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「HARD HEART」(前編)1-2






 マケドニアの軍隊は、おおまかに分けて六つある。

 まず筆頭として挙げられるのは竜騎士団。マケドニアの誇る大陸随一の飛行戦闘集団として名を轟かせている。竜騎士の特色として、奇襲に長けているとよく言われるが、真っ向から騎士などの地上兵を相手取った時も圧倒的な強さを発揮しているため、その実力はグルニアの黒騎士団に勝るとも劣らない。基本的に歴代国王の直属で、それだけに入団資格は厳しく定められている。その条件は身分よりも当人の身体能力に重きが置かれていた。

 マケドニア特有の軍隊はもう一つあって、それが天馬騎士団である。天馬騎士を中心に構成されていて、主に偵察や伝達を任務としている。戦闘そのものには、撹乱の役目を負うことが多い。この天馬騎士団とは別に白騎士団があり、こちらは優秀な天馬騎士だけで構成されている。王妹ミネルバの直属で、数こそ少ないものの、竜騎士と同じように戦える集団である。

 歩兵部隊として、マケドニアでは鉄騎士団が設けられている。重装歩兵を要としているその下に、一般的にソルジャーと呼ばれる槍を扱う軽装歩兵を抱えている。竜騎士の資格に届かなかった者や普通に徴兵された者が集まって、マケドニアの軍隊では最も数が多い。

 特に名前がついていない魔法部隊は一部の貴族が取りまとめており、法力を発揮する杖の行使者たる僧侶などは寺院が組織して働きかけて軍では後方支援として割り当てられている。

 最後に、騎馬騎士団。他の国なら騎士団と言われるところだが、マケドニアにおける騎馬騎士の地位は低いため、あえてこう呼ばれている。地位が低いのは、竜騎士の育成に力が入れられているのもそうだが、山と森が多い国内においては非常に使いどころがないからだった。こうしたことから、徴兵される兵の多くは鉄騎士団への配属を希望し、騎馬騎士団は団員の減少に悩まされていた。そんな事態になって、騎馬騎士団は団員確保のために、入団資格をこれでもかというほどに下げた結果、この騎士団には、猟師の出の者や、元傭兵の肩書きを持つ者などが入るようになった。地位の低下に拍車をかけた形にはなったが、数は鉄騎士団に次ぐほどになったのである。

 現在、騎馬騎士団には聖騎士が一人しかいない。その聖騎士であるオーダイン将軍が騎馬騎士団の団長である。若い頃に功績を残して聖騎士の叙勲を受けたのだが、今はいかんせん老齢に近い。そんな彼が引退を考えているところに、とんでもないものを送りつけられた。昨年のことである。

 それがマチスだったわけだが、将軍は非常に慌てた。自身は男爵位の身分でもあるが、当代で手に入れた成り上がりの地位である。対して、マチスは長い謹慎処分を受けていたとはいえ、マケドニアの建国から続く伯爵家の嗣子。配下に置くことにためらいがあったのだ。

 が、蓋を開けてみれば、それは杞憂に終わった。何やら不祥事の後始末のために、貴族の身分は剥奪されていたのだ。それどころか元々貴族だったとは思えない、将軍にとってはいい意味での凡庸さがあった。傲慢でないどころか、権勢さえ作ろうとしなかったのだ。騎士としての資質に関しては問題があったものの、成年してからかなり時間がたって初めて軍に入ったのだから、仕方のないことだと、これは諦めがついた(だからといって、甘くすることはないが)。

 そしてこの出来事は、将軍の人生経験と照らし合わせて全く縁のなかった人と知己を持つことになった。魔法部隊の長を務めるバセック伯爵がその人だが、この場合はマチスの父親と言った方がいいだろう。昨年の六月に現れて、不甲斐ない息子だがよろしく頼みますと頭を下げてきたのが始まりだった。

 その時、将軍は恐縮しきりに伯爵よりも頭を下げて返すのが精一杯だったが、落ち着いてみると風評とは違うと感じた。少なくとも、息子のために挨拶に現れる人ではなく、加えて宮廷司祭として非常に厳しいことで知られ、落伍を許すような人でもないと聞いていたからだ。

 伯爵の行動はこの時ばかりに留まらず、その後も度々将軍に会いに来ては決まってマチスのことを訊いてきたのである。

 これはもしかしたら自らの手元に残したくなったのではと思い、そうした話に持っていこうとしたが、その前に伯爵は人の心を読んだかのように穏やかに笑って、お気遣いなくといなしてしまう。

 しかし、オレルアンへ騎馬騎士団の第二陣が発つと、伯爵の面差しに暗い影が落ちるようになっていた。平面上では変わりなく見えても、言葉を発するとはっきりと現れてしまう。もっとも、それは伯爵が私人として将軍に会いに来ていることも影響しているのだろうが。

 将軍は伯爵が来る度に『思い出話』を聞いてきた。主に子息と令嬢の誕生の頃で、どちらの時も騒動に見舞われたのだという。その話が最後までいくと、二人とももう自分の元には生きて帰ってこないのですがね、と伯爵はそう締め括っていた。

 ここしばらくの間は将軍に接触してこなかった。だが、この日急に彼の私邸に姿を見せたのである。

 いつもは伯爵が自分のことを話すのだが、今日は将軍のことについて尋ねてきた。出自がどうだとか、聖騎士叙勲の頃のことで将軍にはいささか面映いものである。が、あらかじめ調べがついていたのか、尋ねるというよりは確認のようだった。

 そして、それらが終わると伯爵は、

「あれの父親は、将軍のような人であったほうが良かったのかもしれませぬな。なれば、尊敬もできたかもしれない」

と言って、俯いた。この私邸では気弱な発言が多いが、これは過ぎるほどのものだった。

「何を言いますか。そんなことは」

「型にはめようとしたのが間違いの元だったのです。
 ……そう、させてください」

 将軍が最後まで言う前に、伯爵は首を振った。

 無理矢理に心の整理をつけたような伯爵の言葉は、自らを針の筵に立たせているようでひどく痛々しかった。





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