トップ同人活動記録FE聖戦 風パティ小説 INDEX>六 物とのつきあい方 6



HOLPATTY 6-6




「あいつ、俺の事そんな風に言ってたのかよ……」

 落ち込むのは、教会の聖堂で待っていたアミッドである。あまりにもフェミナの言う悪口が面白くてパティがバラした事による結果だった。

 パティは木のベンチに腰掛けた。

「で、何の用なの?」

「俺じゃないよ。呼んだのはホークさんで、頼まれたんだ。なんか、俺も残れって言われてるけど」

「ふぅん……。
 ねぇ、フリージに行くの?」

「ああ。俺以外に行く奴がいないからな」

「リンダは?」

「リンダはいいんだよ。やることをみつけてるから。俺だけがのほほんとシレジアに帰るわけにはいかないし」

「リンダ、どこに行くって?」

「アルスターって言ってた。どうしてもそこの復興を助けたいって言ってたから。

 パティはどうするんだ?」

 問われてパティは胸を張った。

「コノートに帰る。あたしは子供達を育てなきゃならないもの」

「いいな。そういうの」

「いいでしょ」

 そこへ、ホークが聖堂の奥から出てきた。

「済まないね、呼び出したりして」

 パティは軽く首を振った。

「全っ然。ホーク様が呼んでくれたなら♪」

「俺の時とは本当に違うんだな」

 アミッドがそうこぼすと、パティは不敵に笑った。

「あったり前でしょ、格が違うのよ、格が」

「親密かどうかってことか?」

 パティは首を振った。

「貫禄」

 この言葉に、アミッドは不覚にもこけそうになった。

 第一、貫禄とは威厳がある人のことで、一般的には近づきがたいはずなのだが。

 ホークの穏やかなペースはパティの奇妙な言動にも狂わされない。

「皆に挨拶はしてきたかい?」

「まだ。それどころじゃないの」

「いつもパティは忙しいね。色々な人の所に行ってて」

「そだね。引っ張られたり追っかけ回されたり……もうすぐお別れなのに、まだ終わらない気がして」

 何気なく言ったパティの言葉にホークは頷いた。

「鋭いね」

 パティは思いっきり嫌な予感がした。

 それを口にする間もなく、奥からイシュタルが出てきた。

 大当たりである。

「やっぱり……」

 パティが言うのとほぼ同時にイシュタルが間を詰めてパティの前に立った。

「余計な事をしてくれたと言いたいところだが、救われたのも事実だ。礼を言う」

 あくまでも素直になるつもりはないらしい。

 パティは内心でため息をついて応じる。

「でも、ユリウス皇子を倒したのはユリアだよ」

「だが、始まりはお前…………あなただ。敵であるにもかかわらず、動いた」

「そうじゃないよ。ユリウス皇子のやってることに反対してるんだから味方じゃなくても、敵でもないよ」

 パティはいつまでも座っているわけにはいかないだろうと立ち上がった。

「あたしは後味が悪そうだと思っただけだから」

「それだけの理由で動くことに、礼を言うなと言うのか?」

「気にしなくていいって言ってんの。
 あたしが行ったのは、ホーク様がいたからなんだから」

 イシュタルがホークを見る。

 ホークがアミッドを見た。

「そうだったんですか?」

「んな無茶な事を言って消えられたら、追うのが普通なんだよ、パティの場合」

「それは……迂闊でしたね」

 助けられておいてよく言うよ、とはこの事である。

 パティは二人のやりとりを放っておいて、イシュタルを厳しい眼差しで見た。

「どうしてあんなことしたの?」

 まるで子供を咎める母親である。

「ユリウス様に刃向かった事か」

「あんな所で手を出しておいて、解放軍に何もするなって言うのが勝手なのよ」

「……そうだな。あれは逃げでしかない」

 うつむいてしまったイシュタルに、やりすぎたかなとパティは思う。

 いつものトーンに戻して話した。

「恐いものがあるって言ってたでしょ。それって、ユリウス皇子でもロプトウスでもなくて雷神のイシュタルさんだったんじゃない?
 バーハラで何を持ってたか知らないけど、トールハンマーじゃないでしょ。あんなに壊れちゃってたし、フリージの人に預けてあったし。
 身も蓋もない言い方しちゃうと、トールハンマーがなければただの優秀なセイジに過ぎない訳でしょ? それでも戦おうとしたのは何かに対する意地だって思う。
 でも、誰かの助けがなければどーにもならないわけで」

「……」

「死にたいわけじゃなかったんでしょ?」

「ああ、死ぬわけにはいかない。全てを裏切ったからには、それだけの報いを受けなければならぬ。
 ……年の割によく人のことが見えているのだな」

「これでも人の親だからね。困ったちゃんはよく見えるもんなの」

「それなら当然か」

 イシュタルは苦笑して頷いた。

 それからアミッドの方を向く。

「リンダの幸せをみつけてやってくれ」

「あんたよか、もう幸せだよ。気にすんな」

 アミッドの返答に対して満足したように頷くと、言う事は全て言ったとばかりにイシュタルはすたすたと奥へ引っ込んだ。

「って、ちょっと待ってよ!」

 パティが追うと、奥からメイベルが顔を出してきた。

 思わぬ伏兵である。

「なんでメイベルさんがいるの?」

「護れるもがわたしだけだからですよ。
 ですから、放っておいてあげて下さい」

「まだ話は終わってないんだけど」

「あの状態のイシュタルさまではまともに話せません。軽はずみだと思って後悔している時もありますし、だからといって何もしないのは論外だとも思っているようです。
 そろそろ追手が来てもおかしくない頃ですから、これで失礼させていただきたいのですが」

「ちょっとだけ訊いていい?」

「どうぞ」

「ヴァイスの人達、助かったの?」

 パティの真摯な問いに対して、メイベルは感情の読めない微笑を浮かべた。

「犠牲は出ましたが、どうにか全滅は免れました。
 ……では、ご健勝を」

 メイベルはわずかな風の気配を生んで去っていった。

 ホークが入口の方を見て言った。

「そろそろ準備をした方がいいかもしれないね」

「何の?」

「こちらも逃げるというか……逃がさなければいけませんから」

 ホークが説教台に置いた杖に手を伸ばす。

 それは、あの悪名高いスリープの杖だった。

 アミッドはその場で固まり、パティは実際に飛び退った。

 バーハラでの余韻が残っているのか、杖は微妙な笑みを口元にたたえている。

「あまり乱暴なことはしたくないけれど、場合によってはこれを使わなくてはならないだろうから」

 何が起こるのか知らないがと前置きしておいてから、二人はスリープが使われないことを祈った。

 ……特に、この笑みが恍惚に変わらないように。





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