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「HARD HEART」(後編)3-4 |
* 戦闘が終わり、司令官の首級を上げたことでマケドニア軍が拠点にしていた城の門は開いた。 そして一応の戦後処理が済んだ後、マチスはボルポートと第四・五隊の隊長を呼び、自分が顔を見せただけで寝返ってくれた理由を聞かせてもらうことにしたのだった。 席に着いてすぐにその話題を切り出したが、隊長ふたりはボルポートの方を見て笑うばかりで話し出そうとしない。 これはボルポートに訊いた方が早そうだった。 「この人達を説得する時に、何て言ったんだ?」 「アリティアの王子が話していた事をそのまま言っただけだ。以前からの思惑通りに、ミシェイル王に反旗を翻し、バセック伯爵子息の名をもって反ドルーアの意志を持つ者を集めている、と。 「期待……?」 「そう。彼らが望むのは、偉人の血を引く者ではなく、話ができる為政者だ。貴殿がわたしと話している時にそんな事を言っていたから、加えさせてもらった」 確かにそれは言っていた。だが、それでは隊長ふたりが笑う理由にはならない。 「でも、それだけじゃ国は裏切れないだろ」 「彼らは、最近は貴殿を受け入れていただろう? 何故だと思う」 逆に質問されたが、マチスはこれといった答えは持っていなかった。出せなかったと言ってもいい。 「あんたは、わかってたのか?」 「自分のために生きようという意志がある者は総じて 「強か?」 「彼らの多くは、生活を良くするために軍に入り、それなりに王には感謝をしていただろう。だが、平民出というだけで、同じ騎士でも位が違うと騎士身分を元から持っていた者から馬鹿にされ、だんだん国のためというよりは、生活がかかっているからという気持ちが強くなっていた。そこに、身分の高低で人の価値が決まるのはおかしいだの戦争など馬鹿馬鹿しいものはとっととやめろと言い出した者が現れた」 「……おれのことか」 ボルポートは軽く頷く。 「最初のうちは、馬鹿にしていたが、考えようによっては、話がわかるかもしれないと思ったのだろうな。生まれた時からの身分が全てという社会を変えてくれるのかもしれない、とも。抱くには小さすぎる希望ではあったがな。 「……じゃあ、あんた、全部わかってたわけか……?」 「伊達に軍に入ってから二十年近くも騎馬騎士団にいるわけではないからな。もっとも、賭けの部分はあったが、アリティアも攻めきれない様子でいたから、多少不確定の要素がある事を試しても同じことだろうと思ってな」 凄まじい洞察力としか言いようがない。これには舌を巻くしかなかった。 マチスは唸りながらも隊長ふたりを見る。 「でも、隊長が駄目だって言えばそれまでだったんだろ?」 「三日前までだったら、ボルポート殿が何を言って来ようが聞かなかったのですが、この城を出撃した日にはもうあの人気ぶりを見てしまっていたから、結局は同じでしたよ」 「頑なな彼らが寝食を共にしようと言い出すのだから、よほどのことなのだろうと思いましたし、それだけひきつけるのなら、その先を見てみようと思ったわけです」 「……」 彼らは笑顔で言っていたが、マチスは凄まじい重圧が肩の上に乗る感覚に襲われていた。 これで負けたら洒落にならないな、と。 |