トップ同人活動記録ELFARIA非公式ノベライズ[1] INDEX>1章 水の国カナーナ 4-5



ELFARIA [1] 4-5




 玉座の間には数多くの天魔が控えていたが、『火』の者達の前に呆気なく散っていった。

 アーバルスの放つ火の魔法が周囲に紅蓮の渦を作り、ジェニスが的確に天魔を突き、アルディスは縦横無尽に槍を繰り出す。そうして一時的に邪魔者のいなくなった道を、ファーミアがついていく。

 アルディスの槍は、騎上で扱うような物を基本にして大きさなどを徒のために合わせている。専ら突くための武器だが、相当な筋力と敏捷性がなければ扱えない。なお、女性であるジェニスが扱うのは、この槍の三分の一以下の重さの物である。やや細身になっているが、こちらの方が普通の槍兵が扱う槍の重さに近い。

「雑魚に用はない!」

 全身を赤く包む鎧と、その重い槍があるにもかかわらず、アルディスの動きは敏捷そのものだった。素早い『風』の天魔を相手にしても引けをとらないどころか、動きの速さは明らかに上回っている。

 アーバルスの火の魔法が赤々と舞い、火の粉が降り注ぐ中をアルディスは向かってくる魔物に対して踏み込んでゆく。

 ラの理とメルド技術を戦術に用いなかった頃と、今とでは、その差は歴然としていた。いくら腕に覚えがあっても、敵を知ることは重要な事だったのだ。逆に言えば、メルドの技術がなければ今のアルディスの戦いぶりは成立しない――それを忘れてはならなかった。

 玉座の間を半分ほど過ぎると、少し段の高い玉座に居るものの姿がはっきり見えてきた。

 紫の布を被ったそれは、世辞にも人と判断するのは難しかった。無駄に大きく丸い胴体が、青い頭貫衣で包まれ、緑色の、顔はおろか腕までもが無数の小さな瘤で覆われた素肌は、とてもじゃないが、見られたものではなかった。

 ヨピナスの身長は長身のアルディスよりも遥かに高かった。その上で、玉座の上にいるという差が生じてくる。

 それを承知していてか、天魔僧正の表情には余裕が見られた。

「ここまで来おったか」

 玉座の前で構えたアルディスの後ろにジェニス達が集う。視界の隅にはまだヨピナス配下の魔物が見えたが、カナーナの兵士達が人海戦術で掃討をかけていた。

 アルディスは心置きなく、ヨピナスだけに意識を集中する。

「不本意だが、カナーナ人に代わって貴様を倒す。俺はフォレスチナの騎士アルディスだ!」

「くく、敗残の身でここまで来たか。愚かしい」

 ヨピナスは骸骨の杖を振りかぶり、風の魔法を放った。

 烈風に逆らってアルディスはその中に飛び込み、槍を下から上に振り上げた。いささか乱暴なやり方だが、魔法を分散させようというのである。

 本来、この風は立っているだけで精一杯なほどに勢いは凄まじいはずだった。騎士の戦装束として身につけたマントは、ひどく邪魔になるに違いなかった。

 しかし、『火』の勇者にはそれが通用しない。

 槍に分断されて勢いの弱まった風が玉座の間の垂れ幕という垂れ幕を前後左右に大きく揺らせる。それによって誰かが迷惑をこうむることはなかった。

 穂先を天井から直角に下げ、アルディスは間合いまで踏み込んだ。ヨピナスの正面を突くと見せかけて、骸骨の杖を握る右腕に槍身を叩きつける。柄ではない円錐形のそれは鋼鉄であるばかりか、メルドが施されている。腕を砕いた手応えはなかったが、ヨピナスの杖は右手から離れて床に落ちた。

 その間隙を突くように、アルディスの横からジェニスが腰だめに構えてヨピナスを突く。どこかを狙ったというよりは、ともかく当てていこうという節が見受けられた。

 腹に向かっていったジェニスの穂先は左手で握られたが、引き戻そうとはせずに、柄を捻ろうとした。槍を握られているからほとんど動きはしなかったが、刃のついた穂先がヨピナスの手を傷つけて、赤く濡れていく。

 得物を捕えたヨピナスは左手から血が流れるのにも構わず、穂先を握りこんで槍を引っ張った。魔物の力は存外に強く、ジェニスは体を引っ張られて体勢を崩した。咄嗟の判断で手を離したものの勢いは止められず、台座の階段に腕からぶつかってしまう。

 そのジェニスにヨピナスの両手が迫った。と、それをアルディスの槍が突き砕いた。

 悲鳴を上げたヨピナスに追い討ちをかけるように、後方からアーバルスの火の魔法が飛んできて、天魔僧正の体を傷口ごと焼く。

 その間にジェニスは討ち捨てられた自分の槍を取り戻し、側面からヨピナスの肩口を突いた。肉をえぐってそぎ落とすその動作の瞬間、手を失った左腕がジェニスを横薙ぎに打ち、床に叩きつける。無防備な体勢から起き上がろうとすると、第二撃がジェニスを正面から襲い、胸甲をへこませた。

 標的にされたのを悟ったジェニスは、再び体勢を整えながらちらりとアルディスを見た。

 彼は狙われ始めたジェニスをかばう節すら見せない。しかしそこに彼女はアルディスの狙いを見出した。

 致命傷を負わせるには、ただ一撃だけでいい。その一撃をくらわせるための、大きな隙を作らせるのが彼女の仕事だった。

 ジェニスは襲いかかるヨピナスの腕を槍と自分の腕につけた小型の盾でしのぎならが、その瞬間を計っていた。防戦一方に転じた彼女は、攻撃を受けるたびに腕に強い衝撃を受けてしまうが、ここは必死に耐えるしかない。

 しかし、アルディスの存在が気にかかったのか、ヨピナスはジェニスを標的にするのをやめて、後ろを振り返ろうとした。

 そこへ、ジェニスは槍を上段に構え、突き出した。

「馬鹿め!」

 そんなものは見通していたとばかりに、胴体をめがけて仕掛けてきたジェニスを槍もろとも叩き落そうと、ヨピナスは左腕を振り下ろした。

 その瞬間、がら空きだったヨピナスの右脇腹に、円錐形の槍が深々と突き刺さる。

 ヨピナスが信じられないものを見たような顔をしている間に、気配を消していたアルディスは槍を捻って引き戻し、ヨピナスの腹をはらわたごと裂いた。大量の血が外に流れていく。同時に、唇から血の漏れるヨピナスの頬をジェニスの槍がこそげ取った。

 ジェニスの体に治癒魔法の淡い光が少しだけまとわりつき、腕の痛みを癒して消える。彼らと十歩くらいの距離まで近づいていたファーミアもまた、集中攻撃を受けたジェニスを治療する機会を窺っていたのだ。そして元巫女の少女は、ヨピナスに狙われないよう、全速力で後方へと走っていった。

 ジェニスがすかさずヨピナスから離れるのを見て、アルディスはべったりと血のついた槍をヨピナスの胸板に叩きつけた。

 槍の重さと衝撃で、ヨピナスの体が背中から倒れる。

起き上がる機会を与えまいと、アルディスは執拗にヨピナスの膝を砕いた。加勢に入ったジェニスに胴体と頭だけは避けるように言って、肉と骨を砕いていく。

 抗議か詠唱かそれとも悲鳴か、ヨピナスの口が動いたが、言葉は発せられずに血が流れるばかりだった。

 腕で破れた頬を押さえて、ようやく言葉が出てくる。

「きぃ…………きさま……らぁ……」

「安心しろ、俺は前座だ」

 天魔僧正の足を完全に潰したところで、アルディスは玉座の間の入口の方を振り返った。

 雑魚との戦いを続けているであろうパイン達に向かって叫ぶ。

「パイン! ジーン! とどめはお前達に任せる!」





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