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「Noise messenger[6]」 6-0-b-1






(6-0-b)

 六日前――。

 マケドニア王ミシェイルは妹ミネルバとの直接対決にあたり、何ひとつとして敗北要素を見い出さなかった。

 ミネルバ自身が竜騎士として優れている点や、戦いの綾が何を生み出すかわからないといったことはあるにせよ、妹には狡知というものが決定的に欠けている。

 不足があってもそれを補って余りある強大なものがあれば話は違うが、そうなっていれば国内勢力の数というわかりやすい指標で既に現れているべきだった。

 そうした要素から、ミシェイルは国を離れたミネルバの変化をそう大したものではないと読んでいた。

 だが、この時の彼はミネルバに付随したあるひとつの要素を読みきれなかった。

 空にあって、弓以外で竜騎士を倒す者は竜騎士の他になしと思っていたマケドニア王の頭上から、緑のアクセントに彩られた白き天馬が襲い掛かってきたのだ。

 強烈な気配と急降下の羽音がミシェイルの身に届いても、既に避けようはない。銀の槍の穂先を直撃させないのと衝撃の際に鞍から放り出されないので精一杯になり、天馬騎士一騎に丸ごとのしかかられる形になってミシェイルとパオラの二騎は眼下の山へ勢いそのままに落下していった。

 高度と速度だけを見ても、落下した者達の生命が危ういのは明らかで、現に飛竜と天馬は絶命している。

 だが、騎乗者達は愛騎が自らの受けるべき衝撃をいくらか負ってもらえたのと、落ちた場所が樹上だったことが幸いした上に、パオラにはこの絶妙なタイミングでマリアからの周癒リザーブが及んだ。

 周癒リザーブはその当人ばかりでなく周囲にも治癒の力を及ぼすが、勢力の別をつけることもできる。

 しかし、この周癒リザーブはその意図を外しているようだった。

 パオラの影響が及ぶ地点に落ちていたミシェイルは、自らにも治癒の力が働くのに疑問を抱きはしたが、深く考えている時間はなかった。

 こうして総大将の自分が墜落してしまった以上、下手に存在誇示をしようものならそれはもう下策でしかない。かといって、自分のいない軍勢で敵に打ち勝つなどというのは不可能だった。

 敗北を認めるしかない――瞬時に至った結論はしかし、彼の中で容れられない事だった。

 マケドニアには俺の他に隆盛へ導ける人間がいない。その俺がこんなただの一敗で姿を消せば、またこの国には竜の守り番――いざという時の盾としての役目を押し付けられる。

 ミシェイルはマケドニアを愛し、守りたいが故だと言い聞かせて折れた指揮杖を抱える理由を強引に納得させた。

 そうなれば、彼に要求されているのは同盟軍の捕縛から逃げ切ることである。

 ミシェイルは自らの捜索を巡って乱戦になることを見越し、その隙に乗じて山の奥へ逃げるつもりだった。

 周癒(リザーブ)の影響がありつつもなお痛む体に、再び治癒法力が及ぶ。発生源がパオラだから、同盟軍の僧侶が再び周癒リザーブを行使したのだろう。

 おかげで彼はかなり動けるようになったが、皮肉なものを感じずにはいられない。同盟軍の術者は余程の博愛主義者だったのだろうが、その甘さが敵の総大将を逃す結果になっているのだから――が、ミシェイルはこの術者の正体を知らない。知ることができていればまたこの先の歴史は変わったのかもしれなかったが、そうと告げる存在はこの時いなかったのである。

 代わりに、というものでもないが、ミシェイルは別の感慨を得てパオラの方を振り返った。



 俺がミネルバに負ける要素はない――その確信は、全ての面で持っていた。

 だが今思えば、ひとつだけ確かに負けていた点があった。

 主君の意に反してでも主君を守ろうとする臣下――それがあの天馬騎士だった。銀の槍を向けてはいたが、一番の刃はあの娘自身だったと言えるだろう。

 当然、一騎討ちなら負けるようなことはない。だが、そんな事はどうでも良かった。

 そうしてまでして尽くし、勝とうとして動く家臣は最後まで俺の前には現れなかった。俺の命に従うことを良しとする者が集まった結果が、これだ。



「……まだ足らんとは、な」





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