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「諸記 カシミア〜グルニア戦」 3-8






 ロレンスから来た断りの返答は予想の範疇に含まれていたが、シーダへの態度には敵対心がなく、人格者の証さえ感じさせた。

 ただ、それだけにこの返答が惜しかった。グルニア城の守りを崩せるかもしれないことを加味すればなおさらである。

 解放軍が今までのように全力を傾ければ、グルニアにはまず間違いなく勝てる。しかし、多大な犠牲を払うのも避けられない。

 軍議ではせっかくのきっかけを逃したくないという論と、ここはもう強攻してしまうべきだという論がぶつかり、歴戦の将達はどちらとも結論を出せなかった。

 そんな事が連日続いた夜、シーダは愛馬の前に立っていた。

 ロレンスへの接触を提案したものの、自分の思惑とは異なる事態へ運んでしまった責任を取らなければならないと感じていたのだ。

 書簡で説得するのではなく、最初から直談判すべきだったと直感が告げている。今からでも遅くはない、あとは行動を起こす勇気だけだった。

 マルスを支えたい一心でタリスを出立した時からずっとついてきた。今までそれなりに力になれたとは思う。けれど、命懸けで戦っている人々には及ぶべくもない。

 ここで命を懸けなかったら、もうその機会は訪れない。辺境の王女に与えられる舞台はそう多くないのだ。

 黙って行ってしまう事は、おそらく多くの人に迷惑をかけてしまう。でも、相談しようものなら全員に止められてしまうから、誰にも話すわけにはいかなかった。捕らわれて足手まといになったら、せめて役に立つ最期を選ぶつもりだった。

 そこまでの決意を胸にして愛馬の準備をするために踵を返したところで、こちらを見ているニーナと目が合った。

 咎められる予感がしてシーダは身じろいだが、対するニーナは穏やかな歩調で近づいてきた。

 その視線がシーダの愛馬に転じ、馬体を包むほどの翼に向けられる。

 ニーナはどんな思いで翼を見ているのだろうか。それを考えると、シーダは居たたまれない思いに捕らわれてしまいそうだった。

 言葉なくうつむいていると、天佑ね、とニーナが呟くのが聞こえた。

 顔を上げるシーダにニーナは微笑んで、天からの思し召しは正しく与えられるものだと付け加えてくれた。

 あまり深く考える余裕もなく問い返してしまったが、ニーナは寂しそうに首を振って立ち去ってしまった。

 天佑。ひとり残されたシーダは、ニーナの発した言葉を思い返す。

 それはこの天馬の事かもしれないし、シーダの境遇かもしれない。

 ともあれ、今はそれを生かすことに全力を傾けるしかなかった。





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