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「Reinforcement」 1-2





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 賭け事の実力はとことん弱いとマチスは自覚しており、自ら下手自慢をすることもある。

 かといって、殊更避けるわけでもなく、時々は部下や気の知れた人間と勝負に興じた(ただし、闘技場の賭けは絶対に手を出すなと周囲から忠告されている。死神になりかねないからだ)。

 反りが合わないとわかっているから、高級将校や貴族が集まる社交を兼ねた賭博場には寄り付かない。冬の間一度も誘われなかったということは、向こうもマチスに近づいたところで得るものは少ないと思ったのだろう。

 それでいいと今までは思っていたのだが、アリティア奪還の戦いが終わってから事情が変わった。

 解放軍のマケドニア勢は軍勢も物も金も、他国の軍勢と比べて乏しい現状にある。解放軍がマケドニア本土で戦った場合、マケドニアの国そのものが受ける傷を少しでも減らすには、ミシェイルから国内の諸侯を引き離して味方にしなければならないが、今のままではそれも難しい。

 そこでミネルバから命令されたのが、各国の高級将校や貴族との人脈をもっと作れというものだった。女には女ならではの繋がりもできるが、男にしか立ち入れない領域も必ずある。だから、この命令は絶対なのだと締めくくった。

 さすがに苦い顔をするマチスに、こんな事は命令される前に自分からやるのが普通だとミネルバの近習が揶揄してきたが、聞かなかったふりをした。

 そうして渋々城へ足を運ぶようになったものの、これまでの所業が災いしてか新規開拓はなかなか進まない。

 ところが、今日になってアカネイア人の将校から誘われたのである。最も難しい部類に入る標的だと思っただけに、これは意外だった。

 話を聞いてカード賭博をやるらしいとわかると、一旦は断りかけた。気まずい相手に恥をかきに行くのは、できれば遠慮したいからだ。だが、賭け事に弱いと言い訳すると、それはそれで負けっぷりに興味があると逆に押し切られてしまった。

 こうした社交の場では負けることもひとつの器量として受け止められる。が、それは格別身分の高い者だからそう見られるのであって、下手な負け方をすれば恥をかくのは変わりない。

 マチスの場合はそういう行動ができるほど懐は暖かくないから、希望通り派手に負けて早々に退き、あとは見物を決め込むしかなかった。

 誘われるまま城内の一角にある某というアカネイアの貴族に割り当てられている館に行くと、卓を囲む面々に引き合わされた。

 この時いたのは四人。全員がゲームに参加できる程度の、ごく少人数で集まるのが常だという。

 自己紹介を聞くと、それぞれがアリティア、オレルアン、カダイン、旧グラと出身地が見事にバラバラだった。今日の常連の面々が偶然こうなったので、どうせなら大陸全ての出身者を集めてゲームをやってみたいという話になってマケドニア人のマチスが呼ばれたのだった。

 アカネイアの将校とマチスが加わり、これで六カ国。カードゲームの人数としてはこれで限界だが、もう少ししたらタリスの人間が来る予定になっていると将校が話し、更にグルニアとドルーアの人間を引っ張って来たいと言ってきて、心当たりはないかとマチスに話が振られた。人数を増やす場合は新しいメンバーが推薦するのがここでのルールらしい。

 グルニア出身者ならロジャーとジェイクがまず思い浮かぶが、じきに迎えるグルニア進攻に向けて解放軍の首脳と終日顔を付き合わせていると聞いているし、ドルーアといえばひとり思い当たらないでもないが、カードゲームをやりたがるかどうかといえば怪しいものだった。

 多分手が空いていないだろうけど、と三人の名前を出したところ、アカネイアの将校は実に面白いと言って使いを出してしまった。

 それから、タリスの人間が来るまで待つのかと思いきやゲームを始めてしまうようだった。そのタリス人はいつも途中から来るのだという。

 これからやるのは五枚のカードで役を作るゲームで、1から13を四絵柄スート揃えた五二枚を使う。ディーラーはメンバーのうちひとりが順番制で務め、賭けには参加しない。残りの五人で一ゲームを賭ける。

 カードを各人五枚配り終えた段階でプレイヤーが参加料アンティを払い、最初の賭けベッドを行う。ディーラーの左側にいるプレイヤーから始まり、賭けビッド競り上げレイズから誰もレイズせずに同賭けコール降りるドロップで一巡してその段階でプレイヤーが三人以上残っていればカードの交換に入る。その後に二度目のベッドを行い、誰もレイズしなくなるまでか、プレイヤーがひとりになるまで続けられ、前者の場合で初めてカードでの勝負となる。

 最低賭金は銀貨二十枚(チップ二枚)で、最高賭金が銀貨四十枚。レイズはひとり一回。誰かがベッドの宣言をするまでは賭け金を払わずに流すパスかチェックことも許される。

 仕切り役をしていたアカネイア人の将校が最初のディーラーを引き受けて、あとの五人はカードを引いて席を決めた。カードのランクによって定められたマチスの席は四番手である。

 いざゲームが始まってみると、最初の五回ほどはマチスの負けが続いた。その内容も、いざ勝負に出たとしたとしても、肝心の役が相手にわずかな差で負けたりするいつも通りの展開だった。

 これは負けの回数を重ね続けるか、無謀な勝負をかけるかで呆れられるべきだろうなと考え始めていたが、七ゲーム目で勝ちが舞い込んできた。今回の勝ち分は銀貨七百九十枚。負けの埋め合わせがほとんどできる額だった。

 予想外の出来事で首を傾げていると、アリティア人の将校も同調するように妙な顔をした。賭け事にめっぽう弱いマケドニア人指揮官の評判はそこそこ有名で、この場に連れてこられたマチスを「熱くなりすぎなければいいのさ」と慰めていたくらいである。

 そして、最後の一騎打ちで負けたオレルアン人からは、弱いんじゃなかったのかと軽く非難される始末だ。

 その後もマチスには時々勝ちが来る。プラスには転じないが、大負けは免れている。勝たせてくれているんじゃないかと冗談でカマをかけてみせたが、そんな勿体ないことはしないと、その時のディーラーであるグラ人が笑って返した。

 そんなやりとりの後、マチスが今日五回目の勝利を収めたところで新たなメンバーがやってきた。

 タリス出身者といえばまずは王女シーダが思い浮かぶが、さすがにそれはないだろうから、来るとすればサジ辺りの戦士の指揮官だろうと思った。

 が、実際にやって来たのはその除外していたシーダである。

 あと一歩で大仰になりそうな驚きを見せたマチスに対し、シーダは涼しげに奇遇ねと言ってみせる。アリティア人に席を譲られて座る仕草には、慣れた雰囲気さえ窺える。アカネイア人が言うには、彼女もここの常連にこっそりと名を連ねていてどのゲームでもかなり強いということだった。

 人は見かけによらないというか、あるいはその天衣無縫っぷりが賭博師の才能まで及んでいるのかは定かではないが、カードを目の前にしたシーダは早くも目を輝かせていた。

 シーダがこのメンバーに入っていることは内密に頼むとアカネイア人に言われ、タリス王女を加えたゲームが再開されることになる。

 ディーラー以外のプレイヤーは五人までとここのルールで決められているので、これからはひとりが三ゲーム連続で休み、次の人間と代わることになる。ディーラーはゲームに勝った人間が務めるルールになった。

 強いと評された通りにシーダは大なり小なりとも問わず勝てるところは狙いたがわず勝ちを収めていく。結果、彼女の勝利数は他を圧倒した。

 人の運を吸い取っているんじゃないかと思うほど、男達にはなかなか勝ちが巡ってこない。勝負できる役ができあがっても、シーダのそれはほとんどの場合で対戦相手を上回っていた。それでいて、勝負できない手が来るなりさっさと降りてしまうのだ。

 そのため、シーダが勝負に出てくると早々と全員が降りることが多くなった。勝利者の義務であるディーラーを務めつつ、これじゃつまらないわと愚痴をこぼすこともしばしばだった。

 一方のマチスはシーダのおかげで十五連敗が視野に入り、これでやっと普段と同じになったかと思っていたが、その矢先でいきなりシーダとの勝負で勝ちを収めてしまった。

 これにはマチスばかりでなく他の男達も同様に驚いたが、その彼らにも対シーダで平等に勝ちが訪れ、シーダの勝率はあっという間に三割くらいまでに落ち込んだ――もっとも、よほどの堅実主義でないのなら、これくらい勝てれば十分な部類ではあるが。

 強いんじゃなかったのかとマチスはシーダを見やると、これはこれで燃えてきたとばかりにタリスの王女はチップを握り込んで不敵な笑みをもらしていた。物騒なことこの上ない。

 そんな状況で最初のゲームが始まって一時くらい経った頃、館の小者に案内されて新たな参加者が現れた。ロジャーとバヌトゥである。

 自分から推挙しておいて何だが、本当に来たのかとマチスは頭を抱えていた。

 ロジャーはまだいいとしても、バヌトゥの場合はドルーアと言われて思いついたのがこの竜人族の老人だっただけで、深く考えたわけではない。どうせ来ないとタカをくくっていたのもある。

 それなのに、本気にして実際に誘いをかけたアカネイア人将校と、人間の娯楽にわざわざ付き合おうとする物好きな竜人族の意思は合致してしまったらしい。

 ともあれ、一応は狙い通りに全ての国から出身者が一同に集まったので、九人はグラスを取って乾杯した。かなり強引な感があるが、これも大陸の縮図である。

 一旦ゲームから離れて歓談の場になると、互いが興味のある人間の所へ行って詳しい自己紹介やらよもやま話に興じる。

 一番人気があったのはロジャーだった。間近に迫るグルニア進撃の作戦にかなりの部分で関わっているはずで、ここにいる多くの人間がその事に強く関心を持つのは当然の事だった。無論、そうした事柄をロジャーが簡単に話すはずもなく、グルニアのお国柄とか黒騎士団の話に終始することになった。

 マチスにもこうした質問は回ってきて、竜騎士やドルーアに隣接している地帯の話などを実に真剣に訊かれたかと思うと、ミネルバやペガサス三姉妹のふたりがどういうものを好きなのかと訊く向きもあり、彼らの本音としては彼女達の方を呼びたかったであろう気持ちがよくわかった。華を求めるのは当然の話である。

 ちなみに、竜人族であるバヌトゥに対しては呼び寄せたアカネイア人がシーダの助けを借りて話をするのが主で、他の面々はほとんど話さなかった。マチスやロジャーは立場上面識があるとはいえ、あまり近しくはないし、残りの人々に至ってはこの距離まで近づくのが精一杯という感じだった。

 歓談を切り上げてそろそろゲームを始めようかという段になって、本当にバヌトゥも参加するのかという声が挙がると、見ているだけだと言って竜人族の老人は首を振った。しかし、それは勿体ないとアカネイア人が言って、一度だけでもとゲームに誘い出した。

 九人にもなるとできるゲームは限られてくるため、配るカードを三枚にして合計数を競うものに変えた。

 このゲームも楽しむには楽しめたが賭けの要素が薄いために、しばらくすると最初のゲームに戻さないかと提案されて受け入れられた。

 これによってバヌトゥがゲームから抜け、三ゲーム休む見物役はふたり。あとのルールはシーダが加わった時と同じだった。

 新顔であるロジャーは、ツキはまあまあある方だと自己申告しており、言葉通りにシーダよりも勝ちを伸ばす場面があった。

 だが、途中からシーダやロジャーが勝ち調子を崩し始める。相対的に他の人間の勝率が上がり、当人にとっては解せないことにマチスの勝ちも未だにやってくるのである。

 それどころか、これなら勝てるだろうと見込まれた手が、さらに上位の役を前に敗れる場面が二度続いた。





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