トップ>同人活動記録>FE聖戦 風パティ小説 INDEX>五 悪夢はひっぱたいて退散させよう 7
HOLPATTY 5-7 * ワープがリターンと違うのは、行き先が限定されていないため、魔法をかけられた対象者が事前に(とは言え、ほんの一瞬だが)到着地点の様子を見られる事である。 これがどうしてなのかパティにはわからないが、ひとつだけ明らかになった事がある。 どうやらユリウスの顔面を蹴り飛ばすハメになる、と。 「ぶっ」 と何ともカッコ悪い声をあげてユリウスがのけぞった。 気の毒にも、鼻からヒットしたらしい。 「あら兄様、素敵なお顔がますます素敵になられたわ」 冗談のようなスマイルをパティの後ろでユリアが振りまく。 とん、と着地したパティは丁度二人の間に入った形になった。 この中にあっては一般人を自称してもいいと思っているパティにとってはありがたくない位置である。 パティはあわてて飛び退った。 幸いにも、他には誰もいない。 鼻を押さえて顔のパーツを中央に集中させるユリウスを横目に、ユリアがパティに話しかけてくる。 「加勢に来てくれたんでしょ?」 「勝手に呼ばれて、飛ばされただけよ」 「加勢してくれるのよね?」 笑顔のそれは懇願のようではあったが、もはや宣言と同じである。 だが、パティも負けてはいない。 「兄妹ゲンカだったら、当人達だけでどうにかしてくんない? あたし、もうウンザリしてんのよ」 「何に?」 「こんな事のせいで死人が出るとか」 「うんうん」しきりに頷く姿は小犬のようである。 「竜は竜じゃないと倒せないとか、そんなのとつきあうのはもう終わりにしたいの」 「だったら終わりにしましょうよ。だから、パティに力を貸してほしいの」 「言ってるでしょ、自分達でどうにかしろって」 「お前ら、人を無視すんな!」 ようやく、二人の注目を集められたユリウスだが、パティからしてみたら、最後に残った嫌いな食べ物程度の認識具合である。 それでも兄思いなのかユリアが振り向いた。 「あぁ、ごめんなさいね兄様。もう少しだったんだけど、仕方がないわよね」 そう言うや、スリープの杖を取り出す。 パティは慌てながらさらに退いた。 「何で、そんなモノ持ってんのよ!」 「ホークさんの言う事ももっともだと思ったの」 「だ、だったら、こっち使いなさいよ!」 スリープの剣を差し出すが、ユリアが首を振った。 「兄様は筋金入りだから、こっちの方が効くでしょ?」 何の筋金入りかは言及したくないところである。 「でも、魔法は効かないんじゃ……」 「だから、こうするのよ」 ユリアはスタスタとユリウスの目の前に出ていき、 「やれるものならやってごらんなさいな」 と尊大に言った。 「やってやろうじゃないか!」 挑発に乗って詠唱を始めたユリウスに、こともあろうかユリアは杖を振り下ろしたのだ。 「ッ!」 狙いが何なのかわからないながらも、杖で殴られながらユリウスは詠唱を続けるしかない。一応、今のユリウスにはロプトウスというこれ以上ない守護がついている。痛くもかゆくもない。 しかし、二度三度……回数を重ねていくごとに、杖の顔が変化していった。 スリープの杖の顔は、何もない状態を素として、魔法が効いている間は寝顔+鼻ちょうちんである。では、物理的に使ったら……? 答え : 笑い出す。 多少はあのリアリティ顔に慣れたパティでも、叩くごとに笑みの度合いが増す杖の変化にはついていきたくなかった。笑い声をあげる時のような笑顔ならまだしも、今の杖の表情は刺激をもたらすことによって生じる恍惚の笑みなのだ。 気持ち悪い、の一言である。 その間ユリウスは集中するために目を閉じていたわけだが、これが見事に災いする。 詠唱のほとんどを終えてあとは「ロプトウス」の一言を残すのみとなって、開いた目が最初に映したのは妹の、異父兄にならったかのようなスマイルだった。 「ねぇ、兄様」 そう言って、世にも危ない表情をした杖を顔面に叩きつける。 「うあっ」 逃げようとしてユリウスは体を崩す。と、今まで魔力を集中させていた両手も崩れた。 「あ」 半開きの口で魔の逃れて手の中を見つめるユリウス。 「甘いっ」 そこへユリアが振ってきた杖がユリウスの頬にクリーンヒットし、虚を突かれたユリウスは見事に昏倒したのだった。 「さてと、始めましょうか」 ユリアは懐から小さい魔道書を取り出した。 パティは、よくない展開とはわかっていつつも、とりあえず訊いた。 「何すんの?」 「兄様の後始末よ。ちょっと手がかかるけど」 「……でも、これなら心臓一突きでもいいんじゃない?」 ユリアがかぶりを振る。 「闇を滅するのは光でなければ完全とは言えないわ。けれど、せめて楽に逝かせてあげないと」 ユリアがナーガを詠唱していくと、手の内にミニチュアの竜が現れた。それから、ゆるやかに手を動かしていくと竜は龍というべき胴体の長いタイプに変わり、しばらくして、二つに別れて細く小さい二頭の龍になった。長さは30センチくらいか。 「この二頭を鼻から入れて耳に通じるあたりで力を解放すれば兄様は楽になれるわ」 とんでもないビジョンである。 「ちょっと、そりゃないんじゃ……」 「よかったわね、パティ。これでやっと終わるのよ」 さも嬉しそうに言うユリアに、パティはうなだれた。 「……あんた、そういう人だったんだ……」 「さぁ、兄様が目を覚まして苦しむ前にやってしまわないと」 外野を無視して楽しそうにするユリアとは対照的に、パティはユリウスに同情した。どんな悪い事をやろうが、こんな死に方だけはしたくない。 やっとこれで戦いが終わるというのに、そのやりかたがこれでは今まで死んでいった人も浮かばれないだろう。 「ねぇ、パティ。手伝ってくれる?」 ユリアは兄の鼻やら耳やらを片手でいじくっている。 パティはそれをなるべく見ないようにした。 「な、何……?」 「兄様の鼻の穴が小さくて入れづらいの。広げておいてくれるとやりやすくて……」 この暴挙を止めなければならないのはわかっていた。しかし、抗う方が恐ろしく、パティはユリウスの鼻の穴をおっ広げる事でユリアの奇妙な野望に荷担したのだった。 そこへ、ユリアが二頭のミニチュア龍をじりじりとこれ以上真剣な顔はないとばかりの表情で入れていく。 果たして、世にもマヌケな光るドジョウヒゲ(もどき。わざとユリアが残した)を持った皇子ができあがった。 笑うに笑えない情けなさ大爆発の皇子様である。 ユリアは完成したそれを見下して、邪悪そのものの顔をしたが、すぐに我に返った。 「これから、ナーガを解放するわ」 「……好きにやってちょうだいよ。あたしゃ、帰るわ」 「ダメよ。見届ける人がいなきゃ」 「あたし、あんまし信用されてないけど」 「でも、兄様は信じるでしょ? 本当の事だし」 キッツイ駄目押しである。 そんなこんなでドジョウヒゲの皇子は、情け容赦のないナーガの一撃で昇天(?)していった。 そして、そのかたわらには一番の功労者・イッっちゃった顔の杖があったのだった。 |