婚から逃れたレナが同盟軍にいたという知らせは、極秘のうちに届いていた。その選択は清貧の生活を選んだ娘らしいとすら思ったものである。

　我が子を揃って敵に回した伯爵だが、日々の様子に変化を見せることはない。マチスを討伐する宣言をした日からずっと同じである。

　手紙には、そのマチスについても言及があった。わずか一行。

　お前は、本当に息子を討伐するつもりなのか？

　先々代の伯爵は考えに考えた末、その一文に全てを込めたのだろう。

　この問いに対する答えもまた変わっていない。

「現実と理想の勝負に、手加減をするつもりはありません」

（Noise messenger [0] : end )