トップ同人活動記録ELFARIA非公式ノベライズ[1] INDEX>1章 水の国カナーナ 3-5



ELFARIA [1] 3-5




 アルディスが火のしるしに手をかけると、かたんと音を立てて簡単に外れた。

「外れた……」

「神官様が言った事は本当だったのね」

「実感はないけどな」

 パインから預かっていたブルージェムを取り出し、台座の空洞に入れる。

 ブルージェムは生き物のように台座の中で拡張と収縮を繰り返し、掌に乗るほどの大きさだったそれは、手そのものよりも大きくなって台座の空洞を埋めきった。

 すると、聖地の置くから水が噴き出して周囲に澱んで溜まっていた水を押し流し、同じ方向から冷風が吹いてふたりを煽った。

 強い風の流れは先ほどまでの蒸し暑さを吹き飛ばして、汗を引かせる。だが、その風はふたりの体温を奪い始めた。

 涼しかったはずの風がいつのまにか木枯らしのように感じられ、最後には身を切るような冷たさになった。

 この寒さにたまらず、ふたりは背に流すだけだったマントを体に巻きつけた。いっそのこと聖地から出ようとも考えたが、風の冷たさが段々と和らいでいく。まるで一年を早回しにしたようだった。

「こうして冬にしてから、春に戻すのかしらね」

「そうかもな……。――フォレスチナも聖地が荒らされているんだろうな」

「そうね。多分そうだと思う。でも、頑張りましょう。ここだってちゃんと元に戻せたんですから」

 水と風の奔流が聖地を冷やしきって、勢い良く吹き出していた水は穏やかな一本の流れへと変わった。それに伴って、風が暖かくなってきた。

 それからしばらく待っても変化が起こらないのを見て、ふたりは階段を上がり始めた。聖地の沈静化が終わったと判断したのである。

 風の感触を身に受けながら地上に戻ると、そこで待っていた神官から深々と頭を下げられた。

「ありがとうございました。これで魔物もこの国では好き勝手はできないでしょう。
 それと……この子をお願いします」

「承知致しました」

 頷くアルディスに、神官が恭しく杖をかざした。

「皆様に、ラの祝福がありますように」

 聖地の神官に見送られて神殿の外に出ると、目の前の花畑が幾日かぶりの春風に揺られていた。

 その様は楽しそうで、春の謳歌を誇っているようにも見えた。





BACK                     NEXT





サイトTOP        INDEX