「――皆様の元に、主の加護がありますように」

　長い時間をかけた加護を願う唱和の祈りを締め括ると、マリアは目の前で片膝をつく鎧姿のペガサス三姉妹に呼びかけた。

「終わったわ。もう立って大丈夫よ」

　三姉妹は、わずかな安堵の気配を見せながら立ち上がると、マリアに向かって頭を下げた。

「マリア様、無理なお願いを聞いてくださってありがとうございました」

「全然大丈夫よ。それよりも、わたしの代わりに……って言ったら変だけど、姉様の力になってあげてね」

「微力ですが、お心に叶うよう全力を尽くします」

　長姉のパオラはマリアに向かって強く頷いた。

　グルニアで主力部隊が攻めかねていた跳ね橋をめぐる戦いを制したことで、ペガサス三姉妹は解放軍の中で一気に頭角を表した。

　中でも、パオラは普通の天馬騎士に期待される何倍もの戦闘術をもってして活躍し、パオラの乗る天馬は実は全く別の生き物ではないかと囁かれるほどだった。

　偵察の役目では終わらない天馬騎士の道を追究するパオラにとって、名声を得て満足はしないまでも、軽んじられる事が日増しに少なくなるのは嬉しい事だった。

　そこまでして強くなろうとするのは、ミネルバの「槍」を自任できるようになるためである。マケドニアを離れる前から側近く仕えてきた自負もあるが、激戦を迎えるマケドニアの空でミネルバを直接助けたかったのである。

　今、その域に達していると言うにはまだ不十分だが、単独の天馬騎士だからと侮るような輩には負けない自信があった。

　そのパオラを見上げるマリアは、マケドニア攻めの第一陣から漏れた。若冠十三歳ではあるし、高位の法力の杖を行使できる事以外は華奢そのものの少女である。ミネルバが戦線に立つこともあって、この結果は多くの人が妥当と判断した。

　マリアは強く駄々をこねたりはしなかったものの、内心では不満だった。マケドニアの騎士達が全て出陣し、レナでさえも随行するというのに、マリアだけがひとりで安全な所にいるのは申し訳ないくらいなのだ。ミネルバにもしもの事があったらなどと説得の言葉を畳み掛けられて渋々納得したが、上陸地が確保できたら次の船に無理矢理ついていくと言い張って第二陣の中に入れてもらった。今はそれで満足するしかない。

「ではマリア様、行って参ります」

「うん、頑張ってね」

　寺院の堂を立ち去るパオラ達の背を見ながら、マリアは、駆けつけられる日までずっとずっと懸命に祈ろうと心に決めていた。

　みんなともう一度マケドニアで再会できるように。