マケドニア騎馬騎士団長オーダインは、国内最南端の城を長年守っている。山地の多いマケドニアで数少ない平原が城の先に広がっており、騎馬騎士がまともに戦力を発揮できるのがここぐらいしかないというのが、守る城を限られている大いなる要因だった。

　敵たる同盟軍は当然海から来るはずだから、初戦の戦場は間違いなくここになり、最近になって軍備が強化された。

　マケドニア主力軍隊の竜騎士団、鉄騎士団、魔道部隊。これだけでも国内の髄をここに集めんとしているのがわかるが、まだ続きがある。

　オーダインら騎馬騎士団よりも体躯・装備に恵まれた黒を基調とする武装の騎士――マケドニアで言う騎馬騎士が整然と城の前に並び、城や周囲では技師の指導の元、戦車の製造が始まっている。グルニアの黒騎士団と戦車隊そのもの、両者の生き残りがマケドニアまで逃れてきて、オーダインの配下となった。

　更にミシェイルから策を授かり、平原近くの森には常にオーダインの兵が潜んでいる。

「老体最後の華を飾るかと思ったが、忙しないものだな」

　オーダインは当年五十八歳。引退を考えていたが、それどころではなくなっていた。

　騎馬騎士団は最初の裏切り者を出した団として、ただでさえ狭い肩身がより狭くなっていた時期があったのだが、ミネルバが同盟軍へ離反してからは矛先が王女本人に向いて、そんな事ももう過ぎ去ってしまった事となった。

　その青年・元バセック伯の子息マチスの噂は去年の秋辺りからぱったりと聞かなくなったので、これはどこかで果てたかと思われたが、その答えは王都から来た魔道部隊の意気込みが物語っていた。

　南の城に派遣された魔道部隊の長アイルは、伯爵の甥で、マチスの従兄弟にあたる。

　オーダインに挨拶した時、烈火の如き怒りを見せて意気込みを語っていたのが印象的だった。

「あの変人だけはどうか、私に討たせてください。陛下に逆らって伯爵家一族の名を汚した奴には槍などもったいない、魔道士わたしの剣で充分です」

　見てみれば、アイルは魔道士の衣の上に剣を佩いていた。

　オーダインはマチスの事を思い出してみたが、それほどまでに怒りを買うような印象がない。厳格さで知られる伯爵の息子とは思えないほど凡庸であった記憶がある。ただ、貴族の出なのに王侯貴族を疑問視する奇妙な言動があったという証言だけは様々な人間から聞いた。

　単にそれだけとも思えたが、波乱含みになるのは違いなさそうだと肝に銘じて、会戦の時へと気持ちを向けることにした。