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「Noise messenger[3]」3-4:3







 ミネルバは使者に説得の書簡と聖騎士の勲章を持たせて、オーダインの陣営に送り出した。

 ほどなくして、半時の後に返答を披露するというオーダインの署名が入った書簡を持って使者は戻ってきた。勲章については、わずかに考える様子を見せたものの、返されたのでは仕方がないと受け取ったという。

 返答として半時という短い時間は事前にある程度丸め込んでいなければ、断られると考えるのが自然であったし、勲章の扱いも何やら引っかかるものだった。

 ミネルバはしばらく考え、オーダインが拒絶の意思をはっきりと表すまでは前に残るとしながらも、諸将には攻勢の準備を怠らないよう通達を出した。

 一度退いていながら陣営の鞍替えに頑なな姿勢を見せる。読みの失敗と言えばそれまでだが、オーダインもまた今の心境はミシェイル寄りという事になる。

 ともあれ、こうなってしまっては、オーダインを捕虜として捕らえなければ、ミネルバが思い描いたようなマケドニア国内の軍属勢力獲得には繋がらなくなりそうだった。

 果たして、ロシェを始めとした大戦力と最大の破壊力を持つオーラの魔道を持つこの戦力で、捕虜に留めるなどという器用な真似ができるものなのか――。

 そんな思いを抱きながらオーダインを待つと、約束の刻限に、砦を背にして部隊を整然と並べた騎馬騎士団が現れた。

 その先頭に、オーダインが出てきている。

 相当の距離を持った一直線上には、ミネルバの姿がある。護衛として、飛竜から降りた竜騎士がついていた。

「オーダイン将軍、お答えとはこのような形ですか」

「申し訳ありませんが、姫のご希望には添えられませぬ。一度勲章を手放し、守るべき城を捨てた者にすら、陛下は存在をお赦しあそばれた。

 ならば、お応えするまでです」

 オーダインの示した答えに、ある程度の予想の通りと感じつつも、ミネルバは毅然とした態度を崩さなかった。 

「将軍の行いひとつが、未来のマケドニアを変える可能性は十分あります。この今だけでなく、国を存続するために、将軍に協力を願いたいのです」

「それは如何なものかと存じますぞ、姫。儂はこの国で異な地位を得た故、扱いには難しかろうと」

 この発言は、深読みすれば痛烈な皮肉に繋がりかねなかったが、ミネルバは慎重さをもってこれを避けた。

「このマケドニアでは、将軍以来、聖騎士を長らく輩出しておりません。ですから、尚のこと将軍の力をここで失わせてしまうのは、大きな損失なのです」

「……確かに、客観的に見れば、やや時期尚早ではあったな。

 しかし、儂とてこの老体。次代で欠けてしまうとしても、それもまた世代交代の流れと諦め、励むのが中核の務め。姫の配下、天馬騎士の三姉妹などは面白い逸材なのだから、姫こそ未来を見据えられるがよろしい」

 もはやどちらがどちらを説得しているのか混然としている。殊にミネルバの立場からしたら、この今になってお説教を受けている気分も多少は入っていただろう。

 しかし、当のミネルバはそれを不快には思わなかった。このやりとりは、どこか懐かしいものすら感じたほどだったのだ。

 ――もっと早くからこの将軍と強い繋がりがあれば、こんな形にはならなかったでしょうに。

 弱気へ転じそうになるミネルバは、しかし前を強く見据えて奮起する。

 とそこへ、にわかに上空が慌ただしくなった。

 敵陣営の伝令への注意など構わず、この地上に両軍の伝令が息せき切った様子で降り立ち、報告に上がってくる。

 ミネルバとオーダインも水を差された形にはなったが、確かにこの報せは一大事だった。

 そこで語られたのは、ここから王都へ北東の街道を半日ほど行った所で竜巻のようなものが南から北へ通過して、街道の周辺にある林を荒らしていったため、軍勢の通過はおろか、徒歩の旅人すら通れない有様になったのだという。

 これは、オーダイン達マケドニア軍にとって重大な意味を持った。地上の兵にとっては、最有力の退路がなくなった上、陸路の増援・物資の補給がままならなくなったのだ。いくら守りの手を取っているとはいえ、あまりいい状況ではない。味方が下手に動揺を起こさないのを祈るしかなかった。

「何故、このような時に……!」

 歯噛みするオーダインとは対照的に、ミネルバは何事もないかのように冷静な態度を保っていた。

 この竜巻のようなものの正体は、マリクである。マケドニアでは天空騎士が多いせいか、風の精霊の作用が余所とは違うようで、そこを少し利用して、敵の妨害をやってみると語っていた――今頃は不審を見破られないよう、逃げている最中のはずである。

 聞いていた話と比べると規模がやや大きい気がしたが、この機を逃すわけにはいかない。

「もはや、戦うにふさわしい状況ではありません。将軍、降りてはいただけませんか」

「姫、この程度で揺らぐ我らではありませんぞ。

 ――しかし」

 と、オーダインは後ろをちらと後ろを見やった。伝令の報告によって、騒ぎらしきものは発生しているはずである。それが混乱へ発展してしまったら、後ろを守る事そのものが難しくなってしまう。

「鎮める方法は限られてくるであろうな。ひとまず、我らは退く。彼らに情を持つのであれば、お待ちいただきたい」

 そう言って、オーダインは自らの部隊を後方の砦へと下げていった。

 ミネルバもこれを追わず、敵方の動向を注視するよう指示を出したのである。





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