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「HARD HEART」(後編)1-3






 食事の準備が進んでいるというのでこれ以上何かをしても中途半端になるだろう、とマルスの提案で小休止を取ることになった。

 だが小休止になったのは捕虜兵だけで、マルスとカイン、シーダがまた後で来ると言い残して外へと出て行き、アリティアの医療隊員数名は怪我人の様子を見てと、ともかく忙しい。

 兄妹ふたりはというと、天幕の入口近くで座っていた。

 端目には休んでいるように見えるが、マチスにとってはここが正念場だった。

 怪我で意識のない状態から起き上がったばかりなのに難しい問題に当たっていたものだから、疲労の重ね方が健康な時とは段違いに酷い。特に体力的にはかなり辛く、食事を摂った後で眠ってしまいそうだった。

 そんなマチスを、様子を伺っていたレナが気遣っている。

「……大丈夫ですか?」

「今は、どうにかなる。おれよりも、他ん所行った方がいいんじゃないか?」

 レナが首を振った。

「マルス様がこれから忙しくなるだろうから、今くらいしか話をさせてあげられないと仰って……。本当はこんな理由で仕事から離れてはいけないと思ったのですけど、強く言ってくださるものですから甘えることにしました。
 マルス様は姉姫様が囚われの身にありますから、離れていた兄妹ということで同情してくださったのでしょうね……」

 習慣なのか、マチスにだけ対してそうしているのか定かではないが、堅い言葉遣いだった。

 できればこれも直してほしいところだが、急にあれこれと言っても無理がある。

 多分、時が経つうちに変わってくれるだろう。

「ずっとこの軍にいるつもりなのか?」

「兄さんが大変なことを引き受けてくださったのに、わたしが途中で抜けるのはおかしいでしょう?」

「……でもさ、ここにいるってことは親父やアイルとかと戦うことになるんだ。それでもいいのか?」

 マチスはマルスと話している時に竜騎士団の姿を思い浮かべたが、その後でバセック家が指揮する魔法部隊の姿も現れていた。

 バセック家のほとんどの人間は親ミシェイル派である。もし、アリティア軍がマケドニアまで攻め込むことがあれば、激突は避けられない。

 実際に戦うのがマチスやレナではないにせよ、アリティア軍にいる限りは刃を向けているのと同じだった。

「できることなら和睦に応じてもらえればと思いますけど――わたしは人々の助けになりたくて僧になりました。暗黒竜の支配に立ち向かうことは、そのままわたしの志と一致すると思うんです。だから、その意志と相反するのであれば戦うことも仕方がないと思います」

 十六の少女に言わせるには、壮絶な言葉だった。

「……結構、強いんだな」

 きっと同じ境遇だとしても、レナの真似はできないだろうなと心の中で呟く。

 レナは口元に薄く笑みを浮かべている。

「外に出て、色々なものを見せてもらいました。だから、こんなことが言えるんです。
 それも、兄さんのおかげです。……ありがとうございました」

 レナが深々と頭を下げて感謝の意を示したが、マチスには心当たりがない。

「おれが何かやった?」

「わたし、ミシェイル様と結婚したくなかったんです。でも、周りにはわかってくださる方がいなくて……あの時領内の屋敷に行っていなかったら、今こうしていることもなかったと思います」

 話がいまいち噛み合わないが、アイルと口論をやらかした時のことを言っているのはどうにかわかった。

 確かに、その後でレナに礼を言われたが……。

「もしかして、失踪したっていうのは結婚したくなかったから?」

 レナがこくりと頷いた。

「本当に申し訳ない事とは思っていました。でも、道をみつけたのならその道は歩くべきだとルザさんが言ってくれて」

「ルザ?」

 懐かしいというか、むしろマチスにとってはなんでそこで出てくるんだという名前だった。

「そんな事言ったのか?」

 今日は色々と信じられないことを聞いたが、次のレナの答えはその中でも一、二を争うものになった。

「それどころか、わたしをワーレンまで送り届けてくれました。父様の命でそうしてくれたのです」

「あの親父が、レナを逃がす手伝いをした……?」

 目を見開いたらいいんだか、思いっきり細めたらいいんだかで、マチスの顔はぴくぴくと微妙に揺れ動く。

「あまり、わたしの婚約の話は望んでいなかったと聞きました。だから、そうしてくださったのだと」

 嘘ではないとわかるものの、ひたすら意外の感が拭えなかった。

 聞かされたマチスはどう気持ちの整理をつけたものかと軽い混乱のうちにあったが、しばらくの後に深く息を吐いてぼんやりと天幕の天井を見た。

「あの、親父が……か」

 頭の中をいっそ真っ白にしてやりたいと思ったその矢先、ふとある事に気付いた。

「――てことは、おれはそのとばっちりで騎馬騎士団に入れられ……」

 最後まで言う前に口をつぐんだが、すでに遅かった。

 こういう時は何故か、人は普段の何倍も鋭い。

「とばっちりって……もしかして兄さんがここにいるのは」

「そ、そうじゃない! そういう意味じゃなくて!」

 何がそういう意味なのやら。

「おれが言いたいのは、だ」

「わたしのせいで何もかも取り上げられて、指揮権もない、一騎士としてここに送り込まれたのですね!」

 一気に言われてしまった。

 それを言わせたくないがために黙っていたというのに、自分から口を滑らせたのだから話にならない。

 少なくとも弁解はしておかないと、立つ瀬すらなさそうだった。

「何もかも取り上げられたって、おれはむしろ貴族の身分なんかいらなかったわけだし」

「でも、生命を危険にさらしました! さっきのカインさんじゃないですけど、死んでいてもおかしくなかったんですよ!」

 助かったんだからそれでいいじゃないか、と言おうものなら大噴火が起こるのは必至である。

 どうやってこの危機を脱しようかとマチスは色々と言い訳をひねっていたが、ふと妙な視線に気がついた。

 呆れたように見ていたその主は、ボルポートである。

「肉親同士で他愛もない口喧嘩ができるのは、いいことなのだろうな」

 マチスはこの言葉をどう取ればいいかわからず、レナの方は人前で大声を上げてしまったことに恥ずかしくなったのか俯いていた。

「まさか、ちゃかしに来たわけじゃないよな」

「あぁ。わたしを貴殿の下に置いてくれないか」

 世間話でもするかのようにボルポートはさらりと言ってきた。

「……さっきの今で、もう決めたのか?」

「古い言い草だが、負けて捕まった時にわたしは一度死んだのだと思うことにした。志は死んだが、体は生きている。だったら人のいことに、助力を求めている者に力を貸そうというわけだ。
 皆に担ぎ出されて貴殿とやりあったが、人の命を助けるという方向性は嫌いではない。陛下のことや騎士たりうるべきことも考えていたが、もう、それも飽いた」

 ボルポートが肩をすくめたところに、カインが入ってきた。

 三人の取り合わせを視線で一往復する。

「何があったんだ?」

 どういう風の吹き回しかはマチスの方が訊きたいくらいである。

 とりあえず報告をしなくてはならない。

「ボルポートが、おれの下についてくれることになったんだ」

「半信半疑の顔をしてないか?」

「仕方ないだろ。――で、そっちこそ何か用?」

「食事ができたから、それをしらせに来た」

「あんた、ちゃんとした騎士なのにそんな雑用みたいな事もするわけ?」

「ついでだ。どうせそのまま作戦会議の場に連れて行くんだから、かける時間が勿体ない。
 とりあえず、外に出るぞ。足は大丈夫だろう?」

「……まぁ、一応」

「しっかりしてくれよ、これからが本題なんだからな」

 カインの声音には腹に響くような凄みがあった。





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