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「HARD HEART」(前編)3-2






 マケドニア軍の服と鎧を着け、未だ騎乗したままのマルスの元に、カインと従者が駆けつけてきた。喇叭が鳴ってからすぐの事である。

「マルス様、お怪我の方は」

「特にない。みんなは?」

「若干の損害が出ました。歩兵に死者が出ています」

「……そうか。これからはもっと増えるんだろうね」

 カインは積極的には答えなかった。戦いなのだから仕方がないといっても、やはりいたたまれない気持ちになる。

「重傷者の後でいいけど、あそこに僕が突いたマケドニア人がいる。今は生きているけれど、このまま放っておいたら死んでしまうだろうね」

 マルスが指さした方向には、馬の近くで倒れているマチスがいる。さんざん悪態をついていたが、喇叭が鳴った後で力尽きて意識を失っていた。

「投降勧告を突っぱねてきたから助けてほしくないのかもしれないけど、一応手は施してほしい」

「わかりました」

 カインがそう受け答えると彼の従者は馬を走らせていった。リフやレナを始めとする医療隊の元に収容する用意をするためだ。

「ところで、あの風のようなものは何だったんだろうね」

「あぁ……あれですか」

 マケドニア軍のすぐそばの地面に落ちてきた何かはどうにも形容のしがたいものだった。何らかの力の塊が叩きつけてきた、というのが一番近いのだろう。マルスが風と言ったのは風圧の印象が強かったからだ。

「魔道にああいったものがあると聞きました。あれとは少し形が違うかもしれないとも言っていましたが」

「魔道か……」

 マルスが思案しかけたところに一騎のアリティア騎士が近づいてきた。

「カダインの魔道士がマルス様にお目通り叶いたいとのことです。マリクと知らせてもらえればわかると言ってきているのですが」

 報告を聞いていたマルスの表情が変わった。

「マリクだって?」

「はい、そのように……」

「どこに来ている?」

「案内致します」

 マルスは騎士についていく形で馬を走らせ、カインは戦場となった場所のおおよそを回るために二騎から離れた。





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