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FIRE EMBLEM 暗黒竜と光の剣(2+3) 「HARD HEART(前編)」
(「HARD HEART」完全版:2005年8月)



Novels FIRE EMBLEM DARK DRAGON AND FALCION SWORD
2&3
604.05
[ORLEANS]




(1)


 会議の場から出てきた騎士が、訝しげに訊いてきた。

「……二百というのは少なすぎないか?」

「二年前に生き残った数が少なかったんだろうよ。それに、数が多いのならこっちに来ないで、一旦船で行ける所まで行く方が安全だろ。地の不利で山賊共に叩き潰されるのがオチだ」

「けど、そのサムシアンがたった二百に破られたんだろう? ……あの連中の腰が引けたりしないといいんだがな」

「腰を引くようなかわいい奴らだったら、我々の誘いなんかに乗ってきやしないさ」

 壁越しに聞こえてくる一方通行同士の話を耳にしながら、マチスは壁によりかかってぼんやりとしていた。

 マケドニアの騎馬騎士団に放り込まれてからじきに一年。貴族の身分を剥奪され、ただの騎士になって訓練の日々を送るにつれて(本当は騎士見習いを経て騎士になるのだが、その手順を踏んでいたら時間がかかってしようがないらしい)、先のことを考えないようにぼんやりとする事が多くなった。

 誰が考えたのか、訓練の内容は鞍上での槍の扱いなどといった騎士らしいものもあったが、その他の時間は市場での力仕事(それも、ひどい重労働ばかりである)を延々とするという非常に変わったものだった。普通の軍隊にいることに比べたら精神的な疲労はほとんどないようなものだったが、その代わり体力を毎日のように使い果たしていて、他に考えたりする力が残っていない。最初のうちこそ、こんな軍は一刻も早く逃げだしてやろうと思っていたが、その前に気力が尽きてしまったというわけだ。そのせいか、半年余りの訓練期間を終えてオレルアンに送り出された今になっても、ぼんやりとする習慣が抜けずにいる。

 それでも、騒ぎ立てている内容は頭の中で結びついていった。

 二百というのは、二ヶ月前――三月にタリスを発ったアリティア王子の軍勢の数で、二年前に祖国から落ち延びた残党がタリスに身を潜めていたのだという。それがオレルアンにいるアカネイア王女ニーナの打倒ドルーアの檄に呼応して、合流しようと進軍しているらしい。現にオレルアンの南にあるサムスーフ山の盗賊・サムシアンが、三日前に彼らによってほぼ壊滅状態に追い込まれたという知らせがこの城にもたらされていた。この一両日中にもアリティアの軍勢が山を越えて、オレルアン南部の草原地帯に現れるだろうと言われている。

 オレルアン南部には鉄騎士団から若干の兵が来ているものの、主に配置されているのは騎馬騎士団だった。その数は七百。これに加えて、南部の指令ベンソンは三百人のサムシアンを金で雇い入れ、サムスーフ山からの北の下山口に近い湖のそばに配置させている。それというのも、サムスーフからアリティアが来た場合は雇い入れたサムシアンに迎撃させて、数を削ったところで城に残しておいたベンソンの騎馬騎士団を投入し勝ちをもぎ取るつもりだったからだ。

 先に騎士達が話していたように、アリティアがサムスーフを通らないことも予想されていた(というか、その可能性の方が高いとベンソンは踏んでいたのだ。堂々と旗上げをするほどの軍勢なら、サムスーフを越えるのはマイナスになる。時間がかかりすぎるからだ)。だから、来るかどうかわからないアリティアを待ち伏せるよりも、騎馬騎士団を城に残して、北部に潜伏しているオレルアン王弟ハーディンが動きを見せた時に、総動員して北部のマケドニア軍の元に駆けつけられるようにした方が得だと考えたのだった。

 しかし今は南からアリティアが来ようとしている。三百と二百で微妙なところだが、ベンソンの描いた青写真はあまり変わらない。上前をはねるだけだ。

「……なんか、くだらねぇなぁ……」

 そう言ったマチスの目はどこも見ていないようだった。





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