バセック伯爵の私兵は、アイルや他の伯爵一族の兵と違って前線に集められることはなかった。例年通りに、これから収穫の時期にさしかかる農作物や果実の集計や盗難防止などに務めよと通達されている。

　以前、伯爵は公然と息子のマチスを討ち果たすと宣言している。ならば、こんな事をしている場合ではないはずなのだが、命令には従うしかない。マチスが謹慎生活を送っていた頃に監督官を務めていたルザも、そのひとりである。

「あんまりこういう事言うのも何だが、伯爵様は何をお考えなんだろうな」

　同僚が言うのに、ルザは答えようがなくて軽くかぶりを振る。

　一言目には「厳格な人柄」と評される伯爵の事だから、我が子可愛さで発言を撤回するとは考えづらい。

　別の同僚が声をかけてきた。

「その勘当くらった息子ってのは、よっぽど、どうしようもなかったんだろ。伯爵様が動く前に片がつくんじゃないか？」

「だが、オレルアンに送られていたところから来ているんだから、簡単にはいかないのかもしれないぞ」

　同僚同士の話を聞きながらも、ルザはどう説明すればいいだろうかと考えてはみたが、すぐにやめた。

　説明したところでわかるものなら苦労はない。あれは実際会って初めて、わからなさ加減がわかる人なのだから。

　あの頃のままであればの話だが。