トップ>同人活動記録>FE聖戦 風パティ小説 INDEX>一 戦わぬ継承者 3
HOLPATTY 1-3 「それはセリス様の勝手でしょ? 攻撃するタイミングでも測ってんじゃないの?」 もし本当にそうならレイリア達が立ち回っているのが気の毒だが、パティはセリスの行動に直接どうこう言える立場ではない。リンダ以上にセリスは近づきがたい存在である。 「第一、あたしなんかに何ができるのよ」 「風が光を導く。おまえにできる事はあるはずだ」 パティは憮然とした。 「レヴィンさんがやればいいじゃない」 「今の風はおまえだ」 「冗談言わないでよ。フォルセティなんか使えないのに」 パティはフォルセティを使えない事をかえって幸せだと思っていた。十二聖戦士の末裔が戦場に現れて人智を超えた力を振るうのを見る度に(それがシャナンやアレスであっても)使えなくて良かったと思うのだ。 「このままだとセリスは何もせずに倒れてしまう」 「そこまでマヌケでもないでしょ、セリス様だって。 レヴィンの 「お前が皮肉を言うか」 「こんな本を持っているくらいで、どうにかできるなら苦労しないでしょ?」 あっけらかんと言うパティ。 レヴィンはその言葉に一瞬揺れた。 「……お前は、本当に聖戦士の自覚がないのか?」 「ごちゃごちゃ言ってるヒマがあったら動いたほうがいいんじゃねぇの?」 ファバルが杖使い四人衆の間をすり抜けて、再び玉座の間へと入ってきていた。 「このままじゃ、皇子さんがやられるだけだぜ。連れ戻したほうがいいかもな」 「連れ戻す? 憮然とするレヴィンに、ファバルの目が細まる。 「……あんた、皇子さんに何言ったんだ? あんなところで一人で突っ立っているのは何でだ?」 「何を言いだすかと思えば、馬鹿なことを……」 「聖剣を手に入れた時に何を言ったんだ? じゃなかったら、皇子さんはあんなことやってないはずだ。 「いいよ」 パティは軽く拳を握った。 「どうすればいい?」 「そうだな……牽制かけてくれよ」 「あたしが?」 ファバルが確信を持って言い切る。 「皇帝はおまえには攻撃してこないから」 「それ、絶対に違うと思う」 アルヴィスはパティに攻撃しないのではなく、攻撃意思のない者には手を出さないだけである。現に、ナンナとシャルローは走り回っていて体力の消耗が激しいだけで、魔法による火傷を一切負っていない。 「いいのかなぁ……」 そこへ、レヴィンが眉間にしわを寄せながらパティに言ってきた。 「力を貸そう。フォルセティの魔道書を出してくれ」 「どうすんの?」 「魔道書のほうに譲歩してもらって、お前が魔法を使えるようにする」 その言葉に、パティは厳しい顔で退いた。 「いらない! あたし、このままでいい」 「お前自身は変わらん。どうせ、向こうも心得ているだろう」 「向こう?」 「信じられないだろうが、魔道書のことだ。……いいから、出してくれないか」 言われるとおりに魔道書を引っ張り出すと、レヴィンが確認してきた。 「魔法は使えないな?」 パティはうなずいて表紙に手をかける。 「ほら」 と、言うと動かないはずのぶ厚い表紙はひっくり返り、中身の頁が何者の手も触れないのにめくれ始めた。 不気味にうごく頁に、パティはおののく。 「何……これ」 「まさかとは思うが……試しに唱えてみればわかる」 「……『フォルセティ』って?」 言うが早いか、頁のひとつから小さい緑色の竜巻に刃がついたような物体が飛びだし、正面にいたレヴィンをよけて前進し、盛大に壁を破壊した。 その威力の凄まじさに、他の者は全て動きを中断する。 アルヴィスでさえ手を下ろしてパティに注目した。 だが、多くの目が集まってもパティは怯まなかった。 「行ってくる」 計画を変更し、誰も動かない今の状況を利用して一直線に歩き、セリスのわずか後ろで足を止めた。いざとなったら聖剣でファラフレイムの直撃を免れようという考えである。 苦手の炎の使い手を前にしても、パティの魔道書は相変わらず勝手に動いている。 アルヴィスが今にもファラフレイムを放とうかと魔道書に手をかざす。 「フォルセティの使い手だったか」 「そんなつもりはなかったんだけどね」 「それで余に対抗しようと?」 「まさか」 パティは静かに魔道書を閉じ、小袋の中に収めた。 「こんなものいらない」 腰に手を当てた。完全に無防備である。 アルヴィスは一瞬だけ思案顔を見せて、構えを解いた。 いいだろう、と唇を動かして足元の剣を取り上げ、鍔の印をセリスとパティに向けた。 「お前達はこの剣が何か知っているか?」 パティは首を振りかけたが、セリスにも言っているのだと気づき先に答えるのは避けた。もう立ち直っていると思ってそうしたのだが、それは甘かった。 「セリス様?」 小声で読んだが、何かを呟くのが聞こえるだけである。 何をブツブツ言っているのかと耳を寄せると人の名前を列挙していたようだった。ところどころ、知っている人の名も聞こえる。 どういうことかとそれなりに考えてみようとしたら、パティはコノートにいる頃のことを思い出した。 **
孤児院ではファバルとアサエロが子供達の父親代わりで、母親の代わりはパティとデイジーがやっていた。 パティとデイジーは時々レンスターやコノートの城下町に出て、裕福な商人の持ち物を拝借しては売り飛ばして食べ物を調達していた。ファバルとアサエロが稼いできてくれる分だけではどうしても足りないのだ。 遠出をして帰ってくる度に、デイジーは手作りの小さな祭壇に膝を折って祈りを捧げていた。 パティはいつもそれを不思議だと思って見ていた。盗みをしてざんげをしてまた盗みに行って……それでは意味がないのではないか、と。 思い切ってそれを言ってみたところ、デイジーは笑い出した。 「違うよ。あたしは父さんと母さんに今日も無事に生きてましたって言ってたの。 デイジーの考えでは、神などというのはいないようなものだったらしい。 「あたしだけだったら父さんと母さんに祈った方がずっといいと思うの。神様に祈るのも何だし」 **
そんなことをデイジーは言っていたが、これまで出会った全ての人に対して祈っているセリスは少し違う。 この皇子様どうにかしてよとパティが思う一方で、この部屋のもう一つの戦力、レイリア達は休みなく働いて消耗した体力を取り戻すべくこっそりと休んでいた。 その中で唯一元気なアミッドが、状況をものともせずにパティに近づいて来る。 「さっきのアレ、なんだったんだよ」 「発作」 「…………」反則だ、とアミッドの顔に書いてある。 「そんなのどうだっていいから、誰かまともな杖持っているのをひとりくれる?」 「後ろにいるだろ」 音がするほどに首を振ってパティは精一杯の抗議をした。それだけは願い下げである。 強い主張をみせられて、アミッドが首を傾げながら戻り、代わりにシャルローが困惑顔でやってきた。 「いいんですか……? こんな所に立ち入って」 「大丈夫よ、このオジサンはそこまで恐くないから」 パティにかかっては皇帝もただの中年男である。 「セリス様を治してあげて。このままじゃどうにもならないから」 「で、でも……」 「仕方ないのよ。後ろの魔法は届かないし、セリス様はHPが一桁でタマシイ抜けてプチプチ祈りだしちゃってんだから」 「ひっと……? 今何て」 「何でもない。ね、早く早く」 煙に巻かれた風のあるシャルローは、パティにせかされるままリカバーを施しだした。 その横で、パティは再びアルヴィスと面向かう。 「おまたせ……ていうか、セリス様が復帰するまで待ってほしいけど」 「……無茶苦茶な娘だな、お前は」 「よく言われる。あ、でもオジサンって言ったのは謝ります、ごめんなさい」 「別に……気にしてはいないが」 開き直るパティに対して、アルヴィスは(オジサン扱いなどによる)精神的ダメージがひどかったが、稀代の賢者とも呼ばれたこの男は強かった。どうにか現場に踏みとどまっている。 「何故、この剣をわたしに寄越した?」 「頼まれたの。よくわかんないけど……騎士の慣例かなぁって」 その時、はるか後方でオイフェが違うぅ〜と泣き崩れていた。 この発言にはアルヴィスも固まりかけた。が、この人はそんじょそこらのセイジから上がってきた皇帝ではない。 パティとの対決(?)でダウンするようでは、若き頃の栄光もすたれようものだ。 「決闘のならいとして手袋を投げつけるというのはあるが、剣を渡すのは忠誠の誓いだ。改めて持ち主に返せば主従関係が成立する」 今度はパティが固まりかけた。このまま剣を返されてしまうと、問答無用で皇帝の臣下である。 それを察してか、アルヴィスの表情に少し余裕めいた笑みが込められた。 「だが、この剣なら話は別だ。お前に頼んだのが誰にせよ、前時代のものの全てをここで終わりにするとその者は言ったのだろう」 意味不明の言葉にパティは顔をしかめた。 何が言いたいのか、と訊こうとしたパティの右肩にセリスの手が置かれる。 力なく笑みを見せるセリスに、パティは危ういものを感じた。 「……いいの? そんな状態で」 「ここは危ないから下がって」 「でも」 「大丈夫。さっきは驚いただけだから」 それにしてはえらく長かったが、そこまで言っては解放軍盟主の面子がなくなるのでやめておいた。 「わかった。じゃあ、セリス様がんばってね。死んじゃダメだよ」 「死んだりしたら多くの人から恨まれてしまうからね。気をつけるよ」 えらく軽い空気の口調だが、パティとしてはこれで充分だった。これ以上すべき事などないはずだから。 「オジ…………皇帝さん、お邪魔しました」 アルヴィスの頬がひきつりかけたが、どうにかもちこたえて真顔に戻る。 「娘よ、お前の勇気を称えて、名を聞かせてほしい」 「名前……?」 そうだ、とアルヴィスは頷いた。 一方パティは困ってしまった。突然に言われたのと、名乗る気乗りがしなかったのだ。パティというのはパトリシアの略である。パティはそんな上品そうなのを名乗るのはこっ恥ずかしいと思ったのだ。 こんな時にこんな事をしてていいのかと思いつつも、どうにか返事をひねり出す。 「すごく、短いよ……?」 「長ければ良いものではない。気にするな」 いくら言われても、改まって名乗りを上げるのはやはり気恥ずかしい。 しばらく考えた上で、パティは口を開いた。 「パティ。コノートの、パティ」 「コノート……北トラキアの者か」 パティは頷いて、ひとつの提案を出した。 「皇帝さん、その剣……くれない?」 「これか?」 言わずと知れたあ・げ・るの剣である。 「何故そう考えた?」 「皇帝さんが前の時代がどうこうって言ってたでしょ。前の時代ってことは、あたしの母さんが戦ってた頃のことで……そうした母さんがいたからあたしはあるんだと思う。簡単に終わりだとか言われたくないって思って。 「いや……いいだろう。取りに来れるか?」 「行きます」 即答してからしまった、と後悔した。アルヴィスが卑怯なことをするはずがないと頭でわかっているものの、生身のままファラフレイムの前に出るのは恐い。フォルセティの継承者と勝手に認められても、パティ自身はそこらへんにいる女の子と変わらないのだ。 しかし、ここで引いてしまってはコノートのパティがすたる……かどうかはわからないが、パティは深呼吸して玉座のアルヴィスの元へ行く覚悟を決めた。 こんな危険な橋を渡る必要はないのかもしれない。何の意味があるのかと訊かれても答えようがなかった。 パティは、傍目にはしっかりとした足取りでアルヴィスの元まで歩いてきた。 が。 「き、来たわよっ!」 実際は硬直寸前であった。 アルヴィスが声なく笑う。 「そう逃げ腰になるな。先程までの勇気はどうした?」 「あ・あたしだってね、恐いものは恐いのッ!」 アルヴィスの口元が静かに充実の笑みをつくる。 「そう。それでいい。 アルヴィスはパティに目線を合わせて、銀の剣を差し出した。 パティは身長に剣を受け取る。 「じゃ、あたし、帰るね。お願い聞いてくれてありがと」 「そう思うのなら、余の頼みを聞いてくれぬか」 カウンターパンチである。 「え……?」 対人関係天下無敵のパティでも、これはかなりきつい。しかもまだ命の保証がされているわけでもなかった。 逃げ腰のパティを捕えるかのように、アルヴィスは声のトーンを一気に低くして、周りに声が届かないようにする。 「そこにいる黒衣の騎士と金髪の杖使いがヴぇルトマーへ行くことがあればこれを渡してほしい」 そう言ってパティに見せたのは外套につけるような止め金だった。精緻な装飾がある。 「どうして?」 唐突に皇帝がデルムッドとナンナに目をかけるのは不自然である。 アルヴィスの目がわずかに和む。 「同族、と言うべきかな。ファラの星がかすかに見える。間違いでなければ、余の知る者の子だ」 「捜してたの?」 「できることならばそうしてやりたかった。 パティは左手をとられ、手が重なったあとには止め金と指輪が掌にあった。 指輪をつまむ。 「これは?」 「最後の勇者に対する礼だ。受け取ってくれ」 パティは指輪をしげしげと見つめた。なかなか高価そうではある。 「本当にもらっちゃうよ?」 断りつつも、しっかりと左手で一緒に握りしめている。 「構わん。そなたは、死ぬなよ」 うん、と頷こうとしたその時、パティはアルヴィスに体ごと張り飛ばされた。 衝撃に耐えながら軽い体が宙を舞う。 そして、床に落ち、勢いで転がり、壁にぶつかってようやく体が止まった。撲たれた右肩が痺れて動かない。 「痛っ……」 何もまともに言えず、身を起こすのがやっとだった。 と、パティの目に赤と黒だけが飛び込んできた。炎の赤と魔道の影響らしき黒が玉座の間を占拠する。セリスの姿もアルヴィスの姿も見えない。 目を凝らしたところで、赤と黒はやはり赤と黒だった。 「炎?」 痛みも忘れて出した声が炎の轟音にかき消される。 パティに他の音は聞こえなかった。 セリスさまぁ! 叫んだはずの声はパティ自身にさえも届かない。 心強い味方の光と雷の姿もなかった。この玉座の間では誰がしっかりと動いているのかわからない。 壁際で動けずにいたパティは、しばらくして魔法の力で宙に浮かされ、ゆっくりと入り口へ向かって保護されていった。 |