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「HARD HEART」(後編)2-2






 カインはともかく、捕虜になっていたマチスに替えの服があるはずもなく、荷駄隊の天幕へ行こうという話になった。だが、左腕の傷の処置をしたところが埃っぽくなってしまったため、カインが荷駄隊の方へ行き、マチスはマケドニア捕虜兵の天幕に戻ることにしたのである。

 特に思うこともなく捕虜兵の天幕の中に入ろうとすると、外に出ていたアリティア医療隊員に止められた。

「今は入らない方がいいですよ」

「何かあった?」

 恰好を咎められる前にそう言われたのだから、相当な理由なのだろう。

「捕虜の人達同士で揉めているんです。ボルポートという人があなたについたから彼に倣う人も出てきて……でも、何があってもマケドニアを裏切れないと言う人もいるから……今あなたが入ったら、火に油を注ぐようなものですよ」

 知らない間にえらいことになったものだった。

 放っておきたくはないが、容易に消せない大火事を引き起こすのは御免こうむりたい。

「じゃ、どうするかな……汚れたから包帯替えに来たんだけど」

 そこで初めて医療隊員はマチスの恰好のひどさに気づいたようで、

「どうしたんです、それ」

「……ちょっと変な事故に遭ったんだけど、まぁ気にしないでいいよ。それよか、これどうにかなんねぇかな」

「そうですね……。じゃあ、隣の天幕に掛け合ってみます」

「隣?」

「我々アリティアの負傷兵の天幕です。レナさんもいるから、大丈夫だと思いますよ」

 そう言って隣の天幕へ向かおうとした時、カインが従者を伴ってやってきた。服はそのままである。

「まだだったのか、丁度良かった。どうせだったら服だけじゃなくて顔とかもきれいにした方がいいと思ってな。ここなら水にも困らないし洗ってこないか? 作戦会議とはいえあんたの顔見せというのもあるから、ちゃんと身なりは整えた方がいい」

「そりゃいいけど、川まで行くのか?」

「いや、もう水は汲み貯めてある。いくら対岸の守りがなくなったといっても、夜に行くのは危険だから」

 もっともな話である。

「じゃ、行くか」

「それならわたしもついていきます。道具を取ってくるので少し待っていてください」

 世話焼き気味の医療隊員がそっと天幕に入り、少しして脱兎の如く飛び出してきた。

 そこまでするほどにこの中はひどいのか?

 マチスはそう訊きたかったが、結局は思い留まった。

 要因が自分であるだけに、どんな風にひどいのかと聞くのは恐かったのである。





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