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「Reinforcement」 1-3





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 そして、マチスが7のカードを四枚揃えたところに話は戻る。

 フォーカードは一度しかカードを換えないこのルールなら、まず勝てる手だ。

 勝てはするのだが、マチスの中では今日の展開がおかしいと思う心がかなり強い。攻めに出てしまおうかと考える欲が今ひとつ湧かなかった。

 これまでの負けは予想よりもかなり少なく収まっている。最初のベッドで早々にドロップしたり、負けに出ていって大きく勝ったことが何度もあったからだ。柄にもない幸運ぶりと言うべきか。

 これは負けに行ったから勝ったのか、それとも今日は大きく出ていった方が勝てる流れなのか。いつもは勝ちに行っても勝負を諦めても負けることがほとんどだったが、今日だけはアテにできない気もする。

 誰かがイカサマで罠を仕掛けているのではと――二回連続でストレートフラッシュが出た時点で、おそらく全員が思っているところだろうが――本気で疑いたくなる。

 今回のプレイヤーはシーダとグラ人、カダイン人、そしてオレルアン人。ディーラーはアカネイア人だった。

 勝ちが巡るようになってからは、シーダが絡んでいようといまいと、一定の割合で勝利が訪れる。だが、おあつらえむきにやってきた連敗レッテル付きの高い役が、マチスにとっては不気味で仕方がない。

 前に勝ったのは四ゲーム前。ここはまだ行くべきではないと判断して、カードを裏向きでまとめて卓の上に置き、降りるポーズを見せた。

 マチスは三番目の席にいたからまずは右に座るふたりのベッドを見届けてドロップするはずだったのだが、隣のグラ人がおやと呟いた。

 引いたカードを裏向きで皆に見せる。

「これ、端が折れてしまっているけど、どうしますか」

 一同の空気がわずかに緊張した。カードに目印がついている状態は好ましくない。嫌な流れの来ている時だからなおさらである。

「折れてしまっている事だし、ノーゲームでいいかな」

 アカネイア人が告げるのに、全員が承諾した。

 マチスにとっては妙な形でケチがついたことになるが、カードが折れていたわけだし、自分が引いた手が悪すぎたから丁度よかったのかもしれない。滅多にない幸運を自分から捨てたと考えるよりは、三回目の罠にかからずに済んだと思う方が気が楽だった。

 カードを別のデッキにしてゲームが再開される。一同が内心で心配していた高位の役は来なくなった。

 三ゲーム目で、マチスは9のスリーカードで勝負に出た。シーダは降り、オレルアン人とグラ人、カダイン人と入れ替わりになったロジャーが残っている。

 何度か賭け額を重ねてオレルアン人が四十を加算した百八十を乗せると、グラ人が降りた。

 マチスの賭け金はここまでで銀貨三百三十枚。ここでドロップしてマイナス千程度で踏み留まるか、千八百枚を超える銀貨の獲得へ行くか。全員がレイズしているから、コールすればカード勝負に持ち込める。9のスリーカードは十分勝負に行ける手だが、オレルアン人やロジャーがそれ以上の手だったら一気に五百以上のマイナスになる。

 もう派手に負けるどころの話ではなく、泥沼にはまり込んでいる雰囲気だった。どのみち、冷静に判断する余裕はない。

 選択を迫られたマチスは、結局コールした。

 次のロジャーは迷った挙句、ここでドロップした。マチスとオレルアン人のカード勝負になる。

 よし、とオレルアン人が拳を握った姿はもう勝利を確信したようだった。

「ずいぶんな自信だな」

 マチスが文句をつけると、相手は不敵に笑った。

「さっきの仕返しをしただけだ」

「さっき?」

「俺に勝っただろう」

 そうだっただろうかと、マチスは不思議そうに首を傾げる。

 ゲームはかなりの回数を重ねているものだから、覚えちゃいない。

 指示に従ってカードを開示すると、マチスの手は9のスリーカード。対するオレルアン人は7のスリーカード。

 同じ役で、ランク差はわずか二。薄氷の勝利だった。

「か、勝った……」

 呆然と呟くマチスの横で、再び負けたオレルアン人が卓へ身を預けるように俯いた。

「せっかく最後にレイズしたのに、負けたら意味がないじゃないか……」

 計算上、最後にレイズした人間よりも最後にコールした人間の方が賭け金が上になる。勝ち方までこだわっていたらしい。

 ともあれ、マチスに銀貨千八百五十枚が入った。負けを取り返すどころか、千近くのプラス収支である。

 こんな事は今までの人生にあっただろうかと振り返ろうとしたが、とりあえずディーラーをやれとせっつかれてじっくりと余韻に浸る間はなかった。

 それからあと一刻ほどをゲームに費やし、陽の暮れかけた時分になって、二時も遊べば十分だろうということでお開きになった。

 マチスの最終的な収支はプラス五百。最後の最後でまたオレルアン人と勝負になり、勝っていた勢いで乗ったものの、他に残っていたアカネイア人に勝ちをさらわれたため、せっかくのプラスが半分消えてしまったのだった。しかし、非常に稀なことに、総合的には勝ちで終わったのは事実だ。

 自らの予想よりも少ないプラスで終わったロジャーが言うには、

「まあ、あれだな。誰だか知らないが、もっとうまくやれというやつだ」

ということだった。

 こういう所ではイカサマも技術のひとつである。仕掛け人として見破られたら非難されるのは当たり前だが、わからない限りは黙っておくのがルールだ。そうわかっていても、胸の底に澱が沈んだ気持ちになるのは否めない。

 帰途につこうとする折、アカネイア人が今日訪れた新顔三人に対して、シーダの事は他言無用だと強く念を押し、また縁があればと別れを告げた。





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