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FIRE EMBREM 暗黒竜と光の剣
「買い出し」
1-2








「あんた、これからどうするんだ?」

「広間の方の手伝いでもしようかと思ってるけど」

 そう言っていた矢先、カチュアが駆け寄ってきた。

「この際――あ、カインさん、もう大丈夫なのですか?」

 最初の言葉がひっかかるが、カチュアはカインの方を優先したらしい。

「えぇ、もう治してもらいましたが、何かありましたか」

 カインの問いに、カチュアはひとつ頷いてから答えた。

「糧食を積んだ荷駄隊の車が、大勢の住民に囲まれているのです。押さえようとしたようですけど、そのうち応戦のようになってきているみたいで……」

 誰からともなく彼らは歩き始めていた。マチスはどうしたものかと思っていたが、ふたりに一応ついてきてと促され、渋々ついていく。

 ……多分、できることは何もないと思うんだけどな。

 マチスの思いとはよそに、話は進んでいく。

「鎮圧はできるとのことでしたけど、やはり数はあった方がいいと思いまして」

 だからマチスに「この際――」と言おうとしたのだ。その後には「――誰でもいいから手伝って」と続く予定だったのだろう。

「糧食を奪われるのはともかく、荷台が破損していなければいいのですがね」

「荷台、ですか?」

 意外の感を隠さないカチュアにカインが頷きを返す。

「おそらく、この後様々な物資の調達に行くと思うんです。今までは業者に頼ってきましたが、今回ばかりは我々が動いた方が早いでしょう。ただ、肝心の荷台が使えなくなると厳しいでしょうね」

 三人は城に入り、瓦礫の間を抜け、正門から出る。城下では解放に喜びあう住民の姿があったが、それには目もくれずに荷駄隊のいる東の城郭に向かう。

 戦闘が終わった時点で荷駄隊も城内に入れてしまえばよかったのだが、通用門は東西ともに派手に破壊されており、容易には入れない。正門は住民がつめかけたため、割り込むのもどうかということで仕方なく外にあったままなのが仇になった。

 荷駄隊の持ち物は糧食の他に、武具などもあるにはあるが、それらは予備としての意味合いが強い。

 さて、荷駄隊がいるにもかかわらず、何故預かり所をつかうのかというと――と、まずこの施設の紹介をしなければならない。預かり所とは手数料を取って荷を預かっておく、ただそれだけの所なのだが、どうも今となっては同盟軍の専属らしい。ご丁寧に行くところ行くところついてきてくれている。

 そして、どうして預かり所を利用するのかというと、アリティアの残存勢力がタリスで旗揚げをした時、あまりにもその数は少なく、自前で荷駄隊を持てなかったのだ。そこで乗り出したのが預かり所である。海賊崩れではないかと思える容貌で、言葉もやや乱暴なのだが信用はできた人物である。オレルアンの解放で、アリティアとオレルアンが合わさる形で同盟軍となると、荷駄隊の組織も完了して仕事がなくなったかと思いきや役割はそのまま続いた。荷駄隊の担当したものがなくなった程度である。帳面などの手続きが楽だから、というのが一番の理由で今も遣われている、というわけだ。

 と、その預かり所の親父の姿が見えた。

 前方の騒ぎを遠巻きにして見ているらしい。

 三人に気づいて振り返ってくる。

「ありゃ、ひでぇな。あんたら騎士だろ、どうにかならねぇのか」

「どうにかしに来たんですよ」

 そう言ってカインとカチュアは仲裁に入っていった。

「お前さんは?」

「おれより強そうな人が冗談言わないでよ」

「一応騎士だろうが」

「一応ってついてる時点で、ああいう中には入らない方がいいんだよ」

 目茶苦茶な論理でかわしたマチスだが、本当のことである。

 荷駄隊に残っていたのは二十人余り。詰めかけている住民は今は五十を切るくらいだが、このままでは増えていきそうだった。

 ふたりが収めてくれればいいが、そうなるとは限らない。

「応援呼んだ方がいいな」

 ひとりごちて来た道を引き返そうとしたが、破壊されている通用門を通った方が早いと判断し、騒ぎの横を抜けて足元の安定しない道を通っていった。

 ……しかし、よく知らない所は通るものではないことを思い知ることになる。

 城の東には回廊に繋がる門がある。扉は閉まっていて、棒でノブ同士を戒めていたが、それはささやかなものでしかなく簡単に抜けた。

 片側を少しだけ開いて先へと行こうとしたが、足がその場でぴたりと止まった。

 先は何も見えない。完全に闇になっている。

 息をするのもはばかられるような気がして、マチスは一歩退いて慎重に扉を閉めた。

 あの先に何があったかわからなかったが、行ってはならないような気がした。その一点のみでマチスは近道を諦めたのだ。

 だが背を向ける気にはなれず、扉を見たままじりじりと下がっていたのだが、そこへ肩を叩かれた。

「!」

 さながら真夏の心霊体験特集だが、それどころではない。なんだ、心霊って。

「その棒、かけておいた方がいいと思うよ」

 すぐ近くで助言してきたのはアリティア王子マルスだった。

「……あの」

「はい?」

「ど〜してこんな所にいるんです?」

 さっきまでの恐怖はどこへとやら、不思議に変わった。

 にこにことテラスかどこかで手を振っているはずの人が、何故にここに?

 しかし、当のマルスは訊いてきたマチス以上に不思議そうな顔つきになる。

「何言ってるの?」

「何って」

 あんた、こんなとこにいちゃあ駄目でしょうが、といった意味のことをマチスが言ってやろうとした時、マルスが『あ』と声を上げた。

「あぁ、そうか。悪い悪い忘れてた。僕……じゃなくて、おれチェイニーだよ。どうも化けると口調までうつっちまって」

 マルス、もといチェイニーが苦笑いをする。

「……で、そこには本当に入らない方がいいよ。さっきの戦いでドルーア軍がそこから詰め寄せてきて、凄いことになったんだけど、まだロクに片付いてない。死体も残ってる」

 けろりと言ってのけるチェイニーとは対照的に、マチスはもう逃げ出しそうになっていた。

 自分が参加していた戦いならまだしも、中身を知らない戦いでは死体を見るにも一般人と同格の度胸を要する。礼を失する事だが、恐怖の前にはそんなのは何の役にも立たない。

「どこ行こうとしてたの?」

「城の奥の方。暴動が起こったから……」

 そこまで言って、マチスは一旦口を閉じた。

 もしかしたら、このマルスもどきチェイニーでどうにかできるのではないかと思ったのだ。

 だが、本物の威光にはかなわないだろうなと思い返す。

「とりあえず、人を呼んでこなきゃなんないんだよ」

「……おれ、行こうか?」

「ボロが出るだろうに」

「大丈夫だよ、うつったのをそのままのノリでやればいいんだから」

 信用ならない言い分だが、正面から城に戻って呼ぶまでのつなぎにはなるだろう。失敗しないうちに、真打ちを登場させればいい。

 ……何とも計画性のない理屈で、偽者とはいえマルス以上の真打ちなどこの場合に存在するのかどうか危ういところだったが、これ以上自体を延び延びにするのはよくない。仕方なく連れていくことにする。

 歩き出す中、マチスは少し気になっていたことを訊いた。

「どうしてマルス王子に化けてるんだ?」

「荷駄隊、だっけ。そこから荷台を借りるんだよ。『一番効果があるのは僕だろ』って王子が言うから」

「……はい?」

「王子が物資調達の音頭を取ろうとしてるんだけど、手が放せないから、おれが代わりに直接交渉に乗り出せって。折角味方になったのに、そこが駄目になるのは厭だから引き受けたってわけ」

 歩きながらそうするのも何だが、マチスは額に手を打ちつけたい思いになった。

 その荷駄隊が結構に危機にさらされているのだ。まぁ、丁度いいと言えばそうなのだが。

 通用門を抜けて、現場に戻ると少しは収まっていたが決定的ではない。

「じゃ、頼むわ。おれ、他の人呼んでくるから」

 マチスが行こうとしたが、チェイニーに止められた。

「この程度なら大丈夫だよ。裏に行っててくれ。ジェイクやベック達がいる所だから」

「へ?」

「やること多いんだから、無駄に動かれると困るんだ」

「……」

 ぴしりと言われてしまうと、何も言えなくなってしまった。まして、この場では姿はマルスなのだから、語気を荒げて反論などしようものならカインやカチュアだけでなく、一般人からも総スカンをくらう。

 こいつはチェイニーだと言ったところで、本人が本物だと言い切ってしまえば嘘つきはマチスの方になる。

 しかも、どうやらチェイニーはマルスの代わりに動いているような感もあるから、言う通りにした方がいいのだろう。

 釈然としないものがなくはないが、物資調達のために動いているんだからそれでいいんだろうと納得して、マチスは騒ぎを迂回していった。





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