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HOLPATTY 6-4




 パティはあてなく歩く道すがらエーディンに請われるままに今までの事を語っていった。母ブリギッドが疲労からくる病気で死んでしまうまでの事、それ以降どこでどうやって育ってきたのかという事。

 それから、兄妹そろって十二聖戦士の直系として生きない理由を話した。

「お兄ちゃんもあたしと似たようなもんだと思う。絶対に言おうとしないけど」

「ファバルはユングヴィに戻らないって言ったのね」

「それもきちんと聞いてない。でも、イチイバルをレスターに押しつけたとかそういうことは聞いたよ」

 解放軍が解散した直後にファバルとレスターが喧嘩のようなものをしていたとパティは人伝てに聞いていた。

 さっきのスカサハのことと合わせて考えているのか、エーディンの表情には陰があった。

「スカサハにはあんなことを言ったけど、わたしの思う我儘はあったわ。……でも、それにはどうしても資質が必要だったし、スカサハのありかたを否定するのは、誰に対しても申し訳がない……」

 一人にさせてあげたほうがいいのかなとパティは思う。

 色々と訊きたいことはあったが、長旅をしたのはあの杖を渡すためだったのだから退いたほうがいいだろう。

「エーディンさん、あたし」

 悪いから戻るね、と言おうとしたがエーディンに止められた。

「駄目、もう少しいてちょうだい」

 初対面一日目にしてものすごい親しみようである。

「今度はわたしがパティの質問に答えてあげる番だから」

 無理をしているように見えなくはなかったが、泣きはしないだろうとパティは残ることにした。

 しばらく歩けば、バーハラの街を出る。

「じゃあ訊くけど、レヴィンさんってどんな人だった?」

 エーディンは眉をひそめた。

「解放軍の軍師としてずっといたでしょう?」

「でもあれはレヴィンさんじゃないってオイフェさんが言ってたよ」

 ヴェルトマーで会ったほうは本当の父ではないかもしれないという予感の言葉は伏せた。

 記憶がないという事は……。

「それは……ある意味では正しいわ。あの人はバーハラで別れてから初めて会った時には、本当に別人のようになってしまっていたから。
 パティの問いに答えるのなら、わたしが若かった頃に知ったあの人は優しい人だったわ。窮地に陥ったわたし達、いえ、シグルドさまを力づけてくれたの。どのような人と言われたらこれ以上言えることはないわ」

「じゃあ、どうやって母さんとくっついたの?」

 この発言に、エーディンは何かまずいものを飲み込んだような顔をした。

「知りたいの?」

「だって、色んな人にその頃の話を訊いたら、母さんとレヴィンさんが会ったのがオーガヒルで、お兄ちゃんはシレジアで生まれたんでしょ。お兄ちゃん、今十九だからギリギリのラインだよね」

 はっきりと言うパティにエーディンは降参した。当時のあるがままを話すことにしたのだ。

 オーガヒルの女棟梁が裏切られた時に助けに行ったのがレヴィンだった。エーディンが自分に似ているという女性がいると聞いて飛んでいった時には、すでに二人で寄り添っていた(この後、シグルド軍のある女性二人が荒れまくったという逸話もある)のだ。

 パティが言うように本当にギリギリのラインで、シレジアに迎えられて生活していた時にファバルは生まれた。レスターの二ヵ月後である。

 しかし、このドタバタな話をパティはクールに受け止めた。

「ま、そういう事もあるよね」

 エーディンとしてはそんなによくあるものだと思わないでほしかった。聖職のメンツと言えばいいだろうか。

 適当に歩いているうちに着いたのは草がぽつぽつと生える荒れ地だった。

「結構遠くまで来ちゃったね」

「ここは『バーハラの野』よ。十八年前の惨劇の場所」

 パティがエーディンを見上げると、とても恐い顔が目に入った。恨みでも悲しみでもなく、無表情だった。

「わたしはヴェルトマーに近いところにいたから詳しいことはよくわからなかった。ただ、逃げなければと。
 あなたをここに連れてきたのはその剣について訊きたかったからなの。
 どうしてあなたがシグルド様の剣を持っているの?」

 パティの背にある銀の剣は本来ならばセリスが持っていなければならない。シグルドからセリスに継がれた唯一の物なのだ。

 パティは答えるのに一瞬躊躇した。しかし、黙っていても仕方がないと、事のはじめから話し始めた。

「シアルフィで皇帝と戦っている時にオイフェさんからこの剣を皇帝に投げつけろって言われたの」

 ヴェルトマーでオイフェがその理由をパティに話した。十八年前までの戦の遠因にバーハラ王朝の退廃があり、それによってシグルドが被害を被ったのだからそんな所の誉れのある印などつきかえしてやる、というのだ。ただ、その直接の責任者はいないがアルヴィスならその状況を利用して女婿になったのだから充分代わりになったのだという。アルヴィスもそれをわかっていたようだった。

「それで、皇帝……さんが前の時代のものが全部そこで終わるような事になるとか言い出したから、あたしはそれはあんまりだって言って返してもらったの。……でも、偉そうな事言っちゃったけど、どうしたらいいのかは」

 エーディンを首を振った。

「それはいいの。わたしが言いたいのは……どうしてこの剣をセリスが持っていないのかという事なのよ」

 セリスはシアルフィの東の崖近くで聖剣を受け取ってから銀の剣をオイフェに渡している。パティが知るのはそれだけだった。

「そう言われても……」

「セリスとシグルド様のあり方が違うことはわかっているわ。けれど、シグルド様は父君から聖剣を次いでからもその剣を振るい続けたの。聖件が壊れていたこともあったかも知れないけど、それは直せば済むことだったわ。
 今思えばそれは警鐘だったのでしょうね。人同士の戦いなのに、聖戦士の強い血を頼りにしていたんですから」

 一人が多数に勝つのは難しい。それを覆したのが聖遺物の存在だった。持っているだけで力を増幅させて人を人たらしめない物。

「セリスにシグルド様のようにあってほしいと望んだわけではないの。それではあまりにも哀しすぎるから。でも、そのひとかけらでもあってほしかった……。
 それが贅沢なのはわかっているけれど」

 奇しくもエーディンの言う事を実践しているのは、パティだった。

 拙いながらもフォルセティを使えるのに、絶対に使おうとはしなかった。

「もしかしたら、剣はあるべき所を知っていたのかもしれないわね」

 そう言ってエーディンはパティの頭に触れた。

「あなたは剣をどうすればいいかわからないと言ったけど、あなたが持っているのがいいわ。それが一番いい方法だと思う」

「駄目だよ、そんなんじゃ。もう剣はいらないんだもん。戦いは終わったんだよ」

 強く言うパティにエーディンは謝った。

「ごめんなさい。そうよね、あなたのような子がいつまでも刃を振るうべきではないわ。
 ……だとしたら、その剣はあなた次第ね。聖遺物ではないけれど、人の色々な思いがあるから。もちろん、ほとんどの人にはただの剣にしか見えないでしょうけど」

 そこまで言うと、全てを吹っ切るように空を仰いだ。

「もう、行かなきゃいけないわね。早くしないとレスターに見つかってしまうから」

「ユングヴィに帰らないの?」

「帰ったらもうどこへも行けなくなってしまうもの」

「そうかな……」

 レスターはそんなに心の狭い人間ではないはずである。

「わたしはユングヴィの公女である事を捨てているの。なのに、戻ってしまったらわたし自身を裏切る事になるでしょう?」

 エーディンは努めて明るく言っている。

 だったら、といい別れをするために、パティはこのまま見送ろうと決めた。

「エーディンさん、イザークにいるんでしょ? 多分行くことになるから、そん時に会いに行っていいかな」

「えぇ、いらっしゃい。ファバルにも教えておいてくれると嬉しいわ」

「伝えとく」

「じゃあ、よろしくね」

 エーディンは年相応らしからぬ若々しい足取りで、ヴェルトマーの方向へと姿を消していた。





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